著者
鈴木 郁美 神先 秀人 石山 亮介 山本 恭平
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2015, 2016

【はじめに,目的】日常生活において,私たちは様々な種類の鞄を種々の方法で持ち歩いている。運動学や力学的,筋電図学的分析に基づく先行研究では,その持ち方により身体へ種々の異なる影響を及ぼすことが報告されている。しかし,多くは重量物の運搬時の運動開始直後における測定に基づいた報告であり,日常生活にみられるような比較的軽負荷で歩行開始後ある程度時間が経過した後の評価はなされていない。本研究では,軽負荷の荷物を持ち,10分間歩き続けた際の,運搬方法の違いによる運動学的パラメーターへの影響を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は健常若年者10名(平均年齢22.2±1.03歳)である。測定課題は,体重の5%の負荷を一側の肩に鞄を掛ける方法(肩掛け)と一側の手で鞄を把持する方法(手提げ)の2種の持ち方と無負荷時(対照群)における,トレッドミル上での10分間の快適歩行とした。疲労による影響を排除するために,肩掛けと無負荷時での歩行,手提げと無負荷時での歩行を,日を変えて行った。三次元動作解析装置(VMS社製VICON-MX)を用いて,体幹,骨盤,下肢の角度変化および重心の変位を求めた。サンプリング周波数は50Hzとし,座標データに対し6Hzのローパスフィルタをかけた。解析には,歩行開始後9~10分時の連続する3歩行周期を任意に選択した。各歩行周期における体幹,骨盤,下肢の関節角度最大値と側方および上下の重心移動幅を求め,3回分の平均値を用いて,2種の持ち方と対応する無負荷時の比較を行った。統計処理は各項目において正規性の検定を行った後,対応のあるt検定またはWilcoxonの符号付順位和検定を行った。有意水準は5%とした。【結果】上下方向の重心移動幅において,無負荷時には31.5±5.9mmであったのに対し,肩掛けでは34.6±4.1mmと有意に増大した。手提げでは無負荷時と比較し荷物把持側への体幹側屈角度の有意な増大がみられた。また肩掛け,手提げ両条件歩行において,無負荷時と比較し体幹・骨盤の水平面における回旋角度に有意な減少がみられた。【結論】本研究の結果,手提げ歩行時に,把持側への体幹の側屈角度の増大がみられた。このことは,軽度の負荷であっても,長く持ち続けることやその機会が増加することで,骨関節系に何らかの悪影響をもたらす可能性があることを示すものと考えられた。肩掛け,手提げの2条件において骨盤回旋運動の減少がみられたのは,荷物保持に伴う腕の振りの減少による影響が考えられた。また,肩掛け歩行時の上下方向の重心移動幅の増大は,骨盤回旋の減少による,立脚初期の重心位置の下降が原因の一つとして考えられた。今回の結果が,荷物を持って一定時間歩き続けたことによる影響であるか否かを確認するためには,歩行開始直後からの経時的変化について検証する必要性がある。

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