著者
都能 槙二 中嶋 正明 倉田 和範 迎山 昇平 龍田 尚美 野中 紘士 秋山 純一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.F1015, 2008 (Released:2008-05-13)

【目的】関節拘縮は生じると日常生活に支障をきたすことがあるため、その発生を未然に防ぐことが重要である。関節拘縮の発生予防に対して温熱療法と運動療法を併用し、その効果は知られている。しかし、温熱療法のみで関節拘縮の予防効果を検討した報告はない。そこで今回,我々は温水負荷による温熱療法が関節拘縮の発生予防に対して単独で効果があるのかを検討し興味深い知見を得たので報告する。【方法】関節拘縮モデルの実験動物として72週齢のWistar系雌ラット30匹を使用した。関節拘縮モデルの作成は右後肢を無処置側、左後肢を固定側として左膝関節を屈曲90°でキルシュナー鋼線による埋め込み式骨貫通内固定法によりに固定した。固定処置後のラットは無作為に、温熱療法群と対照群の2つに分け、それぞれ2週間固定、4週間固定、6週間固定の5匹ずつに分けた。温熱療法は固定後3日間の自由飼育の後、41°Cの温水に下腿部を15分間、一日一回,週5回浸漬した。関節拘縮の進行の度合いは関節可動域を測定し評価した。関節可動域の評価は温水負荷期間終了後、麻酔下で膝関節に0.049Nmのトルク負荷にて最大屈曲角度、最大伸展角度を測定した。組織学的評価は川本粘着フィルム法を用い、矢状面で薄切しHE染色を行った。【結果】関節可動域は、関節固定前が135.7±7.4°、2週間後、温熱療法群が66.2±5.7°、対照群が64.8±7.9°、4週間後、温熱療法群が59.8±6.8°、対照群が45.0±3.2°、6週間後、温熱療法が53.4±7.7°、対照群が43.4±4.5°であった。2週目では有意差は見られなかったが、4週目・6週目では有意差が見られた。【考察】1ヶ月以内の関節不動で起こる拘縮は、筋の変化に由来するところが大きく、それ以上不動期間が長くなると関節構成体の影響が強くなると言われている。関節構成体の主な変化としては、線維性癒着、関節軟骨の不規則化などが報告されている。今回の結果では固定4週間以降に有意差が見られるため、温熱療法が筋の変化に対してよりも関節構成体に対して抑制効果があったと考えられる。本研究において温熱療法が関節拘縮予防に有効であると言う結果が得られたため、臨床現場に温熱療法を積極的に使用するべきだと考える。【まとめ】今回の実験では温熱療法によって関節不動による関節可動域の減少が抑制されることが明らかになった。多くの患者が関節拘縮の発生により回復後においても日常生活に支障をきたす例があることを考えると貴重な発見である。今後,温熱療法による関節拘縮発生予防効果の機序とその効果的な適用条件を検討していきたい。
著者
倉田 和範 船着 裕貴 林田 一成 安部 大昭 小幡 賢吾
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1619, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】入院患者は活動量が大きく低下し,廃用症候群が進行することが報告されている。リハビリテーション(リハ)中に歩行練習等を通じ活動性向上を促しているが,時間的にも限界がある。このため,リハ時間外の病棟内における活動性をいかに向上させるかが重要であると考える。しかし,患者は他者の見守りや介助を敬遠しがちであり,杖や歩行器などの歩行形態を問わず,歩行自立とすることが望ましい。これらのことから,病棟内歩行自立に影響する因子を検出することで,より安全かつ客観的に歩行自立を判断することが可能になると考える。そこで,入院患者における病棟内歩行自立に関連する因子を抽出することを,本研究の目的とした。【方法】対象は2016年4月以降に整形外科病棟でリハを開始,および2016年9月までに退院した75歳以上の入院患者160名。このうち退院時に寝たきり,立位などの測定姿勢困難,認知症または精神疾患による患者の理解困難,測定の同意が得られない,急遽の退院等によるデータ欠損,入院前から歩行困難,に該当した85名を除く75名を調査対象とした。診療録より年齢,性別,下肢疾患の有無,Mini Mental State Examination(MMSE)および退院時のFunctional Independence Measure(FIM)を抽出し,退院時に握力,大腿四頭筋筋力,Short Physical Performance Battery(SPPB)およびFall Efficacy Scale(FES)を評価した。歩行形態は問わず,退院時のFIMの移動・歩行項目の6点以上を自立群,5点以下を非自立群とし,病棟内歩行自立可否によって2群に分けた。統計学的解析として,連続変数に対しては正規性を確認した後に,wilcoxon順位和検定または対応のないt検定,カテゴリ変数に対してはχ2検定を用いて単変量解析を行った。次に多変量解析として病棟内歩行自立可否を従属変数,有意差が認められた変数を独立変数として多重ロジスティック回帰分析を行った。有意水準は危険率5%未満とした。【結果】自立群35名,非自立群40名であった。単変量解析の結果,有意差が認められたのは年齢(自立群82.3歳vs非自立群87.2歳),握力(32.9%BWvs27.6%BW),大腿四頭筋筋力(22.5%BWvs16.4%BW),SPPB(7.9点vs3.8点),MMSE(25.5点vs18.5点),FES(30.9点vs26.2点)で,性別および下肢疾患の有無は有意差を認めなかった。多重ロジスティック回帰分析の結果,病棟内歩行自立に関係する因子としてMMSEおよびSPPBが抽出された。オッズ比はMMSE1.82,SPPB2.12であった。ROC曲線を用いてカットオフ値を算出したところ,病棟内自立歩行可否のカットオフ値はMMSE23点,SPPB6点であった。【結論】病棟内歩行自立可否を検討するうえで,年齢や下肢疾患の有無よりも,認知機能と身体機能が重要な因子であることが示された。得られたカットオフ値を用いることで,根拠に基づいた入院患者の歩行自立を検討できるのではないかと考える。
著者
倉田 和範 林田 一成 峪川 優希 渋谷 諒 安部 大昭 松本 和久 小幡 賢吾
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2015, 2016

【はじめに,目的】患者の全身状態の把握や予後予測を行う上で,身体機能評価は重要である。その評価方法としてTimed-Up-and-Go-Test(TUG)やFunctional Balance Scale(FBS)など,転倒のカットオフ値が設けられたテストは複数存在するが,それぞれ患者に努力歩行を要求したり,評価に時間を要したりと,入院中の活動性が低下したリハビリテーション(リハ)開始早期の患者には適応できないことが多い。Short Physical Performance Battery(SPPB)は,地域高齢者を対象とした身体機能のスクリーニングテストの一つであり,死亡率や施設入所の予測因子になると報告されている。SPPBは①立位テスト②4m通常歩行テスト③5回の椅子起立着座テストから構成されており,その特徴として短時間に安全かつ簡便に評価できる点が挙げられる。そこで,SPPBとその他の評価法の関係性を調査し,入院患者におけるSPPBの有用性を検証することを本研究の目的とした。【方法】対象は平成27年9月から2か月間のうちに当院を退院した,65歳以上の患者67名。このうち急遽の退院,認知症および精神疾患,患者の同意が得られない,寝たきりを含む立位保持不可等の除外基準に該当した37名を除く,30名を調査対象とした。評価項目はSPPB,TUG,FBS,Functional Reach Test(FRT),Body Mass Index(BMI),握力,等尺性膝伸展筋力および30秒椅子立ち上がりテスト(CS-30)とした。それぞれの患者の退院前1週間を評価期間とし,原則1日で評価を行った。検者間測定誤差を防ぐため,検者は各評価方法を熟知した4名に限定した。TUG,FRT,握力および等尺性膝伸展筋力はそれぞれ2回ずつ行い,平均値を代表値とした。SPPBと各測定項目の関係性を,spearmanの順位相関係数を用い検討した。次に転倒のカットオフ値として報告されているFBS 45点によってROC曲線を求め,SPPBの転倒カットオフ値を算出した。【結果】男性9名女性21名,平均年齢82.9歳。下肢の骨折等による手術後11名,上肢や腹部など下肢以外の手術5名,その他保存療法14名。SPPBとの関係性はTUG(ρ=-0.82),FBS(ρ=0.89),CS-30(ρ=0.76),握力(ρ=0.60),FRT(ρ=0.65),等尺性膝伸展筋力(ρ=0.42)であり,すべて有意な相関を認めた。BMIは有意差を認めなかった。FBSの転倒カットオフ値から算出したSPPBの転倒カットオフ値は,7点であることが分かった。【結論】SPPBはFBS,TUG,FRTと強い相関関係にあることが示された。これにより,入院患者に対しSPPBを用いることで,より安全かつ簡便に客観的な評価を行える可能性が示された。SPPBは立位保持,歩行,起立から構成されているため,立位保持可能であればTUGやFBSでは困難な,リハ開始早期からの身体機能スクリーニングが可能である。また,このことから退院時評価と比較することで経時的な変化も捉えられる可能性がある。今後は症例を重ね,障害部位による違いや,これらの経時的な変化に関して検討したいと考える。