著者
倉田 和範 林田 一成 峪川 優希 渋谷 諒 安部 大昭 松本 和久 小幡 賢吾
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2015, 2016

【はじめに,目的】患者の全身状態の把握や予後予測を行う上で,身体機能評価は重要である。その評価方法としてTimed-Up-and-Go-Test(TUG)やFunctional Balance Scale(FBS)など,転倒のカットオフ値が設けられたテストは複数存在するが,それぞれ患者に努力歩行を要求したり,評価に時間を要したりと,入院中の活動性が低下したリハビリテーション(リハ)開始早期の患者には適応できないことが多い。Short Physical Performance Battery(SPPB)は,地域高齢者を対象とした身体機能のスクリーニングテストの一つであり,死亡率や施設入所の予測因子になると報告されている。SPPBは①立位テスト②4m通常歩行テスト③5回の椅子起立着座テストから構成されており,その特徴として短時間に安全かつ簡便に評価できる点が挙げられる。そこで,SPPBとその他の評価法の関係性を調査し,入院患者におけるSPPBの有用性を検証することを本研究の目的とした。【方法】対象は平成27年9月から2か月間のうちに当院を退院した,65歳以上の患者67名。このうち急遽の退院,認知症および精神疾患,患者の同意が得られない,寝たきりを含む立位保持不可等の除外基準に該当した37名を除く,30名を調査対象とした。評価項目はSPPB,TUG,FBS,Functional Reach Test(FRT),Body Mass Index(BMI),握力,等尺性膝伸展筋力および30秒椅子立ち上がりテスト(CS-30)とした。それぞれの患者の退院前1週間を評価期間とし,原則1日で評価を行った。検者間測定誤差を防ぐため,検者は各評価方法を熟知した4名に限定した。TUG,FRT,握力および等尺性膝伸展筋力はそれぞれ2回ずつ行い,平均値を代表値とした。SPPBと各測定項目の関係性を,spearmanの順位相関係数を用い検討した。次に転倒のカットオフ値として報告されているFBS 45点によってROC曲線を求め,SPPBの転倒カットオフ値を算出した。【結果】男性9名女性21名,平均年齢82.9歳。下肢の骨折等による手術後11名,上肢や腹部など下肢以外の手術5名,その他保存療法14名。SPPBとの関係性はTUG(ρ=-0.82),FBS(ρ=0.89),CS-30(ρ=0.76),握力(ρ=0.60),FRT(ρ=0.65),等尺性膝伸展筋力(ρ=0.42)であり,すべて有意な相関を認めた。BMIは有意差を認めなかった。FBSの転倒カットオフ値から算出したSPPBの転倒カットオフ値は,7点であることが分かった。【結論】SPPBはFBS,TUG,FRTと強い相関関係にあることが示された。これにより,入院患者に対しSPPBを用いることで,より安全かつ簡便に客観的な評価を行える可能性が示された。SPPBは立位保持,歩行,起立から構成されているため,立位保持可能であればTUGやFBSでは困難な,リハ開始早期からの身体機能スクリーニングが可能である。また,このことから退院時評価と比較することで経時的な変化も捉えられる可能性がある。今後は症例を重ね,障害部位による違いや,これらの経時的な変化に関して検討したいと考える。

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