- 著者
-
高井 正成
- 出版者
- 日本霊長類学会
- 雑誌
- 霊長類研究 Supplement
- 巻号頁・発行日
- vol.29, 2013
東南アジア大陸部の中新世末(約 700万年前)~鮮新世末(約 250万年前)にかけての陸生哺乳類相の変遷を,最新の化石発掘調査の成果を基に報告し,同地域の現生哺乳類相への進化プロセスについての検討をおこなう.<br><br> 京都大学霊長類研究所では,2002年からミャンマー中央部の第三紀後半の地層を対象に,霊長類化石の発掘を主目的とした発掘調査を行ってきた.この調査では複数の調査地点を対象にしているが,これまでに中新世末~鮮新世初頭に相当するチャインザウック地点と,鮮新世後半のグウェビン地点の化石動物相の記載が進展し,この期間におけるミャンマー中央部の動物相の変遷状況が明らかになりつつある.<br><br> 現在のミャンマー中央部はモンスーン気候の影響下にあるが,夏季の湿った季節風は西部のアラカン山脈で雨となってしまうため,風下側では比較的乾燥した環境にある.しかし後期中新世の前半では,南~東南アジア地域は比較的湿潤な森林地帯であり,ミャンマー中央部でも主に森林性の哺乳類が生息していたことが先行研究で明らかになっていた.最近のミャンマー中央部の鮮新世初頭~鮮新世末の地層の発掘調査の結果,当時の環境が森林と草原の混在する状況で,森林性と草原性の動物が混在していたことが判明している.現在のような乾燥地域ほどではないが,ヒマラヤ山脈やチベット高原の上昇に伴いモンスーン気候が進み,次第に乾燥化・草原化が進む段階にあったことが明らかになりつつある.<br><br> またチャインザウック相では南アジアの動物相の要素が多いのに対し,グウェビン相では東南アジアの動物相が急増していることが判明した.その原因としては,後期中新世以降に顕著になったアラカン山脈の上昇にともない,ブラマプトラ河などの大型河川の流路が変わり,現在の様な地理的障壁が成立して南アジアと東南アジアの動物相の交流が低下したのではないかと考えられる.<br><br> 今回のシンポジウムでは,霊長類(オナガザル科),小型齧歯類(ヤマアラシ科,ネズミ科,リス科),大型食肉類(クマ科など),長鼻類(ステゴドン科など)の化石の産出状況について4名の発表者が成果を報告し,東南アジアや南アジアの現生種との関連性を中心に話題提供をおこないたい.古生物学者だけでなく現生種の研究者からの参加も歓迎する.