著者
法山 徹 勝木 道夫 後藤 伸介 中村 立一
出版者
東海北陸理学療法学術大会
雑誌
東海北陸理学療法学術大会誌
巻号頁・発行日
vol.28, 2012

<b>【目的】 </b>超音波治療(US)は、局所へ理学療法(PT)の一手段として用いられ、その生理学的効果としては、コラーゲン組織の伸張性増大や疼痛の軽減等が報告されている。しかし、臨床においては関節可動域(ROM)制限に遭遇する頻度は比較的多いものの、USがその改善に寄与したとする報告は少ない。そこで、本研究では腱板断裂術後患者に対するUSがROM改善に及ぼす効果を検証することを目的とした。<br><b>【方法】 </b>症例は50歳代の男性であり、広範囲腱板断裂に対し、関節鏡視下腱板修復術(大腿筋膜を用いたパッチ法)を施行された症例であった。術後3ヶ月にて、大工への職業復帰を目標に当院に紹介され、初回評価時の日本整形外科学会肩関節疾患治療成績判定基準(JOA score)は66.5点、肩関節自動屈曲ROMは95°であった。研究デザインはABAとし、期間Aは通常の運動療法のみを行い、期間Bは運動療法とUSの双方を行い、AとBを2週間ずつ其々週3回の介入で交互に実施した。期間BにおけるUSは、Ultrasonic Apparatus Model ES-1(OG技研社製)を使用し、周波数は1MHZ、出力は1.2W/㎝2、施行部位は肩甲骨内側縁(肩甲棘~下角間)、照射時間は10分間とし移動法にて実施した。また、運動療法については肩甲上腕関節及び肩甲胸郭関節のROM運動、胸椎モビリゼーション、肩甲骨周囲筋のリラクゼーション及び自主運動指導を期間A, Bとも同様に行った。評価は、PT前の肩関節自動屈曲ROMとし、初回Aの前(以下preA)、Bの前(以下preB)、2回目Aの前(以下preA&rsquo;)、2回目A終了翌日(以下post A&rsquo;)に行い、2回測定した低値のものを採用した。結果の処理は、PT前の肩関節自動屈曲ROMについて各セッションの前後での変化率(%)を算出した。<br><b>【説明と同意】 </b>患者には、本研究の趣旨を説明し同意を得て行った。<br><b>【結果】 </b>preA, preB, preA&rsquo;、post A&rsquo;における肩関節自動屈曲ROM(°)は、各々120, 125, 145, 135であった。ROM改善率は、期間Aで104.1%、期間Bで116.0%、期間A&rsquo;で96.4%であり、運動療法にUSを併用した期間で改善する傾向を示した。また、期間A&rsquo;より大工への職業復帰となった。<br><b>【考察】 </b>本研究により、腱板断裂術後患者に対して運動療法にUSを併用することはROM改善に有効であることが示唆された。今回の症例ではUSを肩甲骨内側縁に施行していたが、これは同部に生活上での倦怠感を訴えていたことや圧痛が出現していたことから挙上の阻害因子と考えたため行った。USの併用によりROMが改善したことについては、僧帽筋や菱形筋等の肩甲骨内側組織の伸張性が改善したことにより肩甲骨上方回旋が促通されたためと考えた。また、期間A&rsquo;においては、ROMが低下する傾向を示していたが、職業復帰により急激に上肢の運動量が増し、仕事後の疼痛増強もみられていたため職業復帰による過用が原因と考えた。<br> 今後は、USの実施方法(筋収縮の併用や施行筋の肢位、プラセボ化等)について、より効果的な方法を検討していくことが必要と考えた。<br><b>【まとめ】 </b>腱板断裂術後患者に対してUSの有効性を検証した。運動療法にUSを併用することは、ROM改善に有効であることが示唆された。

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