著者
相馬 貴代
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement
巻号頁・発行日
vol.31, pp.67, 2015

(目的)ワオキツネザルは、マダガスカル南部の乾燥有刺林から南東部の河辺林、中央高地の落葉林、高山地帯や低地林などの極めて多様な環境に分布する。他群領域に侵入する「エクスカーション」を行って採食し、果実の利用可能性の低い時には葉食にシフトする日和見採食者である。本研究では、マダガスカル南部の導入樹種と在来樹種の混在する河辺林において、上位採食樹種の除去がワオキツネザルの採食行動へ与える影響を調べた。(方法)ベレンティ保護区においては、ワオキツネザルの脱毛症の原因となる上位採食樹種ギンネム(<i>Leucaena leucocephala</i>)が2007年に除去された。1年後の2008年、先行研究の結果からギンネムが最も多く採食された乾季の6月に、同じ調査群2群を選び個体識別に基づいた同様の方法で、採食生態について観察を行った。(結果と考察)2群いずれも除去前と後の栄養摂取量に有意差は見られなかった。2001年と2005年にエクスカーションを行い他群領域でギンネムを中心に導入樹種を採食していた自然植生地域のCX群は、エクスカーション先を変え、同じく自然植生地域の他群領域で在来樹種を中心に採食した。導入樹種地域のC1群は以前と同じくエクスカーションを行わなかったが、休息時間割合を41.9%から31.1%に減らし採食時間割合を25.9%から36.1%に増やした。以上から、ワオキツネザルはエクスカーション先を変え、採食時間を延ばすなど採食行動を変化させ、重要採食樹種の消失という環境の変化に柔軟に対応することが示唆された。このようなワオキツネザルの採食戦略の可塑性が、マダガスカルの予測不可能な厳しい環境への適応を可能とし、キツネザル類の中でも比較的多様な環境に広く分布できる一因であるのかもしれない。

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