著者
藤野 健
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement
巻号頁・発行日
vol.31, pp.88, 2015

【はじめに】四足姿勢のサルは掌を接地させるが、何故にまた如何にして、指背を接地させるに至ったのか、ナックルウォーキング(= KW)成立に関する論考が等閑視されて来た。今回、類人猿以外にKWを示すとされるアリクイ(anteater = AE)を採り上げ、形態と行動的特徴を基にその実態を検討する。【材料と方法】静岡市立日本平動物園にて飼育されるオオアリクイ(Giant anteater, <i>Myrmecophaga tridactyla</i>)(= GA)雌成体1頭の動画記録を解析し、固定標本雌成体1頭の手の外観を観察した。併せてミナミコアリクイ(Northern tamandua)(= NT)冷凍解凍標本雌1頭並びにwebから得られたGAの交連骨格像も比較の為に供した。【結果】GAの第2,3指及びその爪は弯曲して強大だが、第1,4指のものはずっと小さく第5指は退化的である。歩行時には手を尺側に傾け、第2,3指を、大きく発達したボール様の掌球の橈側に沿う様に配置する。厚い掌球をあたかも地面に判を押すかの様に歩くが、これら2指の指背並びに爪は歩行時に幾らか接地する。NTの手の構造もGAに類似していた。【考察】GAは通常四足歩行するが、蟻塚を前にして後肢で立ち上がりこれを爪で破壊しながらシロアリを採食する。即ち巨大な、弯曲した爪と手指はそれに適応的である。歩行時の体重は掌球を介して主に中手骨及び手根で支え、指と爪は破壊道具へと明瞭に機能分化させている。斯くして指骨が主たる体重支持者でない故に類人猿のKWとは性質を異にする。GAの交連骨格像はKWの手を持つとしばしば示説展示されるが正確ではない。AEの手は-NTは手の爪を利用しての木登りも得意とするが-過去に四足歩行性から離れるまでの特殊化は経ておらず、四足歩行と採食活動を共に可能とする漸進的且つ折衷的な進化形態像を示すものと考えた。

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オオアリクイのナックルウォーキングの論文。 仕事中に何調べとる? CiNii 論文 -  ナックルウォーキングの進化的獲得:アリクイの事例から https://t.co/fRRzD0U9tL

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