- 著者
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田上 善夫
- 出版者
- 公益社団法人 日本地理学会
- 雑誌
- 日本地理学会発表要旨集
- 巻号頁・発行日
- vol.2012, 2012
Ⅰ 風の祭祀の背景 風の祭祀には,それが行われる周辺の景観とのかかわりがみられる。また農山漁村における生業の違いや,風の局地性による地域ごとの風の違いからも,風の祭祀の地域的な特色が形成されると考えられる。ここではまず海,平,原,山などのような景観と,風の祭祀のかかわりの解明を試みる。Ⅱ 現在の風の祭祀の特色 「風祭」に代表される風の祭祀の名称は,北九州では風鎮祭,近畿では風願済祭や除風祭とよばれる。中部から東では一般に風祭とよばれるが,一部では風神祭や風鎮祭とよぶところがみられる。東北南部でも多くは風祭で,会津や朝日山麓など局地的に風神祭とよばれる。Ⅲ 主要な祭祀の祈願古くからみられる風の祭祀での祈願の一つに,海上安全がある。祭神の神功皇后に関して,壱岐北部で風待をしたときに名付けた風本,また爾自神社の東風石など,風にまつわる地が多い。壱岐郡に応神天皇を祀るのは18社,神功皇后は14社があるが,ただし風祭は少ない。さらに,天下泰平が祈願される。宇佐付近で風止祭などが行われるが,付近は半島や南九州に向かう地でもあった。そこでの放生会の蜷流しは,養老四(720)年に隼人との戦での霊を鎮めるためといわれる。風雨順調は祈願の一つである。祭りでは,鉾や,御柱,また鎌立てなどがみられる。農耕における順調が祈願される。越中八尾のおわら風の盆で,おわらは名のごとく原とのかかわりが認められ,さらに祭りの行われる地には水とのかかわりもみられる。Ⅳ 風の祭祀の地具体的な風祭は,北九州での名称にみられるように,風止め,風除け,風鎮めなどがあり,海での航行安全にかかわるとみられる。山では,風祭にかかわる行事として,風の神送り,風塞ぎ,通せん坊,風神などがみられる。原で行われる御射山祭では,天地の安寧が祈られる。なお風の祭祀の地には、アズミの名がみられることが多い。安曇氏の名は海人津見の転訛とされ,九州から近畿,東海,伊豆から,さらに山形に広がる。長野の安曇野も同様であるが、そこにはとくに風の祭祀が集中する。風の祭祀は全国的にみられるが、海や平と山や原などでの展開の間に、それらがかかわることが考えられる。