著者
田村 正樹 中 優希 久保 有紀 渕上 健
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2015, 2016

【はじめに,目的】複視とは,脳血管障害などが原因で物体が二重に見える症状である。物体の見えにくさから日常生活動作(以下,ADL)に支障をきたすが,具体的なリハビリテーション介入に関する知見は少ない。今回,複視を呈した症例に対して,自動車運転の獲得を目標にレーザーポインターやミラーを用いた眼球運動課題を考案し介入したことで退院後に目標達成に至ったため,報告する。【方法】症例は59歳,男性。診断名はクモ膜下出血と右視床梗塞。発症2週後の眼科受診で右外転神経麻痺と診断された。発症4週目に当院入院となり,入院当初から運動麻痺や感覚障害は認められず,ADLは歩行で自立していた。その他の所見として,Berg Balance Scaleは56/56点,Mini Mental State Examinationは30/30点,Trail Making TestはPart-A36秒,Part-B81秒であった。職業は内装業であり,復職と自動車運転の獲得を希望されていた。発症9週目で内装業に必要な動作が獲得できたため,眼球運動課題を開始した。このときの眼球運動所見は,peripersonal spaceの物体を正中から右側に20cm以上,左側に30cm以上追視した際に複視が出現し,10分程度で眼精疲労が確認された。さらに,personal spaceからextrapersonal spaceへの切り替えを多方向に行うと,複視により3分程度で気分不良が確認された。複視は右側のextrapersonal spaceへの追視の際に著明であった。眼球運動課題はレーザーポインターを用いたポインティング課題,ミラーを用いた識別課題を方向や距離,速度,実施時間を考慮して行った。レーザーポインターを用いたポインティング課題では前方と側方の安全確認と信号の認識を想定し,頭頸部回旋運動を取り入れてレーザーの照射部位を追視するように教示して実施した。ミラーを用いた識別課題ではバックミラーとサイドミラーに映った自動車の認識を想定し,各3方向のミラーに映った対象の詳細や距離について正答を尋ねた。【結果】発症11週後には,peripersonal spaceにある物体の追視では正中から左右ともに35cmまで複視が出現せず可能となった。peripersonal spaceでの眼球運動は40分程度,personal spaceからextrapersonal spaceへの切り替えを多方向に行う眼球運動では30分程度問題なく行えるようになった。発症12週目に自宅退院となり,最終的には自動車運転の獲得に至った。【結論】本症例は右外転神経麻痺による両眼球の共同運動障害により複視が生じていた。personal spaceからextrapersonal spaceへの切り替えを多方向に行うレーザーポインターやミラーを用いた眼球運動課題を組み合わせることにより,複視の改善に至ったと考える。

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