著者
小泉 諒 西山 弘泰 久保 倫子 久木元 美琴 川口 太郎
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.84, no.6, pp.592-609, 2011-11-01 (Released:2016-09-29)
参考文献数
30
被引用文献数
4 3

本研究では,1990年代後半以降における東京都心部での人口増加の受け皿と考えられる超高層マンションを対象にアンケート調査を行い,その居住者特性を明らかにするとともに,今日における住宅取得の新たな展開を考察した.その結果,居住者像として,これまで都心居住者層とされてきた小規模世帯だけでなく,子育て期のファミリー世帯や,郊外の持ち家を売却して転居した中高年層といった多様な世帯がみられた.それぞれの居住地選択には,ライフステージごとに特有の要因が存在するものの,その背景には共通した行動原理として社会的リスクの最小化が意識されていることが推察された.社会構造が大きく変化し雇用や収入の不安定性が増大している中で,持ち家の取得は,機会の平等が前提された「住宅双六」の形態から,個々の世帯や個人の資源と合理的選択に応じた「梯子」を登る形態へと変化したと考えられる.
著者
西山 弘泰 小泉 諒 川口 太郎
出版者
人文地理学会
雑誌
人文地理学会大会 研究発表要旨
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.35-35, 2009

本発表では,1970年以降東京都心から25~30km圏に立地するアパートに着目し,その居住者の実態を明らかにすることを目的としている.本研究の対象地域は東京都心から25km,埼玉県南西部に位置する東武東上線鶴瀬駅半径1kmを範囲とした住宅地である(図2).当地域は埼玉県富士見市,三芳町の一部で,小規模な戸建住宅や共同住宅,商店などが混在している.都市計画法による用途地域は,第1種中高層住居専用地域(建蔽率60%,容積率200%)が主ある.東武東上線鶴瀬駅から池袋駅までの所要時間は約30分と比較的都心へのアクセスは良い.鶴瀬駅周辺の住宅地開発は,1957年の公団鶴瀬第一団地,1962年の公団鶴瀬第二団地の開発に端を発し,その後地元や東武東上線沿線の中小ディベロッパーを中心とした小規模な戸建住宅地開発,農家や地主のアパート建設が中心である.アパートの建設は1970年以降増加し,1980年代から1990年代前半にかけて増加が著しい.これは鶴瀬駅の南隣にあるみずほ台駅の土地区画整理事業が完了し,そこに地権者がアパートを建設したことや,農家や地主が地価の上昇によって不動産収入が必要になったこと,共同住宅建設に住宅金融公庫の融資を受けられるようになったことなどが要因と考えられる.2005年の国勢調査によると対象地域においてアパートに居住する世帯は3,266世帯である.本研究では2009年3月,対象地域に立地するアパート3,000戸にポスティングによるアンケート調査を実施し,135票(回収率4.5%)の郵送回答を得た.対象者の世帯の種類は,単身世帯が72世帯,夫婦のみの世帯17世帯,夫婦と子からなる世帯が26世帯,片親と子からなる世帯が13世帯,その他の世帯が7世であった.単身世帯が半数以上を占めているものの,世帯構成以外に,年齢,職業,学歴,出身地などは多様で一括りにすることは困難である.単身者は40歳未満が40世帯,40歳以上が32世帯で平均年齢41.8歳であった.住居の間取りは1Kや1DKで,一戸当たりの平均延べ床面積は27.0_m2_であった.また築年数は10~19年,駅から徒歩10分のアパートを4万円以上6万円未満で居住するというのが平均的である.単身者の仕事は,37人が正規の職に就いており,17人がアルバイト・パート,派遣・嘱託といった非正規労働に従事している.その他,学生が6人,無職・家事が12人であった.40歳未満の若年単身者の居住期間が約3年と短いのに対して,40歳以上の単身者は7年と永い.夫婦のみの世帯は,40歳未満の比較的若い層が17世帯中11世帯と多かった.住居の間取りは,2DKや2LDKで,一戸当たりの平均延べ床面積は46.5_m2_,家賃は6万円以上8万円未満が最も多かった.転居の意向をみてみると,40歳未満の世帯で転居予定の世帯が多かったのに対して,40歳以上の世帯で不明確な回答が多かった.夫婦と子からなる世帯も夫婦のみの世帯同様40歳未満の比較的若い世帯が大半を占めていて,第一子も小学校就学前が多くなっている.間取りや延べ床面積,家賃については,夫婦のみの世帯と類似している.40歳以下の世帯では転居志向が強く,転居先は近隣の戸建住宅を購入することを希望している.一方,夫が40歳以上の世帯では居住年数が平均12年と長くなっていて,転居意思が低いのが特徴である.最後に,片親と子からなる世帯では,1世帯を除いた12世帯が母子世帯であった.家賃は6万円以上8万円未満と6万円未満が同数であった.築年数をみてみると他のグループと比べ築年数が経過しているアパートに居住する世帯が多いのも特徴である.明確な転居意思を持った世帯は皆無であり,滞留傾向が強くなっている.以上のように,若年の単身者やファミリー世帯においては,転居意思や居住年などから従来のようにアパートが仮の住まいとして認識されていることがわかる.一方で,比較的年齢の高い層や片親世帯などはアパートに滞留する傾向がみられることが指摘できる.
著者
西山 弘泰
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.83, no.4, pp.384-401, 2010-07-01 (Released:2012-01-31)
参考文献数
34
被引用文献数
2

本稿は,1960年代・1970年代にスプロールを伴って形成された小規模開発住宅地に着目し,住民の転出入から,これらの住宅地が郊外に立地する住宅地の中でどのような位置づけにあったのか,どのような役割を果たしていたのかを,戦後日本の住宅事情や社会・経済情勢から明らかにした.対象地域の埼玉県富士見市関沢地区は,1970年前後を中心とした中小ディベロッパーによる小規模開発・狭小敷地の建売住宅開発が連担し形成された住宅地である.関沢地区では,開発が始まる1960年代中頃から1980年代前半まで20代・30代を中心とする若年ファミリーが多く居住し,活発な転出入がみられた.居住者の多くは東京区部から転入し,数年で比較的近隣のより敷地規模の広い戸建住宅へ転出していった.しかし1980年代中頃から,関沢地区の戸建住宅では建替えが進み,活発な転出入がみられなくなり滞留傾向が強まる.このことから1960年代後半から1980年代前半における関沢地区の狭小な戸建住宅は若年層の仮の住まいとしてその役割を果たしていたと考えられる.そして関沢地区の戸建住宅において居住者の活発な入替えがあった背景は,第1にバブル崩壊までの持続的な地価や賃金の上昇,第2に家族向け賃貸住宅の不足,そして第3に分譲マンションが一般化していなかったことがあげられる.このことから,当地域にみられた狭小な戸建住宅は,当時の社会・経済情勢が投影された時代の産物であったといえる.
著者
小泉 諒 西山 弘泰 久保 倫子 久木元 美琴 川口 太郎
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 = Geographical review of Japan (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.84, no.6, pp.592-609, 2011-11-01
参考文献数
30
被引用文献数
3

本研究では,1990年代後半以降における東京都心部での人口増加の受け皿と考えられる超高層マンションを対象にアンケート調査を行い,その居住者特性を明らかにするとともに,今日における住宅取得の新たな展開を考察した.その結果,居住者像として,これまで都心居住者層とされてきた小規模世帯だけでなく,子育て期のファミリー世帯や,郊外の持ち家を売却して転居した中高年層といった多様な世帯がみられた.それぞれの居住地選択には,ライフステージごとに特有の要因が存在するものの,その背景には共通した行動原理として社会的リスクの最小化が意識されていることが推察された.社会構造が大きく変化し雇用や収入の不安定性が増大している中で,持ち家の取得は,機会の平等が前提された「住宅双六」の形態から,個々の世帯や個人の資源と合理的選択に応じた「梯子」を登る形態へと変化したと考えられる.
著者
櫛引 素夫 西山 弘泰
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2019, 2019

<b>1.はじめに</b><br> 青森大学は2013年から、立地する青森市・幸畑地域を対象に、交流をベースとした教育・研究・地域貢献活動「幸畑プロジェクト」を展開してきた。特に幸畑団地(人口約4,500人、約2,300世帯)との協働に基づく住民ニーズに応じた空き家調査、住民主体の空き家活用の試行などが進展、転入の実態も明らかになった。成果の一部は2014~2018年の日本地理学会、東北地理学会で報告した。<br> 本研究では5年間の活動を総括し、幸畑団地の空き家発生から再利用・住宅新築に至るプロセスを分析するとともに、空き家をめぐる課題や調査活動について、①地域社会における位置づけ、②大学が果たすべき役割、③地域の将来像の検討と構築に大学や地理学はどう関わり得るか、といった観点から考察する。<br><br><b>2.幸畑プロジェクトの進展</b><br> 幸畑団地は、青森市がコンパクトシティ政策で脚光を浴びた2000年代に、高齢者の街なか居住や子育て世代との「住み替え」のモデル地域として各種施策が進められた。しかし、その結果、皮肉にも「衰退する郊外の象徴」という意識が青森市内や地元に浸透、2013年ごろには住民自身も人口減少や空き家増加に危機感と不安を抱いていた。<br> 発表者は、団地内で空き家の悉皆調査を初めて実施するとともに、住民への報告会を企画した。一連の過程で地域や大学と情報・認識の共有がなされ、さまざまな協働の起点ができた。2014年には青森大学を交えて幸畑団地地区まちづくり協議会が発足し、その後、空き家活用試行や「お試し移住」体験に取り組んだ。<br><br><b>3.経緯と成果</b><br> 空き家調査を端緒として、定期的に幸畑団地を調べ、結果を住民、市内の行政・不動産関係者らと検討する仕組みが整った。調査は常にまちづくり協議会と大学との共同作業として設計、実施し、信頼関係の深化や住民の主体性構築を重視した。2016年には地元町会と学生が合同で新規転入者の調査票調査を実施し、県内の多様な地域から住民が集まっている状況を把握できた。<br> 2018年に5年ぶり2回目の悉皆調査を実施した結果、過去の調査と併せて、①人口減少と高齢化は市平均を上回るペースで進行している、②にもかかわらず住宅の新築が進み、5年で120軒前後が新築された可能性がある、③空き家や空き地を再利用して住宅を新築した事例が多数存在する、④最大要因は安い地価と乗用車2台以上を置ける敷地の広さである、⑤新築を含め、地区によっては年に1割程度の住民が借家を中心に入れ替わっている、⑥子育て世代を中心に住宅新築を伴う転入が続いており、30年後を視野に入れた地域運営の検討が急務である、といった状況が明らかになった。<br> 空き家は、単身・夫婦の高齢者の入院や遠方の子どもによる引き取りなどによって発生するが、配偶者との死別後、空き家に戻り再居住を始めた住民も確認された。また、新築・リフォームに伴う転入者は①幸畑団地で育って転出後、親の近くへ転入、②市内の他地域出身者が転入、③市外出身者が転入、といったケースがあることが分かった。<br> 青森大学は地域との接点を持たず卒業する学生が少なくなかったが、近年は地域貢献演習などのカリキュラムが充実、地域が協働対象として定着している。<br><br><b>4.展望</b><br> 空き家問題は「地域住民がどこまで関与するか、できるか」が大きな焦点となる。危険空き家が発生してしまえば、法的・技術的には、一般住民の手が届きにくい。しかし、空き家発生につながる可能性が高い高齢者世帯などを対象に、事前に周囲と対応を相談する仕組みをつくるなどの対策を講じれば、発生抑止が期待できる。地域の見守り活動などと絡め、空き家やその前段階の家屋の活用・維持を考えていく上で、「空き家問題を地域として受け止め、考える」機運の醸成は重要である。<br>幸畑団地の空き家が減少しているとはいえ、幸畑プロジェクトそのものが「物件としての空き家の解消」「空き家の継続的活用」につながっているわけではない。コミュニティ衰退に伴う課題も山積している。それでも、空き家問題への取り組みは地域の実情把握や意識変革、協働の起点となった。幸畑地域は現在、青森市全体の将来像を考える人々の拠点となりつつあり、市域をカバーする「地域メディア」づくりが、幸畑を中心に始まっている。また、筆者らが2018年12月に青森大学で開催した「幸畑団地居住フォーラム」では、出席者から、空き家調査・対策にとどまらず、地域と大学の協働をベースに、学生も主役とした、創造的な〝攻め〟の地域づくりを期待する提案がなされた。<br>「物件としての空き家問題」を超えた持続可能な地域づくりに向けて大学の役割は重要である。また、時間・空間と「人の生き方」を軸に、地域に併走できる地理学には、大きな優位性と使命があると結論づけられよう。<br>(JSPS科研費15H03276・由井義通研究代表)
著者
西山 弘泰
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2014, 2014

1.はじめに <br> 人口減少に伴い,空き家の増加による住環境の悪化が懸念されている.国土交通省の試算では,2040年における全国の空き家数は1,335万戸,全戸数に占める割合が22.7%になるとしており,空き家の問題はむしろ今後10年から20年後に深刻な状況を迎えることが予想される.そのため,今後増加が予想される空き家にどう対応していくかということを議論し,適切な対応をとっていくことが求められる.2010年ごろから空き家問題がマスメディア等でも大きく取り上げられるようになったことから,社会的関心事として注目を集めている.昨今の風潮を鑑みると,空き家の問題が実態以上にクローズアップされていることは否めないが,それに比例して国や自治体も空き家の実態調査や条例・法制度の整備に積極的に取り組み始めている.ところが,多くの研究では空間的な視点や地域性な視点が欠落し,それがあたかも全国一律で生じているかのように論じられているものも散見される.空き家の発生は,都市規模の大小,都市化の時期,就業地との関係など,地域性から考察を行い,その発生メカニズムを解明していく必要がある.そこで本研究では,栃木県宇都宮市を事例に全市域の空き家を対象とした空き家調査の結果から,空き家発生の空間的特徴を明らかにする.&nbsp;<br>2.調査地域の概要と研究方法<br> 宇都宮市は栃木県のほぼ中央に位置し,50万人の人口を有する北関東最大の都市である.加えて北関東屈指の工業団地が市東部に立地し,2010年の製造品出荷額は18,068億円(全国9位)と,工業都市としての側面も強い.道路交通が充実していることから,郊外には大規模住宅地や大型店舗が多数立地している.東京へのアクセスも良好なことから東京や埼玉への通勤者も多い.本研究の資料である「空き家実態調査」は,宇都宮市が2014年度の制定を目指している「(仮称)空き家等に関する条例」に先駆けて実施されたもので,宇都宮市市民まちづくり部生活安心課が中心となって実施したものである. まず,宇都宮市全体の空き家の位置を把握するため,上下水道局の水道栓データと,資産税課の家屋課税台帳のデータをGIS上でマッチングさせ,閉栓している専用住宅を暫定的な空き家(8,628戸)とした.なお,今回は専用住宅以外の空き家は対象に含めていない. 続いて暫定的な空き家すべてについて現地調査を行い,「空き家等判別基準」(宇都宮市作成)を設けた上で4,635戸を空き家とした.現地調査では,上記の判別基準に基づいて,建物の腐朽破損度(建物全体,外壁,屋根,窓ガラス,出入り口の状況),対象物の構造(表札,木造,非木造,階数),敷地の状況(雑草・樹木,塀,郵便ポストの状況等),その他周辺環境(接道状況,売却・賃貸募集看板の有無等)について外観目視により調査を行った.建物の腐朽破損度については状態の良いものからA判定,B判定,C判定,D判定,判定不能の5つに分類した. 最後に,空き家と判定されたものの中から,登記簿等で所有者の住所を特定し,住所が判明した1,511世帯に郵送によるアンケート調査を行い,62.4%の回答を得た.&nbsp;<br>3.空き家の空間的特徴 <br> 宇都宮市の空き家は1970-79年築が1,616戸と最も多く,1970年以前を含めると半数以上が築30年を超えていた.とはいえ,約7割の空き家は目立った腐朽破損が認められず,対応に緊急性を要するD判定は247件と少ない.空き家の分布をみてみると,市街化区域全体にほぼ均一に広がっているようにみえる。しかし,分布の傾向を詳しくみると,空き家の分布には一定の規則性を見出すことができる.それは①75歳以上の人口が多い地域で空き家が多いこと,②急激な郊外化以前に市街地だった地域(1970年DID)内において比較的空き家の密度が高いこと,②近年区画整理事業が完了し,築年数の浅い住宅が多い地域で空き家が少ないことがわかった.このように,空き家は市街地全体において分布が認められるものの,諸地域の都市化時期や居住者の属性などの地域性がその分布と一定の相関を有していることが明らかとなった.以上のように空き家の発生メカニズムは,核家族化の進展や人口減少などといった社会的要因がある中で,都市化の時期や居住者の年齢などといった地域性が強く働き,それが空き家分布の地域的差異を生じさせていることが指摘できる。今後は地価や住宅需要といった市場性,生活利便性などとも絡めながら考察することが求められる。
著者
西山 弘泰
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.92, 2008

1.はじめに 郊外の一戸建て住宅は,住宅双六に代表されるように,終の棲家と位置付けられ,その住民の転出入については不問に付されてきた.居住遍歴の通過点として位置づけられていた公団の賃貸住宅は,1960年代を中心とした地方からの人口流入に対応するため,1960年代後半から1970年代前半にかけて大量に供給が行われた.しかし,公団の賃貸住宅はこれらの膨張した都市人口に対して十分な住宅供給ができたとは言えない.ファミリー向けの民営借家も借地借家法などの法制度によって供給は極めて少なかった.一方,公団の賃貸住宅やファミリー向け民営借家の補完的役割を担っていたのが,郊外にスプロールを伴って建設された狭小で低廉な戸建住宅である. 本報告では,主に1970年前後に開発された敷地面積100_m2_以下の戸建住宅が密集するミニ開発住宅地を事例として,住民の入れ替えとその特徴を明らかにする.2.調査概要 本報告は敷地面積100_m2_以下の戸建住宅の割合が55.1%と高い,埼玉県富士見市関沢地区の3つの番地を事例として,計151筆の土地と建物の登記簿と住宅地図の居住者表示の分析が主である.当地域では1998年に登記内容がコンピュータ化されたため,1998年以前は閉鎖登記簿の閲覧を,1998年以降は登記事項証明書を発行した.A番地は1966年に開発され総戸数は40戸,平均敷地面積40.17_m2_で現在までに約3分の2が建替えを行っている.B番地は1971年に開発され,総戸数は48戸,平均敷地面積は82.89_m2_で現在までに約半数が建替えを行っている.最後にC番地は1977年に開発されたものが主で,総戸数は63戸,平均敷地面積は98.70_m2_で現在までに約4分の1が建替えを行っている.各番地の最寄り駅は,東武東上線みずほ台駅と鶴瀬駅で,各番地から両駅へは徒歩13分程度の距離にある. なお,不動産登記簿の所有者と住宅地図の居住者表示の整合性については,住宅地図の表記に即応性がなく1,2年の表記の遅れはあるものの,ほぼ一致している.よって,関沢地区においては,所有者の変更は居住者の転出入とほぼ同義である.また,国勢調査の結果からも,ほぼすべての戸建住宅が持家であることも明らかとなっている.3.結果A番地では1966年から現在まで,計184回の所有権移転が確認できた.そのうち業者や相続・贈与に伴う所有権移転を除くと124回の所有権の移転であった.これは一筆あたり平均で3.1回の所有権移転があったということを示している.1966年の開発時から現在まで同一の所有者は1筆で,現所有者を除く,平均所有年数は約5年であった.所有者変更が活発なのは1960年代後半から1980年代前半までである. B番地では,1971年から現在まで,計126回の所有権移転が確認できた.そのうち業者や相続・贈与に伴う所有権移転を除くと107回の所有権の移転であった.一筆当たりの平均所有権移転数は2.1回であった.入居当時から現在まで同一の所有者は12筆で,A番地と比べると滞留率は高いものの,約半数で1980年までに所有者移転があった.B番地の所有権移転の特徴は1990年以降の所有権移転が16回と,A番地の7回に比べて多いことである. C番地では,1971年から現在まで,計94回の所有権移転が確認できた.そのうち業者や相続・贈与に伴う所有権移転を除くと83回の所有権の移転で,一筆当たりの平均所有権移転数は1.3回と他に比べると大幅に少ない.また,7割以上が開発時から現在まで滞留しており,所有権の移転は格段に少ない.なおC番地の居住者の前住地は4割が富士見市内であることが国勢調査より明らかになっている. 以上,各番地の所有権移転数の違いは開発時期,敷地面積,居住者の年齢などが密接にかかわっていると考えられる.また,A番地やB番地のように,1960・70年代に所有権移転が多かったのは,ファミリー向け民営借家の不足,急激な地価の高騰,低廉な価格といったことも背景としてあると考えられる.
著者
久木元 美琴 西山 弘泰 小泉 諒 久保 倫子 川口 太郎
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理要旨集
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.23, 2011

近年,大都市都心部での多様な世帯を対象としたマンション開発にともない,子育て世帯の都心居住や都心部での保育所待機児童問題が注目を集めている.都心居住は職住近接を可能にするため,女性の就業継続における時空間的制約を軽減する一方で,都心部では急増した保育ニーズへの対応が追い付いていない.そこで,本研究は,都心湾岸部に居住する子育て世帯の就業・保育の実態とそれを可能にする地域的条件を明らかにする.発表者はこれまで,豊洲地区における民間保育サービスの参入実態を明らかにしてきた.本発表では,共働き子育て世帯の属性や就業状況,保育サービス利用の実態を検討する.<BR>調査方法としては,豊洲地区の保育所に子どもを預ける保護者を対象に,2010年11月にアンケート調査を実施した.豊洲地区に立地する13保育所のうち,協力を得た7保育所(認可5施設,認証2施設)において,施設を通じて配布し郵送にて回収した.総配布数659,総回答数207(31.4%),有効回答数203(30.8%)であった.このうち,豊洲1~5丁目在住の170世帯を抽出し分析対象とした.<BR> 結果は以下のとおりである.全体の9割が2005年以降に現住居に入居した集合住宅(持家)の核家族世帯で,親族世帯は4世帯と少ない.世帯年収1000万円以上,夫の勤務先の従業員規模500人以上が7割程度と,世帯階層は総じて高い.また,夫婦ともに企業等の常勤や公務員といった比較的安定した雇用形態で(70.0%),ホワイトカラー職に就く世帯が全体の過半数を占める.さらに,夫婦の勤務先は都心3区が最も多く,それ以外の世帯の多くも山手線沿線の30分圏内と,職住近接を実現している.<BR> ただし,帰宅時間には夫婦で差がある.普段の妻の帰宅時間は19時以前が147回答中141で,残業時でも20時以前に帰宅する者が多い.他方,夫は残業時に20時以前に帰宅する者は少数で,23時以降が最も多い.残業頻度が週3日以上の妻は約2割である一方で,夫は半数近くが週3日以上の残業をしている.<BR>また,回答者の約6割が待機期間を経て現在の保育所に入所している.待機中の保育を両親等の親族サポートに頼った者は4世帯に過ぎず,妻の育児休業延長や,地域内外の認可外保育所や認証保育所などの民間サービスによって対応していた.予備的に行った聞き取り調査では「確実に認可保育所に入れるために,民間の保育所に入園した実績を作っておく」という共働き妻の「戦略」も聞かれた.さらに,妻の9割近くが育児休業を,約8割が短時間勤務を利用している.妻の過半数は従業員500人以上の企業に勤務しており,育児休業取得可能期間が長く短時間勤務の利用頻度も高い傾向にあるなど,充実した子育て支援制度の恩恵を享受している.<BR>以上のように,本調査対象の子育て世帯は,夫婦共に大企業に勤務するホワイトカラー正規職が多く,職住近接を実現している.特に,充実した子育て支援制度や,民間保育所を利用し認可保育所に確実に入所させるといった戦略によって,就業継続を可能にしている.ただし,妻の働き方は必ずしもキャリア志向ではないことが特徴的である.<BR>また,回答者の過半数が現在の保育所に入所する前に待機期間を経験し,待機期間には妻の育児休業の延期や民間サービスの利用で対応している.この背景には,当該地区における豊富なニーズを見越した民間サービスの参入があると同時に,これらの子育て世帯が認可保育所に比較して一般に高額な民間保育所の保育料を支払うことのできる高階層の世帯であることが示されている.