著者
久保田 悦章 市川 遥 杉山 矩美 吉野 涼太 法山 徹
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.O-19, 2020

<p>【目的】脳卒中患者の歩行自立可否は転帰先を検討する上で重要であり、患者本人や家族も自立を望んでいる事が多い.先行研究では回復期病棟入棟時の運動機能から,歩行自立に関連する要因を検討しているものは多いが認知機能を含めて検討したものは少ない.本研究では,回復期病棟入棟時の基本属性や運動及び認知機能から歩行自立に関連する要因を検討した.</p><p>【方法】当院回復期病棟に入棟した脳卒中患者84名を対象とした.調査項目は年齢,性別,病型,麻痺側,発症後日数,入棟時NIHSS,mRS,Br.Stage,基本動作能力,FIM総得点,運動得点(mFIM),認知得点,及び下位項目,退院時移動とした.退院時移動(歩行)が6点以上を自立群,5点以下を非自立群とし単変量解析を行った.その後従属変数を歩行自立可否,単変量解析で有意差を認めた項目を独立変数とし多重ロジスティック回帰分析を行った.採択された変数はROC曲線を用いcut off 値を求めた.単変量解析はt検定,Mann-whitneyのU検定,χ<sup>2</sup>検定で実施し,有意水準はp=0.05とした.本研究は当院企画運営委員会の承認を得て行った.</p><p>【結果】自立群は43名(男28,女15),非自立群は41名(男14,女27)であった.歩行自立群と非自立群の単変量解析において,年齢,麻痺側,発症後日数を除く項目に有意差がみられた.多重ロジスティック回帰分析では,性別,mFIMが採択された(判別的中率81.0%).有意な独立変数は性別(OR3.46.95%CI1.19-10.04, p<0.05),mFIM(OR0.94.95%CI0.91-0.96, p<0.01)であった.歩行自立のcut off値はmFIM46点(感度81.4%,特異度75.6%, AUC0.88)となった.</p><p>【考察】脳卒中患者の歩行自立には性別,入棟時mFIM が関連していることが示唆された.性別は,平均年齢が女性で高かったことが影響したと思われた.mFIMはADL全般を反映しており,歩行の自立においても重要な因子であることが考えられた.また,cut off値の精度については比較的良好であり,歩行の自立において臨床上の指標となり得る可能性が示唆された.</p>
著者
法山 徹 勝木 道夫 後藤 伸介 中村 立一
出版者
東海北陸理学療法学術大会
雑誌
東海北陸理学療法学術大会誌
巻号頁・発行日
vol.28, 2012

<b>【目的】 </b>超音波治療(US)は、局所へ理学療法(PT)の一手段として用いられ、その生理学的効果としては、コラーゲン組織の伸張性増大や疼痛の軽減等が報告されている。しかし、臨床においては関節可動域(ROM)制限に遭遇する頻度は比較的多いものの、USがその改善に寄与したとする報告は少ない。そこで、本研究では腱板断裂術後患者に対するUSがROM改善に及ぼす効果を検証することを目的とした。<br><b>【方法】 </b>症例は50歳代の男性であり、広範囲腱板断裂に対し、関節鏡視下腱板修復術(大腿筋膜を用いたパッチ法)を施行された症例であった。術後3ヶ月にて、大工への職業復帰を目標に当院に紹介され、初回評価時の日本整形外科学会肩関節疾患治療成績判定基準(JOA score)は66.5点、肩関節自動屈曲ROMは95°であった。研究デザインはABAとし、期間Aは通常の運動療法のみを行い、期間Bは運動療法とUSの双方を行い、AとBを2週間ずつ其々週3回の介入で交互に実施した。期間BにおけるUSは、Ultrasonic Apparatus Model ES-1(OG技研社製)を使用し、周波数は1MHZ、出力は1.2W/㎝2、施行部位は肩甲骨内側縁(肩甲棘~下角間)、照射時間は10分間とし移動法にて実施した。また、運動療法については肩甲上腕関節及び肩甲胸郭関節のROM運動、胸椎モビリゼーション、肩甲骨周囲筋のリラクゼーション及び自主運動指導を期間A, Bとも同様に行った。評価は、PT前の肩関節自動屈曲ROMとし、初回Aの前(以下preA)、Bの前(以下preB)、2回目Aの前(以下preA&rsquo;)、2回目A終了翌日(以下post A&rsquo;)に行い、2回測定した低値のものを採用した。結果の処理は、PT前の肩関節自動屈曲ROMについて各セッションの前後での変化率(%)を算出した。<br><b>【説明と同意】 </b>患者には、本研究の趣旨を説明し同意を得て行った。<br><b>【結果】 </b>preA, preB, preA&rsquo;、post A&rsquo;における肩関節自動屈曲ROM(°)は、各々120, 125, 145, 135であった。ROM改善率は、期間Aで104.1%、期間Bで116.0%、期間A&rsquo;で96.4%であり、運動療法にUSを併用した期間で改善する傾向を示した。また、期間A&rsquo;より大工への職業復帰となった。<br><b>【考察】 </b>本研究により、腱板断裂術後患者に対して運動療法にUSを併用することはROM改善に有効であることが示唆された。今回の症例ではUSを肩甲骨内側縁に施行していたが、これは同部に生活上での倦怠感を訴えていたことや圧痛が出現していたことから挙上の阻害因子と考えたため行った。USの併用によりROMが改善したことについては、僧帽筋や菱形筋等の肩甲骨内側組織の伸張性が改善したことにより肩甲骨上方回旋が促通されたためと考えた。また、期間A&rsquo;においては、ROMが低下する傾向を示していたが、職業復帰により急激に上肢の運動量が増し、仕事後の疼痛増強もみられていたため職業復帰による過用が原因と考えた。<br> 今後は、USの実施方法(筋収縮の併用や施行筋の肢位、プラセボ化等)について、より効果的な方法を検討していくことが必要と考えた。<br><b>【まとめ】 </b>腱板断裂術後患者に対してUSの有効性を検証した。運動療法にUSを併用することは、ROM改善に有効であることが示唆された。