著者
尾方 隆幸
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2015, 2015

1. 普天間飛行場代替施設建設事業<br> 日本政府の「普天間飛行場代替施設建設事業」に関するさまざまな準備作業が,名護市の辺野古湾および大浦湾周辺で進められている.これまで,日本生態学会による「沖縄県名護市辺野古・大浦湾の米軍基地飛行場建設に伴う埋め立て中止を求める要望書」(2013年3月),沖縄生物学会による「米軍普天間飛行場代替施設建設のための辺野古埋め立て計画に関する意見書」(2014年2月)など,生物科学関係の学会からは反対意見が提出されている.本発表では「普天間飛行場代替施設建設事業」について,ジオコンサベーションの観点から検討する.&nbsp;<br><br>2. 沖縄のサンゴ礁と辺野古の生物多様性<br> 日本の地理学的特徴のひとつに,南北方向に長い国土による気候の多様性がある.その中で,南西諸島をはじめとする広い地域にサンゴ礁の生態系を有することは,国内の自然資源を考える上で大きな意義を持つ.しかしながら,これまでに進められた開発行為により,特に沖縄島周辺のサンゴ礁は破壊が著しく,ごく一部の海域を除いて健全な造礁サンゴは残されていない. <br> 一方,辺野古周辺には,環境省の「日本の重要湿地500」(No.449沖縄本島東沿岸)に指定された自然度の高い海域がある.辺野古~漢那の選定理由には「ボウバアマモ,リュウキュウアマモ,ベニアマモなどの大きな群落.アマモ類を餌にする特別天然記念物のジュゴンは,この海域で発見例が多い.沖縄島北東部の沖には藻場が存在し,そこにアオウミガメの大規模な餌場があるらしいことがこれまでの調査から推定される」とある.また,沖縄県による「自然環境の保全に関する指針」においても,最も評価の高い「ランクI」(自然環境の厳正な保護を図る区域)に指定されている.すなわち,生物科学の専門家のみではなく,国および県もこの海域の極めて高い自然的価値を認めている.<br> 辺野古の周辺は,良好な状態でサンゴ礁の生態系が守られてきた数少ない海域である.あえてそのような海域で大きな環境破壊を伴う事業を行うことは,日本の自然資源の多様性を自ら損ねる行為でもあり,持続的な国土の発展と整合する事業かどうかを慎重に検討する必要がある.&nbsp;<br><br>3. 辺野古における地質調査<br> 生物資源そのものだけではなく,その生息・生育環境を同時に考えることをジオコンサベーションでは重視する.たとえば新基地の建設が予定されている辺野古を例にすると,藻場や造礁サンゴのみならず,生物活動を支えるサンゴ礁地形・堆積物の保護・保全を問題にする.サンゴ礁の地形や堆積物は,地球の歴史の中で形成された自然史的な資源であり,いったん破壊されると,その回復には極めて長い時間を要する(短期的には不可逆的なものとなる).また,一連の事業はサンゴ礁の表面物質を破砕・拡散させ,破砕物による海水の混濁を引き起こす可能性がある.さらに,調査や建設工事に付随する騒音と海中の攪乱は,ジュゴンの行動に直接的な影響を与える可能性もある.&nbsp;<br><br>4. ジオコンサベーションからみた米軍基地移設問題<br> ジオコンサベーションにおいては,地球科学的資源ごとに,破壊からの回復に要する時間スケールを検討することが重要である.米軍基地移設問題の場合は,既存の米軍基地エリアと,新基地の建設が予定されているエリアの地質・地形を整理し,それぞれの地質・地形について破壊から回復に要する時間スケールを明らかにすることが,地球科学者の課題ではないだろうか.こうした基礎的な研究に立脚する形で問題解決への道を探っていくことを,地球科学者としては提言すべきであろう.さらに,地理学者には,ジオコンサベーションを踏まえた持続的な地域振興について,人文社会科学的な検討も求められよう.

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こんな論文どうですか? ジオコンサベーションからみた米軍基地移設問題(尾方 隆幸),2015 https://t.co/5fjGjlyL4v
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