著者
西山 弘泰
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2014, 2014

1.はじめに <br> 人口減少に伴い,空き家の増加による住環境の悪化が懸念されている.国土交通省の試算では,2040年における全国の空き家数は1,335万戸,全戸数に占める割合が22.7%になるとしており,空き家の問題はむしろ今後10年から20年後に深刻な状況を迎えることが予想される.そのため,今後増加が予想される空き家にどう対応していくかということを議論し,適切な対応をとっていくことが求められる.2010年ごろから空き家問題がマスメディア等でも大きく取り上げられるようになったことから,社会的関心事として注目を集めている.昨今の風潮を鑑みると,空き家の問題が実態以上にクローズアップされていることは否めないが,それに比例して国や自治体も空き家の実態調査や条例・法制度の整備に積極的に取り組み始めている.ところが,多くの研究では空間的な視点や地域性な視点が欠落し,それがあたかも全国一律で生じているかのように論じられているものも散見される.空き家の発生は,都市規模の大小,都市化の時期,就業地との関係など,地域性から考察を行い,その発生メカニズムを解明していく必要がある.そこで本研究では,栃木県宇都宮市を事例に全市域の空き家を対象とした空き家調査の結果から,空き家発生の空間的特徴を明らかにする.&nbsp;<br>2.調査地域の概要と研究方法<br> 宇都宮市は栃木県のほぼ中央に位置し,50万人の人口を有する北関東最大の都市である.加えて北関東屈指の工業団地が市東部に立地し,2010年の製造品出荷額は18,068億円(全国9位)と,工業都市としての側面も強い.道路交通が充実していることから,郊外には大規模住宅地や大型店舗が多数立地している.東京へのアクセスも良好なことから東京や埼玉への通勤者も多い.本研究の資料である「空き家実態調査」は,宇都宮市が2014年度の制定を目指している「(仮称)空き家等に関する条例」に先駆けて実施されたもので,宇都宮市市民まちづくり部生活安心課が中心となって実施したものである. まず,宇都宮市全体の空き家の位置を把握するため,上下水道局の水道栓データと,資産税課の家屋課税台帳のデータをGIS上でマッチングさせ,閉栓している専用住宅を暫定的な空き家(8,628戸)とした.なお,今回は専用住宅以外の空き家は対象に含めていない. 続いて暫定的な空き家すべてについて現地調査を行い,「空き家等判別基準」(宇都宮市作成)を設けた上で4,635戸を空き家とした.現地調査では,上記の判別基準に基づいて,建物の腐朽破損度(建物全体,外壁,屋根,窓ガラス,出入り口の状況),対象物の構造(表札,木造,非木造,階数),敷地の状況(雑草・樹木,塀,郵便ポストの状況等),その他周辺環境(接道状況,売却・賃貸募集看板の有無等)について外観目視により調査を行った.建物の腐朽破損度については状態の良いものからA判定,B判定,C判定,D判定,判定不能の5つに分類した. 最後に,空き家と判定されたものの中から,登記簿等で所有者の住所を特定し,住所が判明した1,511世帯に郵送によるアンケート調査を行い,62.4%の回答を得た.&nbsp;<br>3.空き家の空間的特徴 <br> 宇都宮市の空き家は1970-79年築が1,616戸と最も多く,1970年以前を含めると半数以上が築30年を超えていた.とはいえ,約7割の空き家は目立った腐朽破損が認められず,対応に緊急性を要するD判定は247件と少ない.空き家の分布をみてみると,市街化区域全体にほぼ均一に広がっているようにみえる。しかし,分布の傾向を詳しくみると,空き家の分布には一定の規則性を見出すことができる.それは①75歳以上の人口が多い地域で空き家が多いこと,②急激な郊外化以前に市街地だった地域(1970年DID)内において比較的空き家の密度が高いこと,②近年区画整理事業が完了し,築年数の浅い住宅が多い地域で空き家が少ないことがわかった.このように,空き家は市街地全体において分布が認められるものの,諸地域の都市化時期や居住者の属性などの地域性がその分布と一定の相関を有していることが明らかとなった.以上のように空き家の発生メカニズムは,核家族化の進展や人口減少などといった社会的要因がある中で,都市化の時期や居住者の年齢などといった地域性が強く働き,それが空き家分布の地域的差異を生じさせていることが指摘できる。今後は地価や住宅需要といった市場性,生活利便性などとも絡めながら考察することが求められる。

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