著者
小池 拓矢 杉本 興運 太田 慧 池田 真利子 飯塚 遼 磯野 巧
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.125-139, 2018 (Released:2018-04-13)

本研究は,東京大都市圏における若者のアニメに関連した観光・レジャーの実態と空間的な特徴を明らかにすることを目的とした。Web上で実施したアンケートからは,単にアニメに関連した観光・レジャーといっても,その活動の種類によって参加頻度が大きくことなることや,日常的に顔を合わせる友人だけでなく,オンライン上で知り合った友人とも一緒に観光・レジャーを行う層が一定数いることが明らかになった。さらに,アンケートの結果をもとに,来訪されやすいアニメショップや印象に残りやすいアニメの聖地の空間的特徴を概観した。秋葉原や池袋などのアニメショップが集積する場所として有名な場所だけでなく,新宿にもその集積がみられた。また,都心部にもアニメの聖地が数多くみられ,多くの若者が訪れていることが明らかとなった。
著者
太田 慧 杉本 興運 上原 明 池田 真利子 飯塚 遼 磯野 巧 小池 拓矢
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.165-179, 2018 (Released:2018-04-13)
被引用文献数
3

近年,日本におけるクルーズ需要は高まっており,都市におけるナイトクルーズも都市観光におけるナイトライフの充実を図るうえで重要な観光アトラクションとなっている。本研究は,東京におけるナイトクルーズの一つとして東京湾納涼船をとりあげ,東京湾納涼船の歴史と運航システムを整理し,東京湾納涼船の集客戦略と若者の利用特性を明らかにした。1990年代以降の東京湾納涼船の乗船客数の減少に対して,2000年以降に若者をターゲットとした集客戦略の転換が図られ,ゆかたを着た乗船客への割引や若者向けの船内コンテンツが導入された。その結果,2014年以降の年間乗船客数は14万人を超えるまでに増加した。乗船客へのアンケート調査の結果,東京湾納涼船は大学生を中心とした若者にとって金銭的にも心理的にも乗船する際の障壁が低いことが明らかになった。つまり,安価で手軽に利用できる東京湾納涼船は学生を含む若者にナイトクルーズ利用の機会を増やしている。
著者
池田 真利子 卯田 卓矢 磯野 巧 杉本 興運 太田 慧 小池 拓矢 飯塚 遼
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.149-164, 2018 (Released:2018-04-13)
被引用文献数
4

東京五輪の開催(2020)に始まる都市観光活性化の動きのなかで,東京のナイトライフ研究への注目が高まりつつある。本研究は,東京の夜間経済や夜間観光の発展可能性を視野に,東京における若者向けのナイトライフ観光の特性を,夜間音楽観光資源であるクラブ・ライブハウスに注目することにより明らかにした。まず,クラブ・ライブハウスの法律・統計上の定義と実態とを整理し,次に後者に則した数値を基に地理的分布を明らかにした。その結果,これら施設は渋谷区・新宿区・港区に集中しており,とりわけ訪日観光という点では渋谷区・港区でナイトライフツアーや関連サービス業の発現がみられることがわかった。また,風営法改正(2016 年6 月)をうけ業界再編成が見込まれるなかで,渋谷区ではナイトライフ観光振興への動きも確認された。こうしたナイトライフ観光は,東京五輪に向けてより活発化していく可能性もある。
著者
太田 慧
出版者
首都大学東京 大学院 都市環境科学研究科 観光科学域
雑誌
観光科学研究 (ISSN:18824498)
巻号頁・発行日
no.7, pp.37-44, 2014-03-20

近年,隅田川や東京臨海部をはじめとしたウォーターフロントへの関心が高まっている。そこで本研究では,東京ウォーターフロントにおける水上バス航路の変遷と運航船舶の多様化についての考察を試みた。東京における水上バスの歴史は明治時代に始まったが,高度経済成長期の水質悪化によって低迷した。その後,水質改善と1980年代のウォーターフロントブームが契機となり,水上バス事業者の新規参入が促された。1990年代の航路では,荒川や旧江戸川を航路とした広域的な航路が存在したが,2000年代になると隅田川およびお台場周辺の東京臨海部を中心とした航路に変化したことが明らかになった。また,近年は中小河川を周遊する小型船やデザインに特徴のある新型船の導入により運航船舶が多様化し,観光アトラクションとしての機能を高めている。
著者
飯塚 遼 太田 慧 池田 真利子 小池 拓矢 磯野 巧 杉本 興運
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.140-148, 2018 (Released:2018-04-13)

近年の世界的なクラフトビールブームのなか,ビールの消費量が減少している日本においてもクラフトビールの人気が高まりをみせている。とくにクラフトビールをテーマとしたイベントは全国各地で開催されるようになり,単なるプロモーションだけではなく,地域活性化の手段としても注目され始めている。また,それらのイベントは,ビール離れが進行しているとされる若者をも集客しており,若者のイベントとしての様相もみせている。本研究は,イベントの集積がみられる東京都を対象として,クラフトビールイベントの展開と若者のクラフトビール消費行動の関係性についてフード・ツーリズムの観点から一考察を試みるものである。そこでは,クラフトビールイベントを通じた若者の消費行動による新たなクラフトビール文化が形成され,その文化を背景とするオルタナティブな都市型フード・ツーリズムの形態が存立していることが示唆された。
著者
池田 真利子 坂本 優紀 中川 紗智 太田 慧 杉本 興運 卯田 卓矢
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.207-226, 2019 (Released:2020-03-25)
参考文献数
74

本稿は,隣接諸領域において長らく術語となってきた景観を夜との関係から考察することで,景観論に若干の考察を加えることを目的とする。景観の原語とされるラントシャフトは,自然科学分野にて紹介され,方法論的発展の必要と相まって視覚的・静態的・形態的に捉えられた。他方の人文学領域においては,景観・風景の使い分けがなされてきたが,1970年代の景観の有するモダニティに対する批判的検討以降も視覚的題材がその考察の主体であった。夜を光の不在で定義すると,人間が視覚で地表面を捉えることのできない夜の地域の姿が浮かび上がってくる。これは,視覚を頂点とするヒエラルキ−を再考することでもある。同時に夜に可視化される光と闇に,近代以降,人間は都市・自然らしさという意味を見出してもきた。それは,光で演出する行為であり,星空を見る行為でもある。現代はその双方が自然と都市に混在するのである。
著者
飯塚 遼 太田 慧 菊地 俊夫
出版者
公益社団法人 東京地学協会
雑誌
地学雑誌 (ISSN:0022135X)
巻号頁・発行日
vol.128, no.2, pp.171-187, 2019-04-25 (Released:2019-06-01)
参考文献数
41
被引用文献数
8 5

With rapid globalisation and urbanisation, urban agriculture is experiencing many changes, for instance, in the preferences of consumers, who require more food security. In many cities across the world, urban agriculture is also positioned for food production and community building. In Japan, interest in urban agriculture has grown steadily, supported by the enactment of an urban agriculture law in 2015. Urban agriculture studies have been a controversial topic of research since around the 2000s in many academic fields, including geography. However, there have been few studies on the relationship between agricultural management, or farmers, and urban residents, although capturing interactions among urban residents as consumers and intentions for consuming urban agricultural space are critical when considering the sustainability of urban agriculture. Interactions are explored between farms and urban residents in the context of diversified agricultural management based on a case study using Kodaira city in the Tokyo Metropolis. Because the area is one of the urban agricultural areas of the Tokyo Metropolis, where many independent farmers survive, Kodaira city is a suitable study area to explore the diversification of farming and communication with urban residents. Literature, such as previous studies, is analysed. Then, public survey data is analysed to illustrate the spatial distribution of agricultural management patterns and classify them. In addition to qualitative analysis from field research, interviews with case farmers reveal the decision making of farmers in adopting specific methods of agricultural management and interactions with urban residents. Hence, interactions between farmers and urban residents exist based on agricultural management in Kodaira city. The classification of interaction styles is based on features of the area in a definite pattern. Such interaction styles prevent excessive competition among farms, attract stable customers, and realise sustainable management. Finally, urban agriculture in Kodaira city is founded on interactions with urban residents through the diversification of agricultural management.
著者
太田 慧 菊地 俊夫
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2017年度日本地理学会秋季学術大会
巻号頁・発行日
pp.100153, 2017 (Released:2017-10-26)

1.研究背景と目的 多摩地域に位置する東京都小平市は市域が東西に広がっており,市内の東西で土地利用や産業構造に異なる特徴がみられる.本研究は2016年度に実施した小平市産業振興計画に基づく基礎調査のアンケート結果に基づいて,東京都小平市における消費行動の傾向を品目別に検討し,それらの地域的な特徴について明らかにした.2.東京都小平市における購買行動の地域特性 図1および図2は,小平市の東部,中部,西部の地域別に生鮮食品および娯楽サービスの主要な購入・利用先の回答割合を線の太さで表現したものである.図1のように,小平市の東部地域における生鮮食品購入先の回答は,「花小金井駅周辺地区」で購買する割合が最も高い.一方,中部地域の回答では「一橋学園駅周辺地区」,西部地域は「小川駅周辺地区」などのそれぞれの地域から近い場所で購入する割合が高いほか,一部では「新宿駅周辺地区」や「吉祥寺駅周辺地区」などの都心方面の回答もみられた.娯楽サービスについては,小平市の東部地域は「新宿駅周辺地区」,中部地域と西部地域は「立川駅周辺地区」を利用する割合が最も高くなる一方で,相対的に小平市内における娯楽サービスの回答割合は低い傾向となっていた(図2). さらに,アンケート調査回答の購入・利用割合について,生鮮食品,紳士服・婦人服,娯楽サービス,教育サービス,外食サービス,医療・介護サービスの6項目について検討した.その結果,生鮮食品,教育サービス,医療・介護サービスなどの市民が日常的に利用するものに関しては小平市内やその近隣で購入・利用されていることが示された.一方,紳士服・婦人服,娯楽サービス,外食サービスについては,「新宿駅周辺」や「吉祥寺駅周辺」などの都心方面に加えて,「国分寺駅周辺」や「立川駅周辺」などの中央線沿線の商業地域がよく利用されていた.全体的にみれば,小平市東部地域の住民は「新宿駅周辺」や「吉祥寺駅周辺」などの都心方面において商品・サービスを購入・利用する傾向があるのに対して,西部地域の住民は「立川駅周辺」を回答する傾向があった.また,中部地域の住民は「国分寺駅周辺」の回答がやや多いが,おおむね東部地域と西部地域の購入・利用傾向の中間的なものとなっていた.以上のような小平市内で購入・利用先に差異がみられる傾向は,娯楽サービスでより顕著にみられた.つまり,服の購入,娯楽,外食などの週末の利用が想定される項目に関しては,小平市内よりも新宿や吉祥寺,立川などの中央線沿線の商業地域がよく利用されているといえる.
著者
太田 慧
出版者
公益社団法人 東京地学協会
雑誌
地学雑誌 (ISSN:0022135X)
巻号頁・発行日
vol.124, no.4, pp.525-544, 2015-08-25 (Released:2015-09-17)
参考文献数
24

Changing land use patterns are clarified from time and space points of view. Relationships are revealed between changing land-use patterns and port functions in the Kaigan area of the Tokyo waterfront, Minato Ward, Tokyo Metropolis. After Tokyo port opened in 1941, the Tokyo waterfront area was used mainly for logistics facilities, such as warehouses and port facilities. However, since the 1960s, the logistics system in the port has been changed by containerization. Port facilities in the Tokyo waterfront area became outdated. In response, the Tokyo waterfront area was redeveloped in the mid-1980s. As a result, significant changes to land use occurred in the Tokyo waterfront area. This study selects three target years, 1985, 1996, and 2012. A mesh analysis is conducted of land use in the Kaigan area, Minato Ward, Tokyo district. From 1985 to 1996, the port policy changed land use in the port district away from logistics facilities, including warehouses and port facilities. From 1985 to 1996, vacant land for redevelopment increased during the period of the asset inflation-led bubble economy. In comparison with the period from 1985 to 1996, during the period of from 1996 to 2012, land use changes in the port district ceased and changes outside the port district continued. These are connected to changing port functions. Since the 2000s, the number of passenger ships using Takeshiba pier has increased, promoting changes to urban land use in the surrounding area. On the other hand, at Shibaura pier, the number of the cargo ships entering remains unchanged, and land in the vicinity has continued to be used for logistics facilities such as warehouses and port facilities. Consequently, relationships are suggested between changing land-use patterns and port functions.
著者
太田 慧 池田 真利子 飯塚 遼
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2018, 2018

<b>1</b><b>.</b><b>研究背景と目的</b><br><br> ナイトライフ観光は,ポスト工業都市における都市経済の発展や都市アメニティの充足と密接に関わり,都市変容を生み出す原動力としても機能し得るという側面から2000年代以降注目を浴びてきた(Hollands and Chatterton 2003).この世界的潮流は,創造産業や都市の創造性に係る都市間競争を背景に2010年代以降加速しつつあり,東京では,東京五輪開催(2020)やIR推進法の整備(2016),およびMICE観光振興を視野に,区の観光振興政策と協働する形で,ナイトライフ観光のもつ経済的潜在力に注目が向けられ始めている(池田 2017).このようなナイトライフ観光の経済的潜在能力は,近年ナイトタイムエコノミーと総称され,新たな夜間の観光市場として国内外で注目を集めている(木曽2017).本研究では,日本において最も観光市場が活発である東京を事例として,ナイトタイムエコノミー利用の事例(音楽・クルーズ・クラフトビール)を整理するとともに,東京湾に展開されるナイトクルーズの一つである東京湾納涼船の利用実態をもとにナイトライフ観光の若者の利用特性について検討することを目的とする.<br><br><b>2</b><b>.東京湾納涼船にみる若者のナイトライフ観光の利用特性</b><br><br>東京湾納涼船は,東京と伊豆諸島方面を結ぶ大型貨客船の竹芝埠頭への停泊時間を利用して東京湾を周遊する約2時間のナイトクルーズを展開している,いわばナイトタイムの「遊休利用」である.アンケート調査は2017年8月に実施し,無作為に抽出した回答者から117件の回答を得た.回答者の87.2%に該当する102人が18~35歳未満の若者となっており,東京湾納涼船が若者の支持を集めていることが示された.職業については,大学生が50.4%,大学院生が4.3%,専門学校生が0.9%,会社員が39.3%,無職が1.7%,無回答が2.6%となっており,大学生と大学院生で回答者の半数以上が占められていた.図1は東京湾納涼船の乗船客の居住地を職業別に示したものである。これによれば,会社員と比較して学生(大学生,大学院生,専門学校生も含む)の居住地は多摩地域を含むと東京西部から神奈川県の北部まで広がっている.また,18~34歳までの若者の83.9%(73件)がゆかたを着用して乗船すると乗船料が割引になる「ゆかた割引」を利用しており,これには18~34歳までの女性の回答者のうちの89.7%(52件)が該当した.つまり,若者の乗船客の多くはゆかたを着て「変身」することによる非日常の体験を重視しており,東京湾納涼船における「ゆかた割」はこうした若者の需要をとらえたものといえる.以上のように,東京湾納涼船は大学生を中心とした若者にとってナイトライフ観光の一つとして定着している.
著者
太田 慧 杉本 興運 上原 明 池田 真利子 飯塚 遼 磯野 巧 小池 拓矢
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.165-179, 2018

近年,日本におけるクルーズ需要は高まっており,都市におけるナイトクルーズも都市観光におけるナイトライフの充実を図るうえで重要な観光アトラクションとなっている。本研究は,東京におけるナイトクルーズの一つとして東京湾納涼船をとりあげ,東京湾納涼船の歴史と運航システムを整理し,東京湾納涼船の集客戦略と若者の利用特性を明らかにした。1990年代以降の東京湾納涼船の乗船客数の減少に対して,2000年以降に若者をターゲットとした集客戦略の転換が図られ,ゆかたを着た乗船客への割引や若者向けの船内コンテンツが導入された。その結果,2014年以降の年間乗船客数は14万人を超えるまでに増加した。乗船客へのアンケート調査の結果,東京湾納涼船は大学生を中心とした若者にとって金銭的にも心理的にも乗船する際の障壁が低いことが明らかになった。つまり,安価で手軽に利用できる東京湾納涼船は学生を含む若者にナイトクルーズ利用の機会を増やしている。
著者
池田 真利子 卯田 卓矢 磯野 巧 杉本 興運 太田 慧 小池 拓矢 飯塚 遼
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.149-164, 2018

東京五輪の開催(2020)に始まる都市観光活性化の動きのなかで,東京のナイトライフ研究への注目が高まりつつある。本研究は,東京の夜間経済や夜間観光の発展可能性を視野に,東京における若者向けのナイトライフ観光の特性を,夜間音楽観光資源であるクラブ・ライブハウスに注目することにより明らかにした。まず,クラブ・ライブハウスの法律・統計上の定義と実態とを整理し,次に後者に則した数値を基に地理的分布を明らかにした。その結果,これら施設は渋谷区・新宿区・港区に集中しており,とりわけ訪日観光という点では渋谷区・港区でナイトライフツアーや関連サービス業の発現がみられることがわかった。また,風営法改正(2016 年6 月)をうけ業界再編成が見込まれるなかで,渋谷区ではナイトライフ観光振興への動きも確認された。こうしたナイトライフ観光は,東京五輪に向けてより活発化していく可能性もある。
著者
太田 慧
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2020, 2020

<p>1. はじめに 南西諸島西部に位置する宮古島市は,主に宮古島,伊良部島,下地島から構成されている。宮古島市内には,宮古島の西部に位置する宮古空港と,下地島に位置する下地島空港の2つの空港が存在している。宮古空港は1989年に東京への直行便が就航して以来,本州からの観光客が増加している。一方,下地島空港はパイロットの訓練用の飛行場であったが,2019年3月に旅客用ターミナルの供用が開始され,本州との間に定期便が就航したほか,香港との国際線も就航した。これにより,東京や大阪などの国内大都市圏や海外からの観光客の増加やリゾート開発にともなう島内経済への大きな影響が見込まれている。また,2015年には宮古島と伊良部島を結ぶ伊良部大橋が開通し,宮古島と伊良部島,下地島間の往来が活発になっている。そこで,本報告ではまず,沖縄県宮古島市における宿泊施設の分布状況を利用料金別に概観し,現在の観光開発の状況について報告する。</p><p>2. データの作成 宿泊施設のデータについては,大手旅行サイト「じゃらんnet」に掲載されている宮古島市に立地する宿泊施設情報から,2020年1月18日時点の大人2名利用時の目安となる宿泊料金を抽出し,116件のデータを得た。その結果,大人2名利用時の料金目安として3,000円未満の宿泊施設数は14軒,3,000〜10,000円未満の宿泊施設数は75軒,10,000〜20,000円未満の宿泊施設数は16軒,20,000円以上の宿泊施設数は11軒であった。これらの結果と分布状況を示したものが図1である。</p><p>3. 利用料金別にみた宿泊施設の分布傾向 図1によれば,宮古島における宿泊施設は宮古島市役所をはじめとする行政機能や島内最大の繁華街が立地する宮古空港北部の平良地区に集中していた。平良地区では特に1泊3,000円以下または3,000円〜10,000円以下の価格帯の宿泊施設が集中しており,民宿ないしは比較的小規模なホテルなどの宿泊施設が目立った。一方,1泊20,000円以上の宿泊施設は宮古島の南海岸に集中しており,宮古島の南海岸沿いに島外資本系列の高価格帯の大規模宿泊施設が進出していることを示している。</p>
著者
洪 明真 太田 慧 杉本 興運 菊地 俊夫
出版者
首都大学東京 大学院 都市環境科学研究科 観光科学域
雑誌
観光科学研究 (ISSN:18824498)
巻号頁・発行日
no.11, pp.35-43, 2018-03-15

本研究は東京都台東区上野地域おける行楽行動の要素を歴史地理学的な観点から検討したものである。江戸期にわたって刊行された名所案内記の挿絵と錦絵を用い,これらの視覚史料に描かれた江戸期の上野地域の描写対象を分析した。江戸上野地域は,新しい都市となった江戸を象徴する建造物を建設するため,地形的・文化的条件が合致する場所であった。そして,為政者による江戸の都市施設と遊覧場所として計画された上野地域の「東叡山」とその周辺には,当時の人々の行楽行動が現われていた。江戸上野地域の視覚史料から描写対象としての「人的要素(女性)」と「物的要素(衣食住関連の商業活動)」に注目したところ,江戸上野地域の行楽行動の要因は「東叡山」と「桜」は江戸上野地域における行楽行動の重要な要素となっていた。
著者
太田 慧 菊地 俊夫
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2017, 2017

<b>1</b><b>.</b><b>研究背景と目的</b> 多摩地域に位置する東京都小平市は市域が東西に広がっており,市内の東西で土地利用や産業構造に異なる特徴がみられる.本研究は2016年度に実施した小平市産業振興計画に基づく基礎調査のアンケート結果に基づいて,東京都小平市における消費行動の傾向を品目別に検討し,それらの地域的な特徴について明らかにした.<br><b>2</b><b>.</b><b>東京都小平市における購買行動の地域特性</b> 図1および図2は,小平市の東部,中部,西部の地域別に生鮮食品および娯楽サービスの主要な購入・利用先の回答割合を線の太さで表現したものである.図1のように,小平市の東部地域における生鮮食品購入先の回答は,「花小金井駅周辺地区」で購買する割合が最も高い.一方,中部地域の回答では「一橋学園駅周辺地区」,西部地域は「小川駅周辺地区」などのそれぞれの地域から近い場所で購入する割合が高いほか,一部では「新宿駅周辺地区」や「吉祥寺駅周辺地区」などの都心方面の回答もみられた.娯楽サービスについては,小平市の東部地域は「新宿駅周辺地区」,中部地域と西部地域は「立川駅周辺地区」を利用する割合が最も高くなる一方で,相対的に小平市内における娯楽サービスの回答割合は低い傾向となっていた(図2). さらに,アンケート調査回答の購入・利用割合について,生鮮食品,紳士服・婦人服,娯楽サービス,教育サービス,外食サービス,医療・介護サービスの6項目について検討した.その結果,生鮮食品,教育サービス,医療・介護サービスなどの市民が日常的に利用するものに関しては小平市内やその近隣で購入・利用されていることが示された.一方,紳士服・婦人服,娯楽サービス,外食サービスについては,「新宿駅周辺」や「吉祥寺駅周辺」などの都心方面に加えて,「国分寺駅周辺」や「立川駅周辺」などの中央線沿線の商業地域がよく利用されていた.全体的にみれば,小平市東部地域の住民は「新宿駅周辺」や「吉祥寺駅周辺」などの都心方面において商品・サービスを購入・利用する傾向があるのに対して,西部地域の住民は「立川駅周辺」を回答する傾向があった.また,中部地域の住民は「国分寺駅周辺」の回答がやや多いが,おおむね東部地域と西部地域の購入・利用傾向の中間的なものとなっていた.以上のような小平市内で購入・利用先に差異がみられる傾向は,娯楽サービスでより顕著にみられた.つまり,服の購入,娯楽,外食などの週末の利用が想定される項目に関しては,小平市内よりも新宿や吉祥寺,立川などの中央線沿線の商業地域がよく利用されているといえる.
著者
太田 慧
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2013, 2013

1.研究目的<br>&nbsp; 本研究は,大都市周辺である千葉県館山市を事例として,海岸観光地における土地利用パターンとその変化プロセスを,時間的・空間的観点から明らかにしたものである.大都市周辺では,都市化と共に農業的土地利用が維持される傾向にある(菊地,1994).さらに,海岸観光地においては,ビーチを中心として都市的土利用が増大する傾向にあるという形態的研究がある(Pearce, 1994).以上のことから,大都市周辺としての都市化の影響と,ビーチ周辺の都市化という2つの影響を考慮し,海岸観光地の土地利用をミクロな視点でとらえ,土地利用変化プロセスのドライビングフォースを時間的・空間的な観点から明らかにすることを研究目的とした. <br>2.千葉県館山市北条地区<br> 房総半島南部に位置する千葉県館山市は,東京都心から約100kmに位置し,大都市周辺に位置づけられる.館山市の北条地区は,JR内房線館山駅が立地するほか,館山市役所やその他の行政機能が集中する南房総地域を代表する都市である.北条海岸海水浴場が立地するJR館山駅の西口は,民宿や宿泊施設が多く立地する観光地として発展している一方,駅東口は従来からの市街地と農地が中心の土地利用である.館山市の観光の歴史は古く,1915年の北条海岸海水浴場の開設にまでさかのぼる.その後,第2次世界大戦以降は観光客数が増加傾向にある.しかし,1990年代以降は人口が徐々に減少し,2010年現在では市の設置要件の基準である5万人を下回った.<br>3.考察<br> 館山市の産業別人口を参照すると,飲食・宿泊業の従業者数が最多である.さらに,産業別人口について特化係数を算出した結果,全国と比較して館山市の産業別人口は飲食・宿泊業が最も特出した産業であり,次いで農林漁業の従業者数が多いことが明らかになった.このため,本研究においては主に観光業と農林漁業に着目して,土地利用変化の要因を明らかにしていく.<br> 館山市の北条地区は,民宿を中心とする個人経営の宿泊施設によって東京からの観光需要を受け入れてきた.民宿を主体とする宿泊施設は,2010年現在ではJR館山駅の西口に集中しており,海岸線沿いを走る内房なぎさラインに沿って立地している.しかし,1993年の館山バイパスの開通や,1997年の東京湾アクアラインの開通によるアクセシビリティの向上によって,館山市の観光客数が増加した一方で,宿泊をともなう観光客が減少した.その結果,民宿数が最多であった1980年の227戸から2010年には55戸にまで減少した.<br> 館山市の農地の現状は,農業地区域のものとその他の農地に分類される.農業地区域においては,大型機械に対応して整備された農地となっており,主に水田として利用されている.一方,その他の農地については,市街地に取り囲まれる形で残存しており,小規模な農地を利用して花卉を中心としたハウス栽培が立地している.しかし,館山市北条地区における農家数は1970年の402戸から2010年には74戸にまで減少し,経営耕地面積についても1970年から2010年にかけて約3分の1にまで減少した.このような農地の減少は,多くのロードサイド店舗が館山バイパス沿いに出店することでさらに促進された.そして,これらの商業地の発展は,JR館山駅前の中心市街地の衰退をもたらした.<br>
著者
太田 慧
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2014, 2014

<b>1</b><b>.</b><b>研究背景と目的</b><br> 大都市周辺の海岸観光地は,数ある海岸観光地の中で最も古い形態の観光地である.このため,近年の大都市に近い海岸観光地では衰退傾向が指摘されており,観光地における新たな地域問題となっている(Urry, 2002; Agarwal, 2007).東京大都市圏に位置する千葉県の南房総地域は,第2次世界大戦以前から海水浴客が訪れていた地域であり,海岸観光地としての長い歴史がある地域である(山村,2009).従来,南房総地域は東京方面からのアクセスが長年の課題であった.しかし,1990年代以降になると,東京湾アクアラインや館山自動車道の開通によって,東京や神奈川方面からのアクセスが著しく改善した.その結果,1980年代をピークに宿泊客数が減少した一方,日帰り観光客が増加傾向にある.このような状況から,南房総地域は日帰り観光地としての性格を強めており,従来の民宿地域は衰退傾向にある.そこで,本研究では房総半島有数の民宿集積地である南房総市の岩井地区を事例として,民宿地域の変容を明らかにすることを研究目的とした.&nbsp; <br>&nbsp;<b>2</b><b>.</b><b>研究方法<br></b>&nbsp; 本研究では,千葉県民宿組合連合会のデータから,房総半島における民宿の最大の集積地として南房総市の岩井地区を選定した.南房総における民宿地域の形成について,町史や地誌をなどの文献から示した.さらに,宿泊客数が最大であった1980年代と現在の民宿地域の構造の変化を,聞き取り調査や土地利用をもとに示し,民宿地域の変容について検討した. &nbsp; <br><b>3</b><b>.</b><b>岩井地区における民宿地域の形成<br> </b> 現在の岩井地区は南房総市の一地区であるが,2006年の町村合併以前は富山町に属していた.旧富山町は海岸側の岩井地区と山側の平群地区からなり,町の中央には南総里見八犬伝の舞台となった富山がそびえている.岩井地区に初めて海水浴客が訪れるようになったのは,明治時代のことである.明治時代の半ばになると,穏やかな海である岩井海岸が中学校の水泳訓練場として利用されるようになった.1918年に北条線(現・JR内房線)が那古船形駅まで延伸されると同時に岩井駅が開業すると,海水浴客や避暑客が増加していった.第2次世界大戦以降には,東京や埼玉などの臨海学校が次々に開設され,1964年にピークに達した(『富山町史』,1993).&nbsp; <br>&nbsp;<b>4</b><b>.</b><b>岩井地区における民宿地域の変容</b> <br> 富山町における海水浴客数は1980年代をピークに減少し続けている.南房総市の岩井地区では,2014年現在における民宿数は最盛期よりも減少したが,現在でも房総半島で最大の民宿地域として維持されている.この要因には,岩井海岸の海水浴場が内房の穏やかな海として臨海学校に利用されているほか,大学生のサークルや臨海学校などの団体客の合宿場として音楽スタジオや体育館や多目的ホールなどを積極的に設置することで,季節型の民宿から通年型の民宿への転換を図ってきた.宿泊客数は夏季の方が多いものの,大学生のサークルが利用することで冬季や春季にも一定の宿泊客が訪れている. さらに,学生の団体客を対象とした「ビワ狩り」などの農業体験や,地域に伝わる昔からの漁法である「地曳網」体験など,農業や酪農や漁業の体験教室を開設することで,従来観光客が集中していた夏季以外の春季や秋季の集客を図っている.また,岩井地区の農家で生産されたビワを使ったワインづくりが行われ,有料道路と一般道の両方から利用できる「ハイウェイオアシス・道の駅富楽里とみやま」で販売されている.以上のように,岩井地区における民宿地域の維持システムには,合宿客をターゲットとした施設改修や農業や漁業をはじめとした地元の産業を活かしたイベントが関わっている.&nbsp; <br><b>[</b><b>参考文献]</b> <br>富山町 1993. 『富山町史 通史編』, pp.476-484. <br>山村順次 2009. 5)南房総地域, 『日本の地誌5 首都圏Ⅰ』朝倉書店, pp.552-567.<br>Agarwal, S. and Shaw G. 2007. Managing Coastal Tourism Resorts &ndash;A Global Perspective.<br>Urry J. 2002. The Tourist Gaze Second Edition, pp.32 Sage.
著者
太田 慧 池田 真利子 飯塚 遼
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2018年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.000220, 2018 (Released:2018-06-27)

1.研究背景と目的 ナイトライフ観光は,ポスト工業都市における都市経済の発展や都市アメニティの充足と密接に関わり,都市変容を生み出す原動力としても機能し得るという側面から2000年代以降注目を浴びてきた(Hollands and Chatterton 2003).この世界的潮流は,創造産業や都市の創造性に係る都市間競争を背景に2010年代以降加速しつつあり,東京では,東京五輪開催(2020)やIR推進法の整備(2016),およびMICE観光振興を視野に,区の観光振興政策と協働する形で,ナイトライフ観光のもつ経済的潜在力に注目が向けられ始めている(池田 2017).このようなナイトライフ観光の経済的潜在能力は,近年ナイトタイムエコノミーと総称され,新たな夜間の観光市場として国内外で注目を集めている(木曽2017).本研究では,日本において最も観光市場が活発である東京を事例として,ナイトタイムエコノミー利用の事例(音楽・クルーズ・クラフトビール)を整理するとともに,東京湾に展開されるナイトクルーズの一つである東京湾納涼船の利用実態をもとにナイトライフ観光の若者の利用特性について検討することを目的とする.2.東京湾納涼船にみる若者のナイトライフ観光の利用特性東京湾納涼船は,東京と伊豆諸島方面を結ぶ大型貨客船の竹芝埠頭への停泊時間を利用して東京湾を周遊する約2時間のナイトクルーズを展開している,いわばナイトタイムの「遊休利用」である.アンケート調査は2017年8月に実施し,無作為に抽出した回答者から117件の回答を得た.回答者の87.2%に該当する102人が18~35歳未満の若者となっており,東京湾納涼船が若者の支持を集めていることが示された.職業については,大学生が50.4%,大学院生が4.3%,専門学校生が0.9%,会社員が39.3%,無職が1.7%,無回答が2.6%となっており,大学生と大学院生で回答者の半数以上が占められていた.図1は東京湾納涼船の乗船客の居住地を職業別に示したものである。これによれば,会社員と比較して学生(大学生,大学院生,専門学校生も含む)の居住地は多摩地域を含むと東京西部から神奈川県の北部まで広がっている.また,18~34歳までの若者の83.9%(73件)がゆかたを着用して乗船すると乗船料が割引になる「ゆかた割引」を利用しており,これには18~34歳までの女性の回答者のうちの89.7%(52件)が該当した.つまり,若者の乗船客の多くはゆかたを着て「変身」することによる非日常の体験を重視しており,東京湾納涼船における「ゆかた割」はこうした若者の需要をとらえたものといえる.以上のように,東京湾納涼船は大学生を中心とした若者にとってナイトライフ観光の一つとして定着している.