著者
尾方 隆幸
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

ブラタモリは,地理学的事象や地質学的事象をわかりやすく学ぶ機会を一般市民に提供し,地球科学の裾野を広げることによって,アウトリーチや生涯学習に高く貢献している。番組で扱われるストーリーは地理学や地質学のトピックスを多く含んでおり,それらが文学・農学・工学など,地球科学以外のトピックスともシームレスに連結している。地球科学のストーリー(ジオストーリー)をシームレスに構築する試みはジオパークでも盛んになされており,地球科学のアウトリーチにおいては重要な手法である。ジオストーリーを構築するにあたっては,数多くの科学的なデータに基づき,多彩なトピックスを精選する必要がある。ブラタモリで扱われる地球科学のトピックスに接するのは,一般市民だけではなく,地球科学の研究者や教育者も同様である。われわれ地球科学者は,自らの専門分野が番組でどのように扱われるかをチェックしており,同時に自らの専門分野が隣接分野とどのように繋がっているかを知る機会を得ている。ブラタモリのストーリーにみられる総合性とシームレス性は地球科学の教育・アウトリーチや科学コミュニケーションに対してあらゆる示唆を与えているが,それらは科学性を担保する案内人,科学的内容をわかりやすく伝える高い技術を持つ番組制作者,そして主役であるタモリ氏の高い教養に支えられている。
著者
山本 政一郎 尾方 隆幸
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.68-83, 2018 (Released:2018-03-16)
参考文献数
44
被引用文献数
2

高等学校の地理教育,地学教育で共通する自然地理学,地球物理学,地質学に関連する項目の用語や説明について,2017年度に使用されている「地理A」「地理B」「科学と人間生活」「地学基礎」「地学」の全ての教科書で比較検討した.その結果,地理教育,地学教育それぞれの中でも,両者の間でも異なる用語が多いことが分かった.また,学術用語と教育用語とに齟齬がある場合もみられた.今後は,現在の科学界の知見を高校教育に反映させて,よりふさわしい用語や説明を検討・採用していく必要がある.
著者
尾方 隆幸
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

地球科学のアウトリーチにおいて,ジオストーリーの有効性が注目され始めている。ジオストーリーに基づく地球科学的な解説は,学校教育,生涯教育,ジオパークなどのさまざまな場面で有効であるが,科学性とわかりやすさを両立させることは簡単ではない。しかし,地球科学者とメディア制作の専門家が共同作業を行い,この問題を追求することで,良質のジオストーリーを生み出す可能性が拓ける。その事例として,NHKの人気番組「ブラタモリ」の沖縄・首里編(2016年2月27日放送)を取り上げる。この回では,世界文化遺産「琉球王国のグスク及び関連遺産群」に登録されている首里城跡とその城下町をフィールドに,サイトを巡りながら,地史学的テーマ,地形学的テーマ,水文学的テーマ,さらには世界遺産としての歴史・文化に関するテーマを組み合わせ,ストーリーを構築した。ストーリーの構築にあたっては,科学性の確保だけではなく,それぞれのテーマのシームレス性を重視した。こうした工夫は,さまざまな場面での地球科学のアウトリーチに応用できるものといえる。
著者
尾方 隆幸
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.338-346, 2018 (Released:2018-05-31)
参考文献数
11
被引用文献数
1
著者
尾方 隆幸 大坪 誠 伊藤 英之
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.44-54, 2020 (Released:2020-02-22)
参考文献数
22

琉球弧の最西端に位置する与那国島で,数値標高モデル(DEM)による地形解析と,露頭における地層・岩石と微地形の記載を行い,隣接する台湾島との関係も含めてジオサイトとしての価値を検討した.与那国島の表層地質は,主に八重山層群(新第三系中新統)と琉球層群(第四系更新統)からなり,地質条件によって異なる地形が形成されている.与那国島の代表的なジオサイトとして,ティンダバナ,久部良フリシ,サンニヌ台が挙げられる.ティンダバナでは,八重山層群と琉球層群の不整合が崖に露出し,地下水流出に伴うノッチが形成されている.久部良フリシでは,八重山層群の砂岩が波食棚を形成し,岩石海岸にはタフォニが発達する.サンニヌ台には正断層の露頭があり,断層と節理に支配された地形プロセスが認められる.与那国島のジオサイトは,外洋に囲まれた離島の自然環境や背弧海盆に近いテクトニクスを明瞭に示しており,将来的には台湾と連携したジオツーリズムやボーダーツーリズムに展開させうる可能性を秘めている.そのためにも,地球科学の複数分野を統合するような基礎的・応用的研究を継続することが必要である.
著者
尾方 隆幸 大坪 誠
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.58, no.6, pp.377-395, 2019-12-01 (Released:2019-12-24)
参考文献数
115

琉球弧における第四紀テクトニクス研究および地形プロセス研究をレビューした.琉球弧は,ユーラシアプレートにフィリピン海プレートが沈み込む収束境界に沿う島弧で,火山島,山地島(付加体),隆起サンゴ礁島などに分けられ,それぞれ地形プロセスが異なる.第四紀の地殻変動は,礁性堆積物からなる更新統の石灰岩(琉球層群)に多くの横ずれ断層と正断層を形成している.付加体で構成される山地・丘陵では,さまざまな環境条件に支配された風化・侵食速度を反映しながら,地形変化が進行している.これまでの自然地理学的研究は,琉球弧にみられるいくつかの地形を熱帯・亜熱帯特有の気候地形とみなしてきたが,それらの地形プロセスは気候条件のみならず地質条件も踏まえて再検討されるべきである.今後の研究には,地質条件と気候条件の両者を総合・統合した地形プロセスの理解が求められる.
著者
松本 至巨 尾方 隆幸 内川 啓
出版者
公益社団法人 東京地学協会
雑誌
地学雑誌 (ISSN:0022135X)
巻号頁・発行日
vol.115, no.2, pp.221-235, 2006-04-25 (Released:2009-11-12)
参考文献数
28
被引用文献数
1 1 3

The Northern Japanese Alps (Chubusangaku National Park) has experienced a dramatic increase in the number of visitors since the boom referred to as “the Japanese hundred mountains”. The Ushiro-Tateyama Range, located in the northernmost area of the Japanese Alps, provides various alpine landscapes such as cirques, asymmetrical ridges, patterned ground, perennial snow patches and alpine plant communities. Data from 6922 trekkers indicate that the distribution of mountain huts and accessibility to trails control their trekking courses, and that the trekkers concentrate in three mountain areas : Shirouma-mountain area, Goryu-mountain area and Kashima-mountain area. These areas are divided by a landform called kiretto, where a col with steep rockwalls lies along a main ridge, operating as a natural obstacle. Such a concentration suggests that human impacts on mountain geoecosystem occur locally, but intensively.
著者
李 偉 尾方 隆幸 山田 奨治
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告人文科学とコンピュータ(CH) (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.2009, no.4, pp.1-8, 2009-01-16
参考文献数
11

京都盆地北部に現存する164の日本庭園のリストを作成し,GISを用いて地図化した。庭園築造数を歴史的にみると,江戸時代と大正時代にそのピークが認められる。土木技術が発達した江戸時代には大規模な庭園が数多く築造されたが,池などの地表水を欠く庭園の多くが扇状地扇央に分布しているのに対し,地表水のある庭園は湧水のみられる東山丘陵の山麓に集中している。明治~大正時代に建設された庭園のほとんどは1890年に完成した琵琶湖疏水沿いに位置しており,池・流れ・滝などの水景が重視されている。これらのデータは,京都盆地に分布する庭園が自然的にも人為的にも水文条件の影響を強く受けていることを示している。This study listed 164 Japanese gardens situated in the Kyoto basin, consisting mainly of the Kamogawa alluvial fan and the Katsuragawa flood plain. The listed gardens were mapped with Geographic Information System (GIS). During the Edo era, civil engineering improvements promoted construction of large scale gardens. Gardens lacking surface water are mainly distributed in the center of the Kamogawa alluvial fan with relatively deep groundwater. Gardens with surface water, in contrast, are concentrated along the foot of the Higashiyama hills where hydrological recharge zones produce rich springs. During the Taisho era, Biwako-sosui (canals from the Biwa Lake to the Kyoto basin) contributed to construction of gardens with surface water, such as artificial ponds, flows and falls. Both physically and artificially, hydrological conditions controlled the geographic distribution of Japanese gardens.
著者
津島 俊介 尾方 隆幸
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

日本のジオパークにおいて大気圏および水圏の地球科学的事象が十分に扱われていないことを踏まえ,気象気候と水に重点を置いたジオストーリーと,それに基づくジオツアー用のガイドブックを作成した。大東諸島の気候は,地理的に太平洋高気圧の影響を受けやすいことに加え,地形による上昇流が発生しにくいこと,放射冷却による接地逆転層が形成されやすいことなど,環礁が隆起した特徴的な地形の影響も強く受ける。地表面はほぼ全てが第四系の石灰岩に覆われるため,陸面の水循環もカルスト地形に制約される。これらの大気水圏科学的な事象を,大東諸島に特有の地史と組み合わせることによって,地球科学的事象をシームレスに理解させる教材になるよう心がけた。さらに,南大東島には「南大東島地方気象台」があり,自動放球装置による高層気象観測も行われ,一般観光客の見学も多い。こうした施設をジオツアーに組み込むことは,最新の研究に直接触れることができる点で,教育的な意義も大きい。
著者
尾方 隆幸
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

地球惑星科学に関する教育内容は,教科間・科目間,また同一の教科内・科目内でも教科書間で用語や解説内容が異なっている場合がある。加えて,地球惑星科学の成果が適切に反映されていない内容も散見される。将来の地球惑星科学教育をよりよいものにするためには,日本における地球惑星科学と学校教育との関係を議論することが必要である。
著者
尾方 隆幸
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

日本のジオパークでは,地形学的事象,特に地形プロセス学的な事象が,適切に扱われていない事例がある。火山活動や地殻変動といった内的営力の解説は正確で充実していることが多いが,風化・侵食・運搬・堆積プロセスといった外的営力の解説が正確になされていることは少ない。また,現代の地形学では認めがたい古典的すぎる解説がなされている場合も散見される。それらの問題は,ジオパークに限らず,地形学のアウトリーチ全般に共通する可能性もあり,専門家は正しい知見の普及に努めなければならない。発表では,NHK総合「ブラタモリ」における,地すべり地形(#32沖縄・首里)および隆起準平原(#67奄美の森)を事例に,地形学的事象の解説手法について報告・議論したい。
著者
山本 政一郎 尾方 隆幸
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

高校の「地理」の自然地理分野および「地学」の地球・大気・海洋分野は共通する内容が多い。共通分野については、両科目が協調して対象を取り扱うことで、より系統的・総合的な地球物理に関する理解が深まるはずである。しかしながら、同科目内においても教科書によって同じ概念を示す用語が異なる、あるいは、同じ用語の説明が異なる用語が散見される。これでは、共通理解どころか教えられる生徒側に理解の混乱をもたらす。これらの相違を即時に解消することは困難としても、教育者側が相違の現状を把握しておくことで、それらに留意した説明をするなど、教育現場での対応ができよう。 そこで本発表では、上掲の分野の中で、教科書によって異なる記載が見られる事項を中心に、地学・地理の全ての現行教科書(地理B3冊、地理A6冊、地学2冊、地学基礎5冊、科学と人間生活5冊の計21冊)を対象として表記の比較検討を行った。地形分野では大地形および、沖積平野に関する記述がどのように区分されているか、またそれらの発達過程の扱い方はどのようであるかについて、気象・気候分野では大気大循環で使われる用語・説明の範囲、および気候区分に関する記述の違いを中心に比較検討した。
著者
尾方 隆幸
出版者
公益社団法人 東京地学協会
雑誌
地学雑誌 (ISSN:0022135X)
巻号頁・発行日
vol.120, no.5, pp.846-852, 2011-10-25 (Released:2012-01-17)
参考文献数
13
被引用文献数
4 5

The Ryukyu Islands strongly promote the geodiversity of Japan. A sub-tropic natural environment forms coral reefs and various landscapes linked to surface processes, active tectonics, and Quaternary environmental changes. Field excursions permit geoscientific observations of such landscapes, which reveal geodiversity and a framework for geotourism. Fieldwork was undertaken to arrange an educational program for conserving geodiversity and for geotourism. This program demonstrates the geodiversity and geotourism of the Ryukyu Islands, in terms of geomorphology and related disciplines. Basic geotours observe landforms and sediments, and consider geomorphic processes: weathering, erosion, transport, sedimentation, uplift, and sea level change. Applied geotours observe landscapes indicating global environmental problems, such as global warming, climate change, sea level rise, acid rain, and ecosystem based on geomorphology and related geosciences. For instance, acid rain accelerates the chemical weathering (decomposition) of limestone and erosion of karst landforms that are distributed widely on raised coral reefs. Such geotours require both scientific and attractive geostories managed by geoscientists. Japanese geoscientists should propose models for geotours derived from field excursions for landscape observations that will contribute to education, conservation, and geotourism.
著者
尾方 隆幸
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.76, no.14, pp.1025-1039, 2003-12-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
39
被引用文献数
3 2

本稿では,日光国立公園の戦場ヶ原を対象に,扇状地との境界付近における湿原の縮小と,それに関連して生じる地表面プロセスを論じた.調査地域には,扇状地側に年代の古いカラマッ林が,湿原側に年代の新しいシラカンバ林が成立している.この植生分布の境界は,扇状地堆積物の分布限界,すなわち地形的な境界と一致する.地形の形成に伴って侵入した樹木は,蒸発散量・地下水位・風速・積雪深などの微気候を変化させたと推察される.カラマッ林と,その後に成立したシラカンバ林の景観の違いは,遷移のステージの違いを示すものではなく,局地的な環境条件の差異によって規定されており,その環境条件を決定する基本的な要因は地形形成作用および地表面の形態であると考えられる.

5 0 0 0 OA 総合討論1

著者
尾方 隆幸
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

ブラタモリに関するフロアからの質問を受け付けて議論する。
著者
尾方 隆幸
出版者
公益社団法人 東京地学協会
雑誌
地学雑誌 (ISSN:0022135X)
巻号頁・発行日
vol.124, no.1, pp.31-41, 2015-02-25 (Released:2015-03-11)
参考文献数
19
被引用文献数
2 5

Geoparks target all geoscientific multidisciplinary and interdisciplinary areas, whereas scientific topics of Japanese geoparks incline toward specific themes. Content analysis reveals that many geoparks attach greater importance to solid earth sciences (e.g. geology) and/or human geosciences (e.g. geography) than biogeosciences (e.g. paleontology), atmospheric and hydrospheric sciences (e.g. meteorology), and space and planetary sciences. Specialization coefficients clearly show this inclination, and suggest a shift from geological to geographical themes. Multivariate analyses also indicate several clusters of Japanese geoparks characterized mainly by geological and/or geographical contents. This specialization enumerates geological and/or geographical topics, and restricts a seamless geostory for interpreting a landscape. An educational program on the Ryukyu Islands focuses on various geomorphic processes related to the global environmental system. This program contributes to both an attractive and scientific geostory on interactions among atmosphere, hydrosphere, and geosphere. A seamless geostory using multidisciplinary and interdisciplinary approaches should be given more consideration in all Japanese geoparks, because it enhances a comprehensive outreach and education on geoscience.