著者
西岡 佑一郎 楠橋 直 高井 正成
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.251-267, 2020 (Released:2020-08-04)
参考文献数
118

化石記録と分子系統の結果が一致しないという問題は今に始まった話ではないが,近年,哺乳類の現生目の起源と放散が中生代なのか,新生代なのかという点が多く議論されてきた.哺乳形類の起源は2億年以上前であり,中生代のジュラ紀から白亜紀にかけて,ドコドン類との共通祖先群から単孔類,有袋類,有胎盤類に繋がる狭義の哺乳類が分岐したと考えられている.化石記録に基づくと,有胎盤類に含まれる現生目の多くが新生代の古第三紀初頭(6000万~5000万年前)に出現しており,未だ白亜紀からクラウン・クレードの確実な化石は発見されていない.これは有胎盤類が古第三紀初頭に爆発的に放散したという仮説を支持しているが,一方で白亜紀/古第三紀境界(約6600万年前)から有胎盤類の放散時期までの時間があまりに短すぎるという批判もある.最近の研究では,有胎盤類のクラウン・クレード(異節類やローラシア獣類など)の起源が白亜紀,目レベルでの放散が暁新世に起きた可能性が示されており,現状ではそれが化石記録と分子系統の折り合いをつける最適な解釈であろう.
著者
高井 正成 西村 剛 米田 穣 鈴木 淳 江木 直子 近藤 信太郎 内藤 宗孝 名取 真人 姉崎 智子 三枝 春生
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

ミャンマー中新世末~前期更新世の地層から、複数のオナガザル科化石を発見し、さらに共産する動物相の解析を進めてミャンマーの新生代後半の哺乳動物相の変遷を明らかにした。また東ユーラシア各地(中国南部の広西壮族自治区、台湾南部の左鎮、シベリア南部のトランスバイカル地域、中央アジアのタジキスタンなど)の新生代後半の地層から見つかっていた霊長類化石の再検討を行い、その系統的位置に関する議論を行った。
著者
江木 直子 荻野 慎諧 高井 正成
出版者
日本古生物学会
雑誌
化石 (ISSN:00229202)
巻号頁・発行日
vol.104, pp.21-33, 2018-09-30 (Released:2019-04-03)

We report occurrences of carnivorans from the Irrawaddy beds in central Myanmar. Intensive expeditions in the recent decade improved understandings on biostratigraphic position of each fauna within the Irrawaddy beds (Late Miocene to Early Pleistocene) and brought out discovery of carnivoran specimens. An amphicyonid has been collected from the Tebingan locality, near the basal horizon (Late Miocene) of the Irrawaddy beds. This large animal is considered to be a new genus endemic to Myanmar. The Chaingzauk fauna (around the Miocene/Pliocene boundary) yields the most abundant remains: An ailurid (Simocyon), a large ursid (Agriotherium), a saber-tooth felid (Homotherium), at least three species of hyaenids including a primitive subfamily member (Ictitherium), a running form (Hyaenictis), and a wolf-like form (Hyaenictitherium). The fauna consists of medium to gigantic forms; sampling biases seem to influence collection of carnivorans as well as those of other mammals. All of these carnivoran genera have cosmopolitan distributions, and the occurrences from Myanmar fill their geological gap at Southeast Asia within Eurasia. Additionally, an indeterminate feliform was collected from the fauna. The Gwebin fauna (Late Pliocene) include a herpestid (Urva), a medium-sized felid, and a viverrid (Viverrinae). This first record of herpestid in the Pliocene of Asia confirms that the extant Asian mongoose lineage had already dispersed into Southeast Asia from South Asia by the Late Pliocene. Postcranial materials from the Sulegon area (Pliocene) provide evidences of additional taxa, a small felid and a large hyaenid. These recently collected carnivoran specimens revealed presence of diverse carnivorans from the Irrawaddy faunas. They fill geographical and/or chronological gaps of carnivoran distributions in Southeast Asia. Furthermore, the comparisons among carnivoran assemblages indicate faunal turnover of carnivorans at the family or subfamily level from the Late Miocene to the Late Pliocene of Myanmar.
著者
西岡 佑一郎 鍔本 武久 タウン ・ タイ ジン ・ マウン ・ マウン ・ テイン 高井 正成
出版者
日本古生物学会
雑誌
化石 (ISSN:00229202)
巻号頁・発行日
vol.104, pp.5-20, 2018-09-30 (Released:2019-04-03)

The upper Neogene Pegu Group and Irrawaddy beds of Central Myanmar yield abundant perissodactyl and artiodactyl (cetartiodactyl) fossils. The upper Pegu or lowest Irrawaddy fauna is correlated with the middle Miocene Chinji fauna of the Siwalik Group, Indo-Pakistan, which contains Brachypotherium, Listriodon, and Microbunodon. The occurrence of Hipparion, Tetraconodon, Bramatherium, and some bovids (e.g., Selenoportax and Pachyportax) represents the early late Miocene fauna in Central Myanmar. Hipparion and Bramatherium disappeared in the latest Miocene or early Pliocene, while the bovids survived until this period. The latest Miocene/early Pliocene fauna is characterized by dominance of bovids and hippos (Hexaprotodon), which indicate the increase of grassland. The late Pliocene fauna is basically not different from the latest Miocene/ early Pliocene fauna because many perissodactyl and artiodactyl species continuously occur from both horizons of the Irrawaddy beds. Through the late Neogene, there were a few times of faunal and floral changes in continental Southeast Asia, and one of the remarkable change was during the late Miocene. Many forest dwellers that existed in the middle Miocene to early late Miocene were probably extinct at least before the latest Miocene when grasslands or open woodlands expanded in Central Myanmar.
著者
高井 正成 河野 礼子 金 昌柱 張 穎奇
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement
巻号頁・発行日
vol.29, 2013

&nbsp;現在東アジア南部の大陸地域には,オランウータン,テナガザル(3属),コロブス亜科(6-7属)オナガザル亜科のマカク,メガネザル,そして原猿類のスローロリスなどが生息している.一方,中,国科学院古脊椎動物・古人類研究所の金昌柱教授が中心となって進めてきた広西壮族自治区崇左地域の更新世の洞窟堆積物の発掘調査では,これまで <i>Homo</i>,<i>Gigantopithecus</i>(ギガントピテクス), <i>Pongo</i>,<i>Hylobates</i>,<i>Macaca</i>,<i>Rhinopithecus</i>,<i>Trachypithecus</i>が確認されていた.その後更に霊長類化石の同定作業を進めた結果,大型オナガザル亜科である <i>Procynocephalus</i>と中型コロブス亜科の <i>Pygathrix</i>らしき化石が含まれていることが分かってきた.本発表では,こういった複数の洞窟から見つかっている霊長類化石の産出パターンの経時的な変化について報告する.<br>&nbsp;扱っている化石標本は 14の洞窟から発掘したものであるが,最も古い百孔洞が後期更新世(約 220万年前),新しいものは後期更新世(約 10万年前以降)と考えられている.霊長類化石の種類は,最古の百孔洞の時点ですでにヒト以外の属が全て出現している可能性が高い.巨大な化石類人猿であるギガントピテクスの標本は後期更新世以降の洞窟からは発見されていないので,おそらく同属は中期更新世の末期から後期更新世の初頭にかけて絶滅したらしい.一方,現生の大型類人猿であるオランウータンは全ての洞窟から化石標本が見つかっているので,中国南部では完新世まで生き残っていたらしい.テナガザル化石の標本比率は非常に少ないのであるが,百孔洞以降ほぼ全ての洞窟から出土していることから,他のホミノイド類(ギガントピテクスとオランウータン)の絶滅とは対照的に現生まで同地域で生き残ることができたらしい.
著者
高井 正成 李 隆助 伊藤 毅 西岡 佑一郎
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement
巻号頁・発行日
vol.28, 2012

韓国中原地域の中期~後期更新世の洞窟堆積物から出土していたマカク類の化石について、予備的な報告を行う。対象とした化石標本は、忠清北道西部のDurubong洞窟(中期~後期更新世)と忠清北道東部のGunang洞窟(後期更新世)からみつかっていたものである。Durubong洞窟は1970年代後半から発表者の李隆助らにより複数の洞窟で発掘調査が行われ、加工された骨や旧石器、人骨が見つかっていた。大型の動物化石としてはマカクザル、サイ、ハイエナ、クマ、シカ、バク、ゾウなどの化石が見つかっていた。またGunang洞窟は1980年代後半から、忠北大学博物館が中心となって発掘調査が行われている、現在も継続中である。旧石器が見つかっている他に、マカクザル、クマ、トラ、シカ、カモシカなどの動物骨が見つかっている。<br> 今回報告するマカクザルの歯は、中国各地のマカク化石やニホンザル化石と比較しても最も大型の部類に含まれる。中国の更新世のマカク化石は、大型の<i>Macaca anderssoni</i>と中型の<i>M. robustus</i>に分けられているが、遊離歯化石だけで両者を区別することは非常に難しいため、同一種とする研究者も多い。今回再検討したマカク化石には、上顎第三大臼歯の遠心部にdistoconulusとよばれる異常咬頭を保持しているものが含まれていた。この形質はニホンザルで高頻度で報告される特徴の一つであるが、<i>M. anderssoni</i>では報告されていない。一方、発表者の伊藤毅がおこなったマカクザル頭骨の内部構造の解析により、M. anderssoniはニホンザルとは別系統に含まれる可能性が高いことが明らかになった。したがって韓国から見つかっているマカクザル化石は、ニホンザルの祖先種グループとしての<i>M. robustus</i>である可能性が高い。
著者
高井 正成 松野 昌展
出版者
京都大学ヒマラヤ研究会
雑誌
ヒマラヤ学誌 : Himalayan Study Monographs (ISSN:09148620)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.47-65, 1996-05-15

モンゴル共和国の首都ウランバートルにおいて, 現代モンゴル人を対象に, 歯科人類学的調査をおこなった. 男性19人, 女性30人の計49人の歯列印象をアルジン酸印象材を用いて採得し, その場で硬石膏を流し込んで作製したものを現代日本人およびパキスタン最北部のワヒー・タジク人から採得した歯列印象と比較検討した. またアフガニスタンのタジク人およびパシュトン人についての同様の調査の報告(酒井ほか, 1969; 1970) と比較して, 計測項目・非計測項目の両面から彼らの人種的な考察をおこなった. 現在までの歯科人類学的研究によると, アジア地域のモンゴロイドは東南アジア・インドネシア・ポリネシアに分布する「スンダドント型」集団と, 中国・日本・シベリアなどに分布する「シノドント型」集団に大別されることが多い. 現代モンゴル人を対象とした本調査の結果を現代日本人のものと比較したところ, 「シノドント型」の形質が日本人において, より典型的に出現していることがわかった. 日本人を含めた東アジアのモンゴロイド系住民の移動と進化を考える上で, 興味深い結果を示している.
著者
高井 正成
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement
巻号頁・発行日
vol.29, 2013

&nbsp;東南アジア大陸部の中新世末(約 700万年前)~鮮新世末(約 250万年前)にかけての陸生哺乳類相の変遷を,最新の化石発掘調査の成果を基に報告し,同地域の現生哺乳類相への進化プロセスについての検討をおこなう.<br><br>&nbsp;京都大学霊長類研究所では,2002年からミャンマー中央部の第三紀後半の地層を対象に,霊長類化石の発掘を主目的とした発掘調査を行ってきた.この調査では複数の調査地点を対象にしているが,これまでに中新世末~鮮新世初頭に相当するチャインザウック地点と,鮮新世後半のグウェビン地点の化石動物相の記載が進展し,この期間におけるミャンマー中央部の動物相の変遷状況が明らかになりつつある.<br><br>&nbsp;現在のミャンマー中央部はモンスーン気候の影響下にあるが,夏季の湿った季節風は西部のアラカン山脈で雨となってしまうため,風下側では比較的乾燥した環境にある.しかし後期中新世の前半では,南~東南アジア地域は比較的湿潤な森林地帯であり,ミャンマー中央部でも主に森林性の哺乳類が生息していたことが先行研究で明らかになっていた.最近のミャンマー中央部の鮮新世初頭~鮮新世末の地層の発掘調査の結果,当時の環境が森林と草原の混在する状況で,森林性と草原性の動物が混在していたことが判明している.現在のような乾燥地域ほどではないが,ヒマラヤ山脈やチベット高原の上昇に伴いモンスーン気候が進み,次第に乾燥化・草原化が進む段階にあったことが明らかになりつつある.<br><br>&nbsp;またチャインザウック相では南アジアの動物相の要素が多いのに対し,グウェビン相では東南アジアの動物相が急増していることが判明した.その原因としては,後期中新世以降に顕著になったアラカン山脈の上昇にともない,ブラマプトラ河などの大型河川の流路が変わり,現在の様な地理的障壁が成立して南アジアと東南アジアの動物相の交流が低下したのではないかと考えられる.<br><br>&nbsp;今回のシンポジウムでは,霊長類(オナガザル科),小型齧歯類(ヤマアラシ科,ネズミ科,リス科),大型食肉類(クマ科など),長鼻類(ステゴドン科など)の化石の産出状況について4名の発表者が成果を報告し,東南アジアや南アジアの現生種との関連性を中心に話題提供をおこないたい.古生物学者だけでなく現生種の研究者からの参加も歓迎する.
著者
高井 正成 阪口 哲男
雑誌
研究報告情報基礎とアクセス技術(IFAT)
巻号頁・発行日
vol.2012, no.1, pp.1-8, 2012-09-18

近年, Web アプリケーションの提供者はその機能を他のアプリケーションから利用してもらうため, Web API を提供する事例が増加している. Web API では HTTP などの通信プロトコルによるリクエスト・レスポンスにより通信を行うという大きな枠組みは共通しているものの,細かな仕様は各 Web API 提供者によって定められる.そのため各 Web API に互換性がなく, Web アプリケーション開発者は Web API を利用する場合,仕様を確認しそれぞれの Web API の仕様に沿ったプログラムライブラリを作成する必要がある.そこで本研究では開発者がプログラムライブラリを自分で作成する手間を省くため, Web API の仕様文書から情報を抽出し,プログラムライブラリを自動生成する手法を提案する.The case is increasing that Web Application providers publish Web APIs which are used by other applications with Web protocol. They are designed based on common simple protocol but detail specification of each of them is decided by its provider. So Web APIs don't have compatibility with each other. Web application developers have to read documents of Web APIs and make program libraries for them if they use Web APIs. This paper proposes a method to make program libraries automatically by means of information extraction from Web API documents in order to developers avoids the trouble of making program libraries.
著者
近藤 信太郎 内藤 宗孝 松野 昌展 高井 正成 五十嵐 由里子
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

下顎骨の外側面に見られる隆起の形態的特徴と機能を明らかにするために非ヒト霊長類778個体を観察した。比較検討のために下顎骨外側面に見られる窩を同時に観察した。マカク属,サバンナモンキー属,マンガベイ属では隆起と窩の両方が見られた。隆起は緻密骨から成り,ヒトの下顎隆起に類似していた。発達の良い隆起は頬袋の入り口に近接していた。深く大きい窩はヒヒ属,ゲラダヒヒ属,マンドリル属の全個体に見られた。窩は第一大臼歯部が最も深く,この部位では骨質が薄くなっていた。隆起より前方に位置した。隆起と窩は下顎骨を補強する,あるいは負荷の軽減の機能をもち,咀嚼に対する適応的な形態と考えられる。
著者
高井 正成
巻号頁・発行日
2013

筑波大学修士 (情報学) 学位論文・平成25年3月25日授与 (30961号)