著者
小池 春妙 伊藤 義美
出版者
日本カウンセリング学会
雑誌
カウンセリング研究 (ISSN:09148337)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.155-164, 2012 (Released:2016-03-12)
参考文献数
28
被引用文献数
7

本研究では,精神科受診意図を高めるための方法として情報提供に注目し,メンタルヘルス・リテラシーと援助要請研究の知見を踏まえた情報提供の効果を検討した。研究1では,精神科受診意図に関連する情報についての質問紙調査を,大学生(261名)を対象に行った。因子分析の結果,「全般的不安」と「援助資源」という先行研究と一致する2つの因子が得られた。研究2では,大学生(115名)を対象に情報提供の効果を検討した。統制群としてうつ病の症状と治療法に関する情報のみを提供する群(29名)を設け,「全般的不安」と「援助資源」のそれぞれについての情報を提供する群(順に28名,26名)および,すべての情報を提供する群(32名)との比較を行った。その結果,情報提供後に受診意図が統制群よりも有意に高くなったのは「援助資源」情報を提供した群のみであった。「援助資源」に含まれる内容から,精神科受診意図を高めるためには情報を提供するだけでなく,能動的な情報収集を補助していくことも重要であることが示された。
著者
武井 優子 嶋田 洋徳 鈴木 伸一
出版者
日本カウンセリング学会
雑誌
カウンセリング研究 (ISSN:09148337)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.50-59, 2011 (Released:2012-02-29)
参考文献数
28
被引用文献数
2

本研究の目的は,喪失体験経験後の回復過程における認知的および行動的な変化の特徴を明らかにすることである。喪失体験から回復した女子大学生8名を対象に,半構造化面接を行い,喪失体験を経験してから現在までの経過を修正版M-GTAで分析した。また,日本語版外傷後認知尺度(Japanese version of the Posttraumatic Cognitive Inventory; JPTCI),日本語版外傷体験後成長尺度(Posttraumatic Growth Inventory; PTGI),対処方略尺度(Tri-Axial Coping Scale; TAC-24),喪失体験のとらえ方(Visual Analogue Scale)を測定した。その結果,喪失体験からの回復には,肯定的な認知が増えることと,行動が活性化することが重要であることが示された。
著者
水野 雅之 関口 雄一 臼倉 瞳
出版者
日本カウンセリング学会
雑誌
カウンセリング研究 (ISSN:09148337)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.125-134, 2018-10-31 (Released:2020-01-05)
参考文献数
49

海外で実施された2つの場面緘黙のランダム化比較試験では,(1)段階的エクスポージャー法,(2)家庭や学校など生活場面での支援,(3)家族および教師との連携,の3つが有効である可能性が示されている。そこで,本研究では,日本における場面緘黙児への支援として,(1)段階的エクスポージャー法,(2)家庭や学校などの生活場面での支援,(3)家族および教師との連携,の3点に注目し,これらの支援がどの程度実施されているかを明らかにすることを目的とした。まず,系統的な文献収集を行い,38事例が収集された。文献を精査した結果,(1)段階的エクスポージャー法は18.4%のケースでしか実施されていないこと,(2)家庭や学校など生活場面での支援は31.6%のケースで実施されていること,(3)家族および教師との連携については,家族および幼稚園・学校関係者のいずれとも連携しているケースは28.9%であることが明らかにされた。今後,これら3つの支援方法を広めていくことが必要であるといえる。
著者
石本 雄真
出版者
日本カウンセリング学会
雑誌
カウンセリング研究 (ISSN:09148337)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.72-78, 2010 (Released:2015-12-14)
参考文献数
43
被引用文献数
6

本研究は,こころの居場所といった用いられ方をする「居場所」について,一人でいるときの居場所(個人的居場所)と誰かと一緒にいるときの居場所(社会的居場所)の機能の違いを,精神的健康との関連から検討するとともに,居場所の定義や意味内容に関する示唆を得ることを目的とするものである。大学生138名への調査の結果,社会的居場所の確保と精神的健康との間には有意な正の相関がみられたが,個人的居場所の確保と精神的健康との間には有意な相関はみられなかった。このことから,個人的居場所と社会的居場所は機能的に異なるものであることが示された。また,社会的居場所の確保と本来感や自己有用感との間には有意な正の相関がみられたが,個人的居場所の確保と本来感,自己有用感との間には有意な相関がみられなかった。このことから,社会的居場所はこれまで臨床場面等で指摘されてきたように,ありのままでいられるという感覚,自分が役に立っていると思える感覚と関連することが示された。
著者
大塚 尚
出版者
日本カウンセリング学会
雑誌
カウンセリング研究 (ISSN:09148337)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.175-183, 2012 (Released:2016-03-12)
参考文献数
16

本研究では,精神疾患を抱えるクライエントの身体感覚違和の疾患群ごとの異同の検討,ならびにさまざまな主観的体験との関連の検討を目的として,精神科クリニックを受診する疾患群372名と,大学生・大学院生184名に対して質問紙調査を実施した。その結果,うつ病群では圧迫感や重感など多くの項目において他群より高い違和が示され,次いで躁うつ病群では非統御感や麻痺・硬直感が健常群より高いことが示された。また,神経症群では不安感が高い傾向が示され,統合失調症群においては健常群に比べて麻痺・硬直感が高い傾向がみられた。身体感覚違和の様相は抱えている疾患によってさまざまな異同があり,そこにはそれぞれの精神活動や病態,存在のあり方が反映されている可能性が示唆された。また,身体感覚違和と他の主観的な体験との間には有意な相関がみられ,精神疾患においても,精神的な面だけで苦痛を感じるというのではなく,心と身体が繋がりあって全身で苦悩や生き辛さを体験していることが示唆された。さらには,カウンセリング場面においても,身体感覚に目を向けることでクライエントの理解に生かしうることが示された。
著者
田中 健史朗
出版者
日本カウンセリング学会
雑誌
カウンセリング研究 (ISSN:09148337)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.18-25, 2013 (Released:2016-03-12)
参考文献数
23
被引用文献数
2

カウンセラーの自己開示が心理臨床場面において有用な効果をもつか否かについては,賛否両論がある。本研究ではカウンセラーの自己開示を,Self-involvingと,Self-disclosingの2種類に分け,対象者のカウンセラーに対する印象評価に与える効果に違いがあるか否かを検討した。その方法として,大学生,大学院生208名を対象とし,対象者をSelf-involving群,Self-disclosing群,統制群の3群にふり分け,カウンセリング場面の逐語を読んでもらい,その逐語のカウンセラーに対する印象の評価を質問紙で尋ねた。各群の効果の違いをみるため分散分析を行った結果,Self-involvingは,カウンセラーに対する好意感と専門性を高く評価させる効果があることが見いだされた。一方,Self-disclosingは,カウンセラーに対する好意感を高める効果と,信頼感を抑制する効果があることが見いだされた。本研究の結果から,Self-involvingは被開示者にカウンセラーの専門性を印象づけることを促進させる有用な効果をもつことが示唆された。一方,Self-disclosingは被開示者にカウンセラーへの好意感を促進させる有用な効果をもつことが示唆された。しかし,Self-disclosingはカウンセラーへの信頼を抑制することも示唆された。
著者
川崎 直樹 小玉 正博
出版者
日本カウンセリング学会
雑誌
カウンセリング研究 (ISSN:09148337)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.209-215, 2011 (Released:2016-03-12)
参考文献数
31
被引用文献数
2

自己愛傾向の高い者は,他者との競争の中で自己の優越性を示すことを強く求める一方で,他者との親和的な関係を維持することを相対的に軽視しがちであるといわれる。そして,実際に自己の優越性が示されていたとしても,本人にとってはそれが満足として感じられることはないといわれている。そこで,本研究では,競争・親和欲求の強さと,その欲求の充足度を区別して測定し,自己愛傾向との関連を検討することとした。なお,自己愛傾向との比較のため,自尊心との関連も検討を行った。大学生259名に質問紙調査を行い,自己愛傾向・自尊心とともに,競争欲求・親和欲求の強さおよびそれぞれの充足度が測定された。その結果,自己愛傾向は,競争欲求およびその充足度の影響によっては説明されないものであった。対照的に,自尊心は競争と親和での充足度とおもに関連を示し,欲求の強さとはあまり関連を示さなかった。これらのことから,自己愛傾向が高い者ほど,親和的な関係より競争的な関係を強く求めており,その欲求が満足を得ない貪欲さを帯びうることが示唆された。
著者
亀田 秀子 相良 順子
出版者
日本カウンセリング学会
雑誌
カウンセリング研究 (ISSN:09148337)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.277-287, 2011 (Released:2016-03-12)
参考文献数
22
被引用文献数
3

本研究の目的は,過去のいじめられた体験の体験者の語りから,自己成長感をもたらす要因を検討することである。専門学校生,短大生,大学生の男女17名を対象に半構造化面接を実施した。結果は,次の通りである。自己成長感をもたらす要因として,1)学校・家庭での話しやすい関係の構築と自己開示があったこと,2)いじめられた辛さをわかってくれる人の存在,信頼のおける大人の存在,3)家族関係と友人関係の良好さ,4)ソーシャル・サポートが得られたこと,5)積極的な対処法を取ったことが示唆された。また,いじめられた体験から自己成長感に至るプロセスにおいて,自己開示,ソーシャル・サポート,重要な他者の存在,肯定的意味づけ,そしてポジティブ思考などが,自己成長感に至る重要な促進要因であることが示唆された。
著者
古宮 昇 谷口 弘一
出版者
日本カウンセリング学会
雑誌
カウンセリング研究 (ISSN:09148337)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.110-117, 2011 (Released:2016-03-12)
参考文献数
43
被引用文献数
3

ヨガが心理的状態に好影響を及ぼすかどうかを検証する目的で,調査を行った。ヨガを始めたばかりの参加者74名が,はじめてレッスンに通ったとき,およびその約1か月後,約2か月後に心理尺度に回答し,彼らの心理的変化が継時的に測定された。その結果,調査回数を重ねるごとに,彼らの心理状態は向上していた。調査参加者は,週あたり平均して約2回のレッスンを受講していたが,初回測定時よりも約2か月後のほうが,自尊感情がより高まり,人生により満足し,前向きに生きようという意欲が増していた。また,対人不安と完全主義は減少していた。
著者
遠藤 寛子 湯川 進太郎
出版者
日本カウンセリング学会
雑誌
カウンセリング研究 (ISSN:09148337)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.81-93, 2018-10-31 (Released:2020-01-05)
参考文献数
35

本研究では,怒りの維持過程研究(遠藤・湯川, 2012, 2013)に基づき,思考の未統合感を低減させる方向で構造化された筆記開示法(構造化筆記開示法)を考案し,その効果を検討した。実験参加者は大学生55名であり,無作為に3つの条件に分けられ,30分間の筆記実験を行うよう教示された。参加者は,過去の怒りエピソードについて自由に筆記する条件,状況を捉え直し,新たな意味を見いだすという構造化筆記条件,そして,中性話題について筆記する統制条件に区分された。 その結果,構造化筆記開示法を行った参加者は他の条件の参加者と比べて,怒りの維持状態の低減のみならず,その維持を規定する「思考の未統合感」も低下していた。また,筆記実験後,怒りエピソードについて他者に開示する傾向が示された。その際には,ネガティブな言動が減少し,話し方が変化する傾向にあった。したがって,怒りの維持過程に基づいた構造化筆記開示法は,他の筆記開示法よりも効果的である可能性が示唆された。
著者
古宮 昇 谷口 弘一
出版者
日本カウンセリング学会
雑誌
カウンセリング研究 (ISSN:09148337)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.110-117, 2011

ヨガが心理的状態に好影響を及ぼすかどうかを検証する目的で,調査を行った。ヨガを始めたばかりの参加者74名が,はじめてレッスンに通ったとき,およびその約1か月後,約2か月後に心理尺度に回答し,彼らの心理的変化が継時的に測定された。その結果,調査回数を重ねるごとに,彼らの心理状態は向上していた。調査参加者は,週あたり平均して約2回のレッスンを受講していたが,初回測定時よりも約2か月後のほうが,自尊感情がより高まり,人生により満足し,前向きに生きようという意欲が増していた。また,対人不安と完全主義は減少していた。
著者
髙橋 稔
出版者
日本カウンセリング学会
雑誌
カウンセリング研究 (ISSN:09148337)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.106-113, 2018-10-31 (Released:2020-01-05)
参考文献数
21

臨床心理学の分野では,心理学的技法の効果を検証するために,しばしば一般にみられる虫や動物などの恐怖経験を対象としてアナログ研究を重ねてきた。本研究は,虫に対する自己評価式の恐怖経験評価尺度(以下,虫恐怖尺度)を作成し,信頼性と妥当性を確認することを目的とした。新たに作成した33項目からなる虫恐怖尺度を配布し,336名を分析対象とした。探索的因子分析および確認的因子分析の結果,虫恐怖尺度は11項目,1因子構造となった。虫恐怖尺度は内的整合性が高く,再検査信頼性も高かった(r=.88)。虫恐怖尺度とFQ-虫との相関はr=.67 であり,虫恐怖尺度とFQ-16(広場恐怖,血液・外傷恐怖,社会恐怖)との間ではr=.24~.34であった。また虫恐怖尺度とPRS-虫との間には有意な正の相関が確認された(r=.66~.72)が,PRS-小動物との間では有意な相関は確認されなかった(r=.19~.26)。本研究結果から,虫恐怖尺度は信頼性と妥当性を備えた尺度であることが示された。しかし,臨床群への応用については課題が残された。
著者
原田 恵理子 渡辺 弥生
出版者
日本カウンセリング学会
雑誌
カウンセリング研究 (ISSN:09148337)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.81-91, 2011 (Released:2016-03-12)
参考文献数
60
被引用文献数
5

本研究では,高校1年生を対象としたソーシャルスキルトレーニング(SST)を行い,ソーシャルスキルと自尊心に及ぼす効果を検討した。このプログラムは,自尊心や怒りといった感情のコントロールをターゲットスキルに取り入れ,感情の認知的側面に焦点をあてて実践されたものである。実施期間は4か月で,総合的な学習の時間を利用し,10セッションが実施された。ターゲットスキルは,a)自己紹介,b)コミュニケーション,c)聴く,d)自尊心,e)敬意,f)感情のコントロール,g)目標をたて実行する,h)あたたかいことばかけ(感謝する)の8つのスキルであった。アセスメントに,社会的スキルや自尊心の尺度を用い,行動評定とともに実践前と実践後に行った。その結果,向社会的スキルが増加し,引っ込み思案行動と攻撃行動が減少した。自尊心は,失敗不安を抑制する効果を得ることができた。高等学校における感情の認知に焦点をあてたSSTは,向社会的スキルの向上と引っ込み思案行動および攻撃行動の抑制を支援するプログラムとして効果をもつことが示唆された。
著者
田中 美帆 齊藤 誠一
出版者
日本カウンセリング学会
雑誌
カウンセリング研究 (ISSN:09148337)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3-4, pp.160-169, 2016 (Released:2018-06-30)
参考文献数
31
被引用文献数
1

本研究では,成人期における生と死に対する態度尺度を作成し,成人期の生と死に対する態度に影響を与える要因について探索的に検討した。研究1においては,成人期の261名のデータに基づく因子分析の結果,死への不安・恐怖,人生の目標,死後の世界への信念,生と死のつながり,生への執着の5因子が抽出された。各因子に対応する下位尺度を構成し,クロンバックのα係数を算出したところ,十分な内的整合性が得られた。次に,構成概念妥当性の検討の結果,人生の目標と信頼・時間的展望―不信・時間的展望の拡散との間,死後の世界への信念と霊魂観念との間などに相関関係が認められ,尺度の妥当性が支持された。研究2では,研究1において作成された尺度を用いて成人期および中年期の465名を対象に質問紙調査を実施し,死別経験が生と死に対する態度に与える影響を検討した。その結果,死別経験のある人においては中年期より成人期のほうが,女性においては死別経験のない人よりある人のほうが,より死に対する不安や恐怖を抱いていることが示された。
著者
田所 摂寿
出版者
日本カウンセリング学会
雑誌
カウンセリング研究 (ISSN:09148337)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.51-62, 2018-06-30 (Released:2019-10-01)
参考文献数
72

本論文では,初学者に対するカウンセラー教育内容について欧米諸国の研究を概観し,日本における実証的研究(evidence-based research)に向けて考察することを目的とした。カウンセラー教育の研究として,①専門教育の準備,②トレーニング手法,③トレーニングの内容とその成果の3つに分類し,それぞれの研究知見をまとめた。「専門教育の準備」としては,大学生へのカウンセラー教育の意義と内容およびゲートキーピングについての検討を行った。「トレーニング手法」としては,①ロールプレイ,②グループ体験,③個人カウンセリング,④臨床実習とスーパービジョンのそれぞれの効果について先行研究を比較検討した。「トレーニングの内容とその成果」については,従来のカウンセリングスキル基礎訓練を取り上げた。また,トレーニングを受けることによる変化として,人間的成長および専門家としての成長,自己の変化,認知の変化を取り上げた。 これらのカウンセラー教育の内容を日本において活用していく方法について考察を行った。
著者
上條 菜美子 湯川 進太郎
出版者
日本カウンセリング学会
雑誌
カウンセリング研究 (ISSN:09148337)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.137-146, 2014 (Released:2016-10-04)
参考文献数
38

本研究では,人がストレスフルな出来事に遭遇したとき,その出来事に対しどのような主観的評価を与えることで意味づけが動機づけられるのかについて,物語性をもつ多様な仮想場面を用いた場面想定法により検討した。「未然防止性,生起可能性,不快感が脅威評価と関連し,脅威評価が意味づけ動機と自己の変化と関連する」という仮説のもと,大学生および大学院生30名を対象に,10のストレスフルな出来事について質問紙調査を行った。その結果,意味づけ動機に対する脅威評価の関連性は弱く,一方で,出来事の未然防止性・生起可能性・不快感が高いほど,意味を見つけ出そうと動機づけられることが示された。また,出来事を脅威に感じるほど,自分自身が大きく変化すると推測しやすいという関連が見いだされた。考察では,本研究で得られた,意味づけを動機づける主観的評価に関する基礎的知見,および本研究の限界と今後の展望について議論された。
著者
銅島 裕子 田中 輝美
出版者
日本カウンセリング学会
雑誌
カウンセリング研究 (ISSN:09148337)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.86-95, 2014

本事例は,夫から言われた過去の否定的発言を思い出しては「夫がゆるせない」と夫への恨みを訴え,さらに「自分はダメな人間だ」と抑うつを伴う自責的な反芻思考をする女性に,抑うつと怒りの軽減を目的とし,"ゆるし"に着目したカウンセリングを実施したものである。筆者はカウンセラーとして関わり,約11か月合計20回にわたる面接を行った。アプローチの概要は,否定的な気分になったときの状況・思考などを記録用紙に書く自己モニタリングや,気晴らしなどの注意転換による認知・感情面への心理的援助によって,夫への恨みや自責的な考えの反芻減少を試みたことである。また夫婦間交流を増やすために,夫婦の出会った頃のイメージを回想する,夫の趣味や仕事を妻も共有する,夫がいてありがたいと思えることの再確認,さらには自己主張訓練で夫に自分の主張や感謝を伝えるなどの具体的な課題を実施した。そのような夫婦関係の行動面への援助をした結果,クライエントは「夫のことが気にならなくなった」と話し,夫婦関係改善に至り,婚姻関係を継続した。相談終了時の心理テストの結果においてもネガティヴな反芻思考が軽減し,うつ気分も改善されたことが確認された。