著者
助重 雄久
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2014, 2014

<b>Ⅰ 本報告の背景とねらい</b><br>少子高齢化に悩む多くの市町村は、他地域からの移住者を定住させる取り組みを重要施策として掲げ、移住説明会や移住体験会等を実施する市町村も増えてきた。しかし、農山村地域に移転・定住した人々の多くは、定年者や早期退職者であり、地域産業の担い手育成や人口の再生産には結びつかない。一方、子育て中あるいはこれから子育てをする若年層の移住は、満足のいく住まいや保育・教育施設、就業先がみつからないことが障害となって、なかなか進まない。こうしたなかで、全国有数の高齢化である山口県大島郡周防大島町では、「周防大島町定住促進協議会」を発足させて、官民が一体となって受け入れ体制を整えており、2012~13年には2年連続で社会増となった。本報告では、若年層の移住者への聞き取り調査をもとに、移住に至るまでの経緯や、移住者が挑戦しているさまざまな取り組み、島における移住者の役割について考察した。<br><b>Ⅱ 移住前の状況と移住の動機</b><br>聞き取り対象者10名のうち6名は親戚や妻の父か母が周防大島の出身者であり、その他は新規就農者フェアや島づくりのためのイベントで周防大島出身者と知り合ったのが島を知るきっかけであった。移住の動機は全員が移住後に従事している職業をしたいためであった。また関東圏から移住した2名は東日本大震災後に放射能の影響を受けない地域で子どもを育てたいことが、移住を急ぐ動機となった。東日本大震災以降はこうした「放射能避難民」が急増しており、社会増をもたらした一因にもなっている。<br><b>Ⅲ 住まいの確保と移住後の就業状況</b><br>移住後の住まいは、親類や親がいる場合、それらの所有物件や、親類や親の知り合いが所有している家屋であった。その他は、島の知り合いか定住促進協議会の仲介で、空き家を探して住んでいた。移住後の職業は農業が4名、漁業が1名、養蜂業が2名、設計士+ジェラート専門店1名、ジャム専門店1名、ポータルサイト運営者+観光協会1名であった。農業をしている4名のうち、2名は農学部出身者で農業に関する知識があったが、他の2名の前職はイベントプランナーとミュージシャンで、農業経験はなかった。農業以外に従事している6名の前職は旅行会社社長、CM制作者、ホテルマン、設計士、電力会社社員、情報通信関係企業の社員で、設計士以外は前職と無関係であったが、養蜂業の2名は退職後に農家や父親の養蜂業の手伝いをした経験があった。<br><b>Ⅳ 島の産業再生に寄与する移住者</b><br>今回対象とした移住者全員が、インターネットを島での生活や仕事にとって欠かせないツールと考えていた。業務上では①島で入手しにくい業務用資材の購入、②生産技術や市況等の情報収集、③独自の生産方法や商品のPR、生活上では①島にない生活雑貨等の購入、②島で安く入手できない商品の購入に多用されていた。 しかし、大部分がネットで物を販売するには否定的であった。彼らは、島の恵みを活かした農産物、ジャム、ジェラートを作りたい、移住時から今日に至るまで世話になっている島民と共に歩みたい、という思いが強い。このため、生産物も可能なかぎり島内のチャレンジショップや「道の駅」、近隣の有機農産物販売店等で売り、訪れる観光客に周防大島の良さを伝えたいと考えている。また、農業や養蜂業に従事している移住者は、耕作放棄地や遊休地も活用して有機農業や観光農園等に取り組んでおり、地域産業の再生にも寄与する存在になりつつあるといってよい。

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