著者
中田 圭亮 明石 信廣
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement
巻号頁・発行日
vol.29, 2013

&nbsp;ミズハタネズミ亜科のネズミの個体数変化が季節的また年次的に減衰していることが近年多く報告されている.従前と異なるこれらの減衰事例は次のように指摘されている:1)年次的なピークが縮小した,2)ピークの間隔が延長した,3)季節変化が減少した,などである.ヨーロッパではとくに 1970年代からタイリクヤチネズミ( <i>M. rufocanus</i>)の密度が長期にわたり減少していることが観察されているが,ここでは北海道に分布する亜種であるエゾヤチネズミ( <i>M. r. bedfordiae</i>)での状況を紹介したい.<br>&nbsp;1970年から 2012年にいたる 43年間の発生予察資料を利用して,道有林の 13の地区を調べたところ,エゾヤチネズミで観察されたのは多様な変動系列である.一定の傾向や大きな変化を示さない地区がある一方,1990年代以降に個体数変化が減衰する地区,また逆に拡大する地区もあった.例えば,後志地区などでは特別な傾向はなく,ピーク密度や季節変化の振幅などにも大きな変化はなかった.一方,顕著な減衰傾向を示した釧路地区などではピークが低密度化し季節変化も小さくなっていた.ピークの間隔は延長していなかった.また個体数変化が拡大した上川南部地区などでは,ピークが高密度化するとともに季節変化も大きくなっていた.ピーク間隔は変わっていないように見える.こうした変化が始まった時期は各地区間で同じではなく,さまざまであることもわかった.さらに年次変化を統計的に分析すると,北海道内は 3型から 5型に大きく類別可能であり,先行事例とは異なる地域的なまとまりが観察された.エゾヤチネズミの個体群動態は類似したパターンを繰り返すほか,新しい傾向を示しつつ移り変わっている.

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