著者
飯島 慈裕 堀 正岳 篠田 雅人
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2016, 2016

1. はじめに <br>ユーラシア大陸での冬季寒気形成は、モンゴルにおいて家畜が多大な被害を受ける寒害(ゾド:Dzud)を引き起こす主要な自然災害要因である。12~3月にかけての低温偏差の持続が、家畜被害と直結する。寒気形成は、継続した積雪面積の拡大と上空の強い低温偏差の維持が関係し、ユーラシアでの地上の低温偏差の強化は、上空に移流してくる北極由来の強い寒気が近年の要因の一つと考えられている(Hori et al., 2011)。特に、北極海の一部であるバレンツ海の海氷急減と対応して、北極の低気圧経路が変わり、それがシベリア高気圧の北偏を促して大陸上への寒気の移流を強めるパターンが提唱されている(Inoue et al. 2012)。 <br>本研究では、2000年代以降のユーラシアでの寒気流出・形成パターンの特徴をとらえるため、再解析データを用いた寒気流出事例の抽出と、その気候場の特徴を明らかにするとともに、高層気象、地上観測データと衛星による積雪被覆データから、ユーラシア中緯度地域での寒気形成について、近年の大規模なゾド年であった2009/2010年冬季を対象として事例解析を行った。<br><br>2. データならびに方法 <br>本研究では、はじめに長期的な寒気流出状況を明らかにするため、1979~2014年の欧州中期予報センター(ECMWF)の再解析データ(ERA-interim)を用いて、北極由来の寒気流出頻度を算定した。寒気流出は、冬季(12~2月)のバレンツ海領域(30-70˚E, 70-80˚N)とユーラシア中緯度領域(40-80˚E, 30-50˚N)との地上気温の15日移動相関が有意となり、かつバレンツ海領域で気温が正偏差の場合とした。 <br>また、2009/2010年冬季でのモンゴル国ウランバートルでの高層気象データ(NOAA/NCDC Integrated Global Radiosonde Archive)とウランバートル周辺でのJAMSTECによる地上気象観測データから、上空寒気移流と逆転層発達に伴う寒気形成過程を解析した。 &nbsp;<br><br> 3. 結果 <br>1979~2014年冬季の北極由来の寒気流出イベント数の時系列によると、2000年以前は、39事例であり、頻度は最大5回、平均1.8回であった。一方、2001~2014年は46回あり、最大7回(2006年)で、平均して3.3回であった。これは、毎月1度は北極由来の寒気移流が起きる状況が近年継続して現れていることになり、その頻度が増えていることを意味している。この長期変化傾向に対応して、2000年代以降は、バレンツ海領域では冬季の気温上昇、ユーラシア中緯度領域では低下傾向が有意に現れていた。 <br>続いて、2009年12月のウランバートルでの寒気形成事例を解析した。12月10~19日にかけて、地上気温が-30℃以下となる寒気が継続している(①期間)。この事例では、9日以降上空の寒気移流と対応して地上の下向き長波放射が急減している。2009年は11月からモンゴルの積雪が拡大しており、放射冷却が進みやすい条件となった。この間、地表から対流圏下層はシベリア高気圧の発達による弱風条件が継続したこともあり、接地逆転層が安定して維持・発達し、寒気が長期間にわたって形成・維持される環境となった。一方、12月24日以降も同様に上空の強い寒気移流があった(②期間)。しかし、対流圏中層から地上まで風速が10m/s以上に達する撹乱によって逆転層の形成が阻害され、-30℃以下の寒気継続は4日間程度と短かった。 <br>以上の結果から、ユーラシア中緯度上空には、北極気候変化に関連してもたらされる強い寒気移流、下向き長波放射量の減少、広域の積雪被覆状態、高気圧発達よる撹乱の減少、によって地表面放射冷却が強まり、逆転層の形成・維持によって異常低温が継続されたと考えられる。今後は、広域積雪をもたらす大気状態と、その後の寒気形成との関係などについて、さらに解析を進める予定である。

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