- 著者
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小口 高
近藤 康久
- 出版者
- 公益社団法人 日本地理学会
- 雑誌
- 日本地理学会発表要旨集
- 巻号頁・発行日
- vol.2013, 2013
オマーン内陸部のワディ・アル=カビール盆地は、大規模な山地であるハジャル山脈の南麓に位置する。盆地には涸れ川(ワディ)が分布しており、とくに東から流入するワディ・アル=カビールと、北から流入するワディ・フワイバが顕著である。本地域は1988年にユネスコの世界文化遺産に登録された「バット、アル=フトゥム、アル=アインの考古遺跡群」の一部を含み、石積みの墓などの完新世中期の人類遺跡で知られる。さらに旧石器時代の遺物も発見されており、日本、米国、ドイツなどの考古学者が近年活発に調査を行っている。 演者らは2013年初頭にワディ・アル=カビール盆地とその周辺の地形と地質を調査した。その結果、興味深い斜面地形、河川地形、表層堆積物が確認された。その一例は、盆地の北東部に位置する比高300 m程度の山地と山麓の地形(図1)である。山地の中部~下部の斜面には、基板岩の構造を反映する帯状の凹凸がみられ、凸部(図1の暗色部、A)には石器の材料となる良質のチャートが含まれる。山地斜面の谷の両脇には開析された崖錐斜面(B)が分布する。山麓の一部には扇状地がみられ、相対的に古いもの(C)と新しいもの(D)を識別できる。さらにその下方にはワディ・アル=カビールが形成した氾濫原が分布している(E)。崖錐斜面や扇状地の地表面および堆積物から、中期旧石器などの考古遺物が発見された。 既存研究によると、中東地域の開析された崖錐斜面は氷期~間氷期の気候変化を反映する。現地観察によると、扇状地や氾濫原における完新世中期以降の地形変化は概して不活発であり、それ以前に大規模な堆積を含む顕著な地形変化があったと考えられる。今後、地形変化の実態と人類史との関係を、さらなる現地調査を通じて詳しく検討する予定である。