著者
市野 進一郎 フィヒテル クローディア 相馬 貴代 宮本 直美 佐藤 宏樹 茶谷 薫 小山 直樹 高畑 由起夫 カペラー ピーター
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第29回日本霊長類学会・日本哺乳類学会2013年度合同大会
巻号頁・発行日
pp.119, 2013 (Released:2014-02-14)

(目的)マダガスカルに生息する原猿類(キツネザル類)は,真猿類とは独立に群れ生活を進化させた分類群である.集団性キツネザルには,性的二型の欠如,等しい社会的性比,メス優位など哺乳類一般とは異なるいくつかの特徴がみられる.こうした一連の特徴は,社会生態学理論でうまく説明できないものであったが,近年,メスの繁殖競合によって生じたとする考え方が出てきた.本研究では,長期デモグラフィ資料を用いて,ワオキツネザルのメス間の繁殖競合のメカニズムを調べることを目的とした.(方法)マダガスカル南部ベレンティ保護区に設定された 14.2haの主調査地域では,1989年以降 24年間にわたって個体識別にもとづく継続調査がおこなわれてきた.そこで蓄積されたデモグラフィ資料を分析に用いた.メスの出産の有無,幼児の生存,メスの追い出しの有無を応答変数に,社会的要因や生態的要因を説明変数にして一般化線形混合モデル(GLMM)を用いた分析をおこなった.(結果と考察)出産の有無および幼児の生存は,群れサイズによって正の影響を受けた.すなわち,小さい群れのほうが大きい群れよりも繁殖上の不利益が生じていることが明らかになった.この結果は,ワオキツネザルの群れ間の強い競合を反映していると思われる.一方,メスの追い出しの有無は,群れサイズよりもオトナメスの数に影響を受けた.すなわち,群れのオトナメスが多い群れでは,メスの追い出しが起きる確率が高かった.このように,ワオキツネザルのメスは群れ内のオトナメスの数に反応し,非血縁や遠い血縁のメスを追い出すことで群れ内の競合を回避するメカニズムをもっているようだ.
著者
相馬 貴代 小山直樹
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement
巻号頁・発行日
vol.23, pp.13, 2007

メス優位のワオキツネザルの社会では、群れ内メスが一定頭数を超えると、Targetting aggressionと呼ばれる、特定個体に対する執拗な攻撃行動が起こり、追い出しにいたることが知られている。何家系を含む群れの場合、優位家系グループから劣位家系グループの個体への攻撃がおこり、結果として群れが分裂することが多い。<br> 2004年8月から2005年11月、2006年4月、2006年9月から11月の間に、すべてのメスが1頭のメスの子孫からなる観察群(オトナメス個体数およそ10頭、総個体数およそ22頭)を観察した。この群れにおける「追い出し」から「追い出され個体の群れ復帰」までの経過を報告する。<br> _丸1_アルファメスであったME89(メス全員の母および祖母)の消失、_丸2_ME89の娘ME8998のアルファメス化と姪グループ(ME8998の死亡した姉ME8994の娘・ME899499とその妹2頭)の追い出し、_丸3_追い出された姪グループのノマド(放浪)群化、_丸4_姪グループの群れ再加入とME8998の追い出し、_丸5_追い出されたME8998グループのノマド群化、_丸6_姪グループの長女ME899499のアルファメス化、というプロセスが観察された。新しくアルファメスになったME89の娘ME8998は、自身の妹たちとグループを作り、姪グループを追い出した。1年半後、姪グループが群れに復帰し、かつて彼女達に最も攻撃を加えた、アルファメスME8998とその妹を反対に追い出した。また、姪グループに攻撃的であったME8998グループのメスはすべて劣位となった。<br> 単一家系からなる群れの場合、 共通の祖先メス個体の消失後にアルファメスとなった個体が、血縁度が低い姪グループを選択的に追い出すことは妥当なのかもしれない。また、自分を攻撃した個体を追い出したり、攻撃を加えたりすることは、ワオキツネザルにおける「復讐」という意識とそれを確実にする記憶の存在を示唆することにならないだろうか。
著者
相馬 貴代
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement
巻号頁・発行日
vol.31, pp.67, 2015

(目的)ワオキツネザルは、マダガスカル南部の乾燥有刺林から南東部の河辺林、中央高地の落葉林、高山地帯や低地林などの極めて多様な環境に分布する。他群領域に侵入する「エクスカーション」を行って採食し、果実の利用可能性の低い時には葉食にシフトする日和見採食者である。本研究では、マダガスカル南部の導入樹種と在来樹種の混在する河辺林において、上位採食樹種の除去がワオキツネザルの採食行動へ与える影響を調べた。(方法)ベレンティ保護区においては、ワオキツネザルの脱毛症の原因となる上位採食樹種ギンネム(<i>Leucaena leucocephala</i>)が2007年に除去された。1年後の2008年、先行研究の結果からギンネムが最も多く採食された乾季の6月に、同じ調査群2群を選び個体識別に基づいた同様の方法で、採食生態について観察を行った。(結果と考察)2群いずれも除去前と後の栄養摂取量に有意差は見られなかった。2001年と2005年にエクスカーションを行い他群領域でギンネムを中心に導入樹種を採食していた自然植生地域のCX群は、エクスカーション先を変え、同じく自然植生地域の他群領域で在来樹種を中心に採食した。導入樹種地域のC1群は以前と同じくエクスカーションを行わなかったが、休息時間割合を41.9%から31.1%に減らし採食時間割合を25.9%から36.1%に増やした。以上から、ワオキツネザルはエクスカーション先を変え、採食時間を延ばすなど採食行動を変化させ、重要採食樹種の消失という環境の変化に柔軟に対応することが示唆された。このようなワオキツネザルの採食戦略の可塑性が、マダガスカルの予測不可能な厳しい環境への適応を可能とし、キツネザル類の中でも比較的多様な環境に広く分布できる一因であるのかもしれない。
著者
市野 進一郎 フィヒテル クローディア 相馬 貴代 宮本 直美 佐藤 宏樹 茶谷 薫 小山 直樹 高畑 由起夫 カペラー ピーター
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement
巻号頁・発行日
vol.29, 2013

(目的)マダガスカルに生息する原猿類(キツネザル類)は,真猿類とは独立に群れ生活を進化させた分類群である.集団性キツネザルには,性的二型の欠如,等しい社会的性比,メス優位など哺乳類一般とは異なるいくつかの特徴がみられる.こうした一連の特徴は,社会生態学理論でうまく説明できないものであったが,近年,メスの繁殖競合によって生じたとする考え方が出てきた.本研究では,長期デモグラフィ資料を用いて,ワオキツネザルのメス間の繁殖競合のメカニズムを調べることを目的とした.<br>(方法)マダガスカル南部ベレンティ保護区に設定された 14.2haの主調査地域では,1989年以降 24年間にわたって個体識別にもとづく継続調査がおこなわれてきた.そこで蓄積されたデモグラフィ資料を分析に用いた.メスの出産の有無,幼児の生存,メスの追い出しの有無を応答変数に,社会的要因や生態的要因を説明変数にして一般化線形混合モデル(GLMM)を用いた分析をおこなった.<br>(結果と考察)出産の有無および幼児の生存は,群れサイズによって正の影響を受けた.すなわち,小さい群れのほうが大きい群れよりも繁殖上の不利益が生じていることが明らかになった.この結果は,ワオキツネザルの群れ間の強い競合を反映していると思われる.一方,メスの追い出しの有無は,群れサイズよりもオトナメスの数に影響を受けた.すなわち,群れのオトナメスが多い群れでは,メスの追い出しが起きる確率が高かった.このように,ワオキツネザルのメスは群れ内のオトナメスの数に反応し,非血縁や遠い血縁のメスを追い出すことで群れ内の競合を回避するメカニズムをもっているようだ.
著者
小山 直樹 相馬 貴代 市野 進一郎 高畑 由起夫
出版者
Japan Association for African Studies
雑誌
アフリカ研究 (ISSN:00654140)
巻号頁・発行日
vol.2005, no.66, pp.1-12, 2005

マダガスカルのべレンティ保護区において, 1989年から2000年までの11年間, ワキツネザルの人口動態の研究をおこなうために, 我々は14.2ヘクタールの主調査域設定した。環境変化を研究するために, 主調査域を含む30.4ヘクタールの広い調査域も設定した。主調査域においては, 群れの分裂や追い出しなどの社会変動によって, 群れの数は3から6に増加した。その結果, 一つの群れの行動域の大きさは縮小した。広域の調査域には9科14種に属する大木が475本あった。最も豊富な樹種はキリー (<i>Tamarindus indica</i>) (n=289) で, 2番目がベヌヌ (<i>Acacia rovumae</i>) (n=74), 3番目がヴォレリ (<i>Nestina isoneura</i>) (n=66) であった。これら3種は全大木の90.3%を占めていた。大木の個体群密度は1ヘクタール当たり15.6本で, キリーのそれは10.3本であった。1989年, 14.2ヘクタールの主調査域内には, 1ヘクタール当たり12.7本のキリーが生えていた。<br>2000年に我々はキリーの大きさを再測定した。14.2ヘクタールの主調査域内のキリーの密度は, 1ヘクタール当たり11.2本に減少した。この減少は死亡したキリーの数が新規参入数より多かったためである。対照的に, 1才以上のワオキツネザルの数は1989年の63頭から2000年の89頭へと増加した。その結果, 1個体当たりのキリーの数は2.8本から1.8本に減少した。群れによって1個体当たりのキリーの数には大きな変異があった。CX群は最も豊かな地域を占めていて (1個体当たりのキリーの数は4.7本), T2群は最も貧しい地域を占めていた (1個体当たりのキリーの数は0.6本)。一方, キリーの果実の量は一本一本の木, 地域, 年により変動するだろう。たとえば,キリーの果実の収量は2000年は非常に少なく, CX群のキリーの果実の豊富さの得点は, 主調査域の平均得点より低かった。チャイロキツネザル (<i>Eulemur fulvus</i>) の数も増加している。チャイロキツネザルの採食習慣はワオキツネザルのそれと非常に類似しているので, ワオキツネザルにとって食物をめぐる種内と種間の両方の競争が激しくなってきているようだ。