- 著者
-
銅島 裕子
田中 輝美
- 出版者
- 日本カウンセリング学会
- 雑誌
- カウンセリング研究 (ISSN:09148337)
- 巻号頁・発行日
- vol.47, no.2, pp.86-95, 2014
本事例は,夫から言われた過去の否定的発言を思い出しては「夫がゆるせない」と夫への恨みを訴え,さらに「自分はダメな人間だ」と抑うつを伴う自責的な反芻思考をする女性に,抑うつと怒りの軽減を目的とし,"ゆるし"に着目したカウンセリングを実施したものである。筆者はカウンセラーとして関わり,約11か月合計20回にわたる面接を行った。アプローチの概要は,否定的な気分になったときの状況・思考などを記録用紙に書く自己モニタリングや,気晴らしなどの注意転換による認知・感情面への心理的援助によって,夫への恨みや自責的な考えの反芻減少を試みたことである。また夫婦間交流を増やすために,夫婦の出会った頃のイメージを回想する,夫の趣味や仕事を妻も共有する,夫がいてありがたいと思えることの再確認,さらには自己主張訓練で夫に自分の主張や感謝を伝えるなどの具体的な課題を実施した。そのような夫婦関係の行動面への援助をした結果,クライエントは「夫のことが気にならなくなった」と話し,夫婦関係改善に至り,婚姻関係を継続した。相談終了時の心理テストの結果においてもネガティヴな反芻思考が軽減し,うつ気分も改善されたことが確認された。