著者
戸所 隆
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2015, 2015

<br><br>1.前橋・高崎の都市特性<br><br>前橋・高崎は東京都心の北西100kmに位置する首都圏外縁部に隣接する拠点都市である。両市の都市機能には数量的な差はないものの、性格的に前橋は県庁所在地で文化に特化し、高崎は交通・商業に特徴を持つ。また、前橋34.0万・高崎37.1万の人口(2010年国調)をもち、両市役所間は9kmに過ぎず、連坦市街地で結ばれる人口70万強の一体化した都市地域を構成する。<br><br>江戸期には親藩・譜代の有力大名領や天領が入り組み、歴史的に複雑な地域性が形成されてきた。また、幕末から明治期には蚕糸業によって日本経済を牽引する地域であった。そのため、近代的な交通体系や都市システムは相対的に早期に整備され、全国的に著名な有力企業を多く生み出してきた。また、この地域は日本列島のほぼ中央部に位置し、太平洋岸と日本海岸を結ぶ横断軸と日本列島縦断軸が交差する地理的条件をもつ地域である。<br><br>&nbsp;<br><br>2.前橋・高崎における1990年代以降の構造変化<br><br>1990年代以降の主な構造変化は、以下である。<br><br>①市街地面積の急激な拡大による郊外の発達、<br><br>②中心商業地の衰退 <br><br>③大規模工場の撤退<br><br>④中心機能の一翼を担う事業所の減少<br><br>⑤日常的生活圏・経済圏の拡大と地域間交流の活発化 ⑥東京の影響拡大と自立性の低下<br><br>⑦地域発祥企業の本社機能の東京流失<br><br>⑧人口減少と高齢化<br><br>⑨新築戸建て住宅・アパートの増加と空き家の急増<br><br>&nbsp;<br><br>3.都市構造変化の要因<br><br>前項の構造変化①②には、自家用車の普及と郊外への大型SC建設の影響が大きい。それを可能に要因として、畑作社会でありながら都市計画規制が緩く、首都圏の県庁所在都市にしては安価な地価にある。<br><br>③は高度経済成長期に立地した企業の撤退である。要因として日本経済の構造変化と地域政策の失敗がある。<br><br>④は、新幹線や高速道路などの高速交通整備による、首都圏都市システムの構造的変化結果である。すなわち、高崎・前橋が新幹線で東京1時間圏となることで、従前の自立性が喪失してきた。他方で、さいたま市が首都圏における北関東の業務核都市として都市力を向上させた。⑤⑥⑦もこれと陰に陽に関係する。その結果、高崎駅周辺には高層マンションが増加し事務所撤退を補完する出張者用ビジネスホテル・全国チェーン型店舗の増加がみられる。これらは東京一極集中の影響でもある。<br><br>⑧人口減少の要因として、少子化と工場・事務所の撤退の影響がある。また、隣接自治体の地価の安さと緩い都市計画規制がそこへの人口流失をもたらしている。他方で、空洞化した中心市街地の地価低下がそこでの新築住宅建設を可能とし、相続税対策のアパート建設の増加も相まって空き家・空室を急増させている。<br><br>&nbsp;<br><br>4. 大都市化分都市化による構造変革<br><br> 高速交通網・交通体系の充実、郊外の発達と自立化、経済圏・生活圏の広域化により、都市システムは都市間・都市内共に、階層ネットワークから水平ネットワークの大都市化分都市化型に転換してきた。この動きを平成の大合併は広域化した経済圏・生活圏を行政的に一体化・推進した。しかし、地域間連携の重要性は理解しても歴史的経緯などから意識面での一体化は簡単には進まない。たとえば、自動車のご当地ナンバーで「前橋」と「高崎」がつくられ、電話の市外局番は同じ027であっても同一通話エリアにならないなどの問題がある。時代に対応したハード・ソフト両面で調和した都市システムへの再構築が求められる。<br><br> <br><br>5.立体化および公私の止揚による構造変革<br><br>地方都市にあっても1990年代以降は都市空間の立体化の進展を見た。その結果、所有権では公私の区別があっても利用形態で公共的空間が増加した都市システム・構造に転換している。しかし、それに対応できない市民が多く、都市生活面に新たな問題を惹起しつつある。<br><br>また大規模高層マンションの都市中心部での増加は、高齢化と相まって郊外から中心部へ人口移動させ、郊外の衰退を招く。これが都市中心と郊外の対立を惹起し、新たな都市システムの転換をもたらすと考えられる。<br><br>&nbsp;<br><br>6. あるべき都市構造と国土構造の在り方<br><br>日本が中進国の罠にはまらず先進国になれたのは、公共事業をうまくコントロールし、農村の貧困を避けたことにある。豊かになった日本を持続的に発展させるためには、深刻化する地域間格差を是正する地方再生・国土構造の再構築が不可欠となる。それには首都機能移転を実現し、北関東信越メガロポリスの創生など、国土を水平ネットワーク型都市システムに転換する必要がある。

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