- 著者
-
加藤 政洋
- 出版者
- 公益社団法人 日本地理学会
- 雑誌
- 日本地理学会発表要旨集
- 巻号頁・発行日
- vol.2013, 2013
本研究は、昭和23(1948)年7月に公布され、その後、昭和34(1959)年2月に一部改正された「風俗営業(等)取締法」ならびに同法の各都道府県における施行条例を素材にして、「文化」を制度化する力学を明らかにし、その帰結である地理的変奏に関して文化地理学的な検討をくわえるものである。風俗営業あるいはそれを取り締まる法令については、これまで文化地理学の研究対象として取り上げられることがほとんどなかったものの、実のところそれらは地域の文化と密接に関わっている。というのも、そもそも「風俗」とは特定の時代の地域や集団に固有の慣習であり、仮にそれらが近代以降の国家スケールの法令によって一律に取り扱われるところとなるならば、自ずとスケール間・地域間の矛盾が発現し、実状に沿わぬ改変が強制されるなどして、文化の様態も(少なくとも表面的には)変化を余儀なくされるだろう。本発表では、風俗営業取締のなかでも花街に照準した条文とその解釈に焦点を絞り、法令制定の背後に潜む意図を踏まえつつ、都道府県レヴェルで地域の遊興文化に及ぼした影響を明らかにしてみたい。いくぶん結論を先取りして述べるならば、GHQの介入を受けた東京都の条例を、それと知らず他府県が雛形として援用したことで、花街における遊興文化――「お座敷あそび」――は奇妙なかたちで制度化/地域化されるのだった。