著者
島津 弘
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2012, 2012

上高地の徳沢-明神間の梓川で上高地自然史研究会が1994年以来行ってきた調査により,上高地における梓川河床の地形は数年に一度変化することがわかっている.2010年夏および2011年夏に簡易測量に基づいて作成した地図の比較および現地観察から,2011年に地形変化が生じたことが明らかになった.また,2011年7月3日から10月4日まで設置した継続観察地を撮影したインターバル撮影カメラの映像から,当該期間について増水の状況,降雨との対応が明らかになった.そこで,この地形変化の特徴を記載するとともに,地形変化と降雨の関係について検討した.2011年の最大級の連続降雨を記録したと推定される6月22~25日の降雨では23日の10:00~11:00に17mm/hを記録した.その後,23日13:40にアメダスが計測不能となり27日まで欠測が続いたため,この期間の23日の日雨量,期間の総降水量は不明である.明神橋近くにある信州大学上高地ステーションにおける雨量計による計測によると,6月豪雨の期間内に検証を要する値が含まれているものの6月23日の日雨量はおよそ120mmであった.このほか2011年には梅雨入り前の5月10日に123.5mm,台風15号が接近した9月20日に148.5mmを記録した.継続観察地の地形は2009年以降毎年変化が生じた.主流路は幅250mの河道の中央部に主流路が位置するという傾向は2007年以降変化していないが,2010年と比較して主流路の位置の移動と流路分岐のパターンの変化が認められた.この地形変化は観察と降雨状況から5月10日または6月23~25日の降雨のいずれか,または両方で生じたと推定される.カメラの設置許可が梅雨入りに間に合わず,6月の豪雨時の地形変化を記録することはできなかった.カメラ設置後の9月20日に日雨量140mmを超える降雨があったが,主流路がわずかに側刻された程度で地形変化は小さく,カメラで捉えられるような流路の移動は生じなかった.なお,このときには主流路周辺は河床の一部を除いて全面的に流れで覆われていた.以上のことから,以前からの予測通り,梅雨時期あるいは融雪時期における日雨量120mm程度以上の降雨で地形変化が生じるが,梅雨明け以降は豪雨が降っても大きな地形変化は生じないことが確かめられた.

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