- 著者
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太田 慧
- 出版者
- 公益社団法人 日本地理学会
- 雑誌
- 日本地理学会発表要旨集
- 巻号頁・発行日
- vol.2013, 2013
1.研究目的<br> 本研究は,大都市周辺である千葉県館山市を事例として,海岸観光地における土地利用パターンとその変化プロセスを,時間的・空間的観点から明らかにしたものである.大都市周辺では,都市化と共に農業的土地利用が維持される傾向にある(菊地,1994).さらに,海岸観光地においては,ビーチを中心として都市的土利用が増大する傾向にあるという形態的研究がある(Pearce, 1994).以上のことから,大都市周辺としての都市化の影響と,ビーチ周辺の都市化という2つの影響を考慮し,海岸観光地の土地利用をミクロな視点でとらえ,土地利用変化プロセスのドライビングフォースを時間的・空間的な観点から明らかにすることを研究目的とした. <br>2.千葉県館山市北条地区<br> 房総半島南部に位置する千葉県館山市は,東京都心から約100kmに位置し,大都市周辺に位置づけられる.館山市の北条地区は,JR内房線館山駅が立地するほか,館山市役所やその他の行政機能が集中する南房総地域を代表する都市である.北条海岸海水浴場が立地するJR館山駅の西口は,民宿や宿泊施設が多く立地する観光地として発展している一方,駅東口は従来からの市街地と農地が中心の土地利用である.館山市の観光の歴史は古く,1915年の北条海岸海水浴場の開設にまでさかのぼる.その後,第2次世界大戦以降は観光客数が増加傾向にある.しかし,1990年代以降は人口が徐々に減少し,2010年現在では市の設置要件の基準である5万人を下回った.<br>3.考察<br> 館山市の産業別人口を参照すると,飲食・宿泊業の従業者数が最多である.さらに,産業別人口について特化係数を算出した結果,全国と比較して館山市の産業別人口は飲食・宿泊業が最も特出した産業であり,次いで農林漁業の従業者数が多いことが明らかになった.このため,本研究においては主に観光業と農林漁業に着目して,土地利用変化の要因を明らかにしていく.<br> 館山市の北条地区は,民宿を中心とする個人経営の宿泊施設によって東京からの観光需要を受け入れてきた.民宿を主体とする宿泊施設は,2010年現在ではJR館山駅の西口に集中しており,海岸線沿いを走る内房なぎさラインに沿って立地している.しかし,1993年の館山バイパスの開通や,1997年の東京湾アクアラインの開通によるアクセシビリティの向上によって,館山市の観光客数が増加した一方で,宿泊をともなう観光客が減少した.その結果,民宿数が最多であった1980年の227戸から2010年には55戸にまで減少した.<br> 館山市の農地の現状は,農業地区域のものとその他の農地に分類される.農業地区域においては,大型機械に対応して整備された農地となっており,主に水田として利用されている.一方,その他の農地については,市街地に取り囲まれる形で残存しており,小規模な農地を利用して花卉を中心としたハウス栽培が立地している.しかし,館山市北条地区における農家数は1970年の402戸から2010年には74戸にまで減少し,経営耕地面積についても1970年から2010年にかけて約3分の1にまで減少した.このような農地の減少は,多くのロードサイド店舗が館山バイパス沿いに出店することでさらに促進された.そして,これらの商業地の発展は,JR館山駅前の中心市街地の衰退をもたらした.<br>