著者
奈良間 千之 佐藤 隼人 山本 美奈子
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2015, 2015

<b>1</b><b>.はじめに</b><br>&nbsp; キルギスタン北東部に位置するテスケイ山脈では2006年~2014年にかけて氷河湖決壊洪水(GLOF)が起こっている.この地域のGLOFは数か月~数年内に出現・急拡大し,出水する短命氷河湖タイプであり,衛星画像によるモニタリングで氷河湖の出現を把握するのが極めて難しい.2008年7月の西ズンダンGLOFでは,0.04km<sup>2</sup>の氷河湖がわずか2か月半で出現し,この氷河湖からの出水により,3人が亡くなり,下流の道路や家畜への甚大な被害がでた(Narama et al., 2010).また,同山脈では2013年8月にジェル・ウイ氷河湖,2014年7月にカラ・テケ氷河湖が2年連続で出水し,下流のジェル・ウイ村で被害が出ている.この出水した2つの氷河湖はキルギスタン緊急対策省のハザードレベルでそれぞれ低・未認定となっており(MES, 2013),ハザードレベルの評価が正しくおこなわれておらず,氷河湖への理解が十分であるとは言い難い.そこで本研究では,現地調査や衛星画像解析からテスケイ山脈北側斜面に分布する氷河湖の出水と被害の特徴を明らかにすることを目的とする.<br><b>2</b><b>.研究方法</b><br>&nbsp; 衛星画像(Landsat7/ETM+,ALOS/ PRISM AVNIR-2,Landsat8/OLI)を用いて氷河湖ポリゴンを作成し,氷河湖の分布を調べた.ALOS/PRISMとASTERのDEMによる地形解析から湖盆地形を抽出し,下流域の地形,侵食域と合わせリスク評価をおこなった.現地調査では高精度GPSによる氷河湖周辺の測量,地形観察,出水トンネル確認,堆積物調査を実施した.また,2つのGLOFとその被害の詳細を知るために地元住民から聞き取り調査を実施した.調査結果をまとめ最近のGLOFの堆積物,洪水タイプ,被害を比較し,この地域のGLOFの特徴について考察した.<br><b>3</b><b>.結果と考察</b><br>&nbsp; 衛星画像を用いた氷河湖の変動解析と現地調査の結果, 2013年8月15日に出水したジェル・ウイ氷河湖は約3か月間で面積0.031km<sup>2</sup>まで拡大・出水した.2014年7月17日に出水したカラ・テケ氷河湖は前年にわずか0.002km<sup>2</sup>の水たまりが3か月程度で0.024km<sup>2</sup>まで拡大・出水した.いずれも急拡大して出水した短命氷河湖であった.氷河前面には埋没氷を含むデブリ帯が広がっており,デブリ帯内部に発達したアイストンネルからの出水であった.2つのGLOFは土石流であるが,流れのタイプや堆積構造は大きく異なる.ジェル・ウイ氷河湖のGLOFは粘性が高く土砂を多く含んだ流れで,その堆積物は小さい粒径の岩屑を多く含むマトリックスサポートで無層理の堆積構造であった.一方,カラ・テケ氷河湖のGLOFは水分を多く含む粘性の低い流れで,堆積物は巨礫からなるクラストサポートで,無淘汰・無層理の堆積構造であった.聞き取り調査からも高密流の堆積構造をもつジェル・ウイ氷河湖のGLOFの方が遅い流れであったという証言が得られている.また,両者の下流域の地形の違いにより被害の程度に違いがみられた.ジェル・ウイ氷河湖のGLOFの場合,谷出口が扇状地であったため首振り運動による河道変化が発生し,扇状地上の農地,道路,灌漑用水路,橋などが広範囲で被害を受けた.一方,カラ・テケ氷河湖のGLOFの場合,谷出口は河谷地形であったため,GLOFは河道沿いに流れ,被害は川沿いの2つの橋にとどまった.<br>&nbsp; この地域で過去に生じたGLOFの洪水タイプと侵食長を指標として,現存する,今後出現する可能性を持つ氷河湖に対して,下流域の侵食長を計測し,各谷でGLOFが発生した場合のGLOFの洪水タイプを推定した結果,この地域ではMud floodタイプになる可能性の谷が少なくとも8つあることを確認した.

言及状況

外部データベース (DOI)

Twitter (1 users, 1 posts, 0 favorites)

こんな論文どうですか? 天山山脈北部・テスケイ山脈における2006-2014年の氷河湖決壊洪水の特徴(奈良間 千之ほか),2015 https://t.co/vY9VSOZWKA

収集済み URL リスト