著者
有江 賢志朗 奈良間 千之 福井 幸太郎 飯田 肇
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

福井・飯田(2012)と福井ほか(2018)は,近年の小型化かつ高性能化した観測機器を用いて,氷厚の実測と流動観測をおこない,飛騨山脈北部に分布する御前沢雪渓,内蔵助雪渓,三ノ窓雪渓,小窓雪渓,カクネ里雪渓の6つの多年性雪渓が現存氷河であることを明らかにした.北アルプス北部には,氷河調査がおこなわれていないが,氷河の可能性が高い雪崩涵養型の多年性雪渓がいくつか存在する.そこで,本研究では,7つ目の氷河の可能性が高い唐松沢雪渓の氷厚と流速をGPR観測とGNSS測量により測定し,唐松沢雪渓の氷河の可能性について検討した.その結果,唐松沢雪渓では約30mの氷厚と流動現象が確認できた.
著者
栁澤 宏彰 及川 輝樹 川口 亮平 木村 一洋 伊藤 順一 越田 弘一 加藤 幸司 安藤 忍 池田 啓二 宇都宮 真吾 坂東 あいこ 奥山 哲 鎌田 林太郎 兒玉 篤郎 小森 次郎 奈良間 千之
出版者
特定非営利活動法人 日本火山学会
雑誌
火山 (ISSN:04534360)
巻号頁・発行日
vol.67, no.3, pp.295-317, 2022-09-30 (Released:2022-10-27)
参考文献数
73

The 2016 eruptions of Niigata-Yakeyama volcano in central Japan consisted of several small eruptions that were accompanied by syneruptive-spouted type lahars. We have reviewed the sequence of the 2016 activity and modeled the eruptive processes based on observations of various volcanic phenomena, including ash fall and lahars, plumes, earthquakes and crustal deformation, and analysis of eruptive products. Eruptions of Niigata-Yakeyama volcano after the 20th century can be categorized into two types; 1) VEI=0-1 eruptions during which ash fall covered only the summit area and no ballistic blocks were ejected (e.g., 1997-1998 event) and 2) VEI=1-2 eruptions during which ash fall reached the foot of the mountain with ejected blocks (e.g., 1974 event). We also discuss the characteristics of the 2016 activity by comparing the sequence with those of other events of Niigata-Yakeyama volcano: the 1974 and 1997-1998 eruption events and the 2000-2001 intensified fumarolic event. The 2016 eruptions of Niigata-Yakeyama volcano are divided into the following six stages. Stage I was characterized by the onset of intensified steam plume emission activity (≥200 m). Stage II was characterized by the onset of crustal deformation, slight increase of high frequency earthquakes (approx.>3.3 Hz) and further activation of steam plume emission activity (≥500 m). The crustal deformation observed commenced at the beginning of Stage II and lasted until the end of Stage V. The total inflated volume was estimated to be approximately 7.2×106 m3. Several very small eruptions that provided only a small amount of ash to the summit area also occurred. Stage III was characterized by a rapid increase of high frequency earthquakes accompanied by tilt change, and the onset of low frequency earthquakes (approx.<3.3 Hz). A small eruption was accompanied by a syneruptive-spouted type lahar at this time. Stage IV was characterized by the occurrence of several small syneruptive-spouted type lahars. The occurrence of high and low frequency earthquakes continued, but with decreasing abundance. Stage V was characterized by the highest altitude of steam plume emission (≥1,200 m), while no ash emission nor syneruptive-spouted type lahars were observed. Stage VI was characterized by a gradual decrease in steam plume emission and earthquake activity. The aerial photographs indicate the ash fall distribution, and the maximum scale of the 2016 eruption, which is estimated to be VEI=1. The assemblage of altered minerals indicates that the volcanic ash originated from volcanic conduits affected by a high-sulfidation epithermal system and no magmatic components were detected. Judging from the depth of the crustal deformation source of magmatic eruptions at other volcanoes, the estimated source of crustal deformation during the 2016 eruption is considered to have been caused by a volume change of the magma chamber. The sequence of the 2016 event can be interpreted as follows: 1) magma supply to the magma chamber, 2) increase in seismicity and fumarolic activity triggered by volcanic fluid released from the new magma, 3) destruction of volcanic conduit by increased fumarolic activity and emission of volcanic ash, and 4) occurrence of syneruptive-spouted type lahars by the “airlift pump” effect. At Niigata-Yakeyama volcano, such small eruptions and fumarolic events have been frequently observed for the last 40 years. We thus consider that the accumulation of magma has progressed beneath the volcano, which is a potential preparatory process for a future magmatic eruption.
著者
渡部 帆南 奈良間 千之 河島 克久
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2019, 2019

<b>1.はじめに</b><br> 2015年4月25日にネパールの首都カトマンズから北西に位置するゴルカ郡でM7.8の地震が,5月12日にカトマンズから北東80kmでM7.3の地震が発生した.100回ほどの余震を含めたこの一連の地震により,ヒマラヤ高山の雪氷域では雪崩,氷河崩落,雪氷土砂崩落,土砂崩落など多数の斜面崩壊が生じた.カトマンズの北に位置するランタン谷では,地震により生じた2度の雪氷土砂崩落(6.81×10<sup>6</sup>m<sup>3</sup>と0.84×10<sup>6</sup>m<sup>3</sup>)により,ランタン村は雪氷土砂堆積物に覆われ,350名を超える犠牲者がでている(Kargel et al., 2015; Fujita et al., 2016).雪氷土砂崩落のトリガーは山岳斜面上部にある懸垂氷河の崩落や冬季の大量の積雪による雪崩だと考えられている.ヒマラヤ地域に限らず,懸垂氷河の崩落のサイクルや崩落する地形場の特徴は明らかでなく,懸垂氷河の崩落を調査し,今後の防災対策に役立つデータを作成する必要がある.そこで本研究では,ランタン谷に面するランタン・リルン峰の南西壁と東壁を対象に,地震前のGoogleEarthの画像とWorldView-2の地形表層モデル(DSM)データ,地震後のヘリコプターから空撮した2015年10月,2017年4月と10月,2018年11月の空撮画像から作成したオルソ画像とDSMデータを比較し,懸垂氷河の崩落箇所とその特徴を調べた.<br><b>2.研究地域</b><br> ランタン谷は,ネパールの首都カトマンズから北に約70kmに位置し,谷底は標高3000mほどある.ランタン・リルン峰(7246m)は谷の北に位置し,その上部には懸垂氷河が多数存在する.本研究では,ランタン谷に面するランタン・リルン峰の南西壁と東壁を対象にした.<br><b>3.研究方法</b><br> 地震後の2015年10月27日にヘリから撮影された空撮画像をSFMソフトでオルソ画像とDSMを作成した.地上基準点の情報はGoogleEarthとWorldView-2 DSM(解像度8m)から取得した.また,地震前のGoogleEarthの衛星画像と地震後のヘリ空撮のオルソ画像を比較し,懸垂氷河の崩落箇所を抽出した.また,2017年4月と10月,2018年11月に取得した空撮画像から作成したオルソ画像とDSMデータを用いて,ランタン・リルン峰の懸垂氷河分布図を作成し,懸垂氷河の崩落個所やその縦断プロファイルの変化を調べた.<br><b>4.懸垂氷河の分布と崩落の特徴</b><br> ランタン・リルン峰の南西壁と東壁の懸垂氷河の分布を調べたところ,南西壁では広く面的に発達したシート状の懸垂氷河が存在する.一方,東壁では大きな氷河はなく,個々の小規模な懸垂氷河が全体に分布する.東壁の下部には,懸垂氷河の崩落により形成されたリルン氷河が存在するが,南西壁の再生氷河は小さい.この結果は,氷河崩落による涵養量の違いによるものと考えられる.<br> 地震前後のオルソ画像を比較したところ,地震によって崩落したのは,標高5500~6700m,斜度20~60°に位置する懸垂氷河であった.崩落箇所は12箇所確認され,幅50~100m,高さ20~50mの氷体が消失していた.崩落箇所は,懸垂氷河の末端部や氷河中央部の凸部の傾斜変換点で生じている.また,2015年と2018年の懸垂氷河の変化を調べたところ,崖タイプと斜面タイプの両方で崩落があり,氷河末端部の前進も確認された.複数の崩落箇所の縦断プロファイルを比較した結果,氷河の末端部が氷体底部まですべり落ちているのではなく,末端部の表面上部だけが崩落していた.懸垂氷河の多くの崩落が50°以上の斜面で生じており,崩落後の末端部の形態から,分布する懸垂氷河は寒冷氷河の可能性が示唆される.<br> また,地震によってランタン村に堆積した雪氷土砂堆積物の融解過程を調べたところ,地震後の2015年10月から2018年11月までに60%ほどの体積が消失しており,堆積物のほとんどが雪氷体で構成されていると考えられる.
著者
山本 遼平 奈良間 千之 福井 幸太郎
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
pp.100275, 2016 (Released:2016-04-08)

北アルプスの北部に位置する立山連峰は日本で唯一の氷河が存在する地域であるが,氷河の年間質量収支や形態,環境条件などは明らかにされておらず,例えば北アルプスの局所的に氷河が維持されている要因なども不明である.そこで本研究では,立山連峰における氷河の年間質量収支および,局所的に氷河と越年性雪渓が発達する環境条件を明らかにすることを目的として,現地調査や解析をおこなった.以下に研究方法と結果を示す. 1),立山三山に存在する御前沢氷河に対し,融雪期末期の氷河上および氷河周辺の位置情報を高精度GNSS測量により取得した.また,冠雪の2日前の2015年10月9日に北アルプス北部で小型セスナ機からの空撮を実施した.現地調査により得たGNSS測量データと空撮画像からSfMで氷河表面の25cm解像度のDEMを作成した.作成したDEMから算出した融雪期末期の御前沢氷河の平均表面高度は2637.7m,末端高度は2502.0mであり,面積は0.112km2であった.また,作成したDEMの精度検証のために現地のキネマティックGNSS測量データと比較をした結果,氷河全体の平均鉛直誤差が0.55mであった. 2),衛星画像と国土地理院の解像度10mDEMを用いて,北アルプス全域において主稜線から一定の距離にある点を流出点とする集水域を作成し,雪の涵養・消耗に関連する地形的要素を集水域ごとに比較した.解析の結果,北アルプスに現存する氷河はその周辺の谷地形よりも涵養に関わる要素の値が大きい結果が得られた.
著者
有江 賢志朗 奈良間 千之 福井 幸太郎 飯田 肇 高橋 一徳
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2019年度日本地理学会秋季学術大会
巻号頁・発行日
pp.109, 2019 (Released:2019-09-24)

1.はじめに 福井・飯田(2012)と福井ら(2018)は,飛騨山脈の多年性雪渓において,近年の小型かつ高精度な測量機器を用いて氷厚と流速の測定を実施した.その結果,流動現象が確認された六つの多年性雪渓は氷河(小窓氷河,三ノ窓氷河,カクネ里氷河,池ノ谷氷河,御前沢氷河,内蔵助氷河)であると判明した.飛騨山脈は,氷河と多年性雪渓が存在する山域となった.しかしながら,飛騨山脈のすべての多年性雪渓で氷河調査がおこなわれたわけではなく,飛騨山脈の氷河分布の全貌は明らかでない.福井ら(2018)は,飛騨山脈の未調査の多年性雪渓のうち,氷体が塑性変形を起こすのに十分な氷厚を持ち氷河の可能性があるのは,後立山連峰の唐松沢雪渓,不帰沢雪渓,杓子沢雪渓などごくわずかであると指摘している.そこで,本研究では,唐松沢雪渓において氷厚と流動の測定をおこない,現存氷河であるかどうかを検討した.さらに,本研究の唐松沢雪渓で測定された氷厚と流動速度を,氷河の塑性変形による氷河の内部変形の一般則であるグレンの流動則で比較し,唐松沢雪渓の流動機構について考察した.2.研究手法 氷河と多年性雪渓は,氷体が顕著な流動現象を示すかどうかで区別される.本研究では,唐松沢雪渓の氷厚を測定するために,アンテナから電波を地下に照射し,その反射から地下の内部構造を調べる地中レーダー探査による氷厚測定を実施した.また,縦断測線と横断測線との交点ではクロスチェックをおこない正確な氷厚を求めた.測定日は2018年9月21日である.さらに,雪渓上に垂直に打ち込んだステークの位置情報を融雪末期に2回GNSS測量を用いて測定し,その差分から唐松沢雪渓の融雪末期の流動速度を測定した.また,雪渓末端の岩盤に不動点を設置し,2回の位置情報のずれをGNSS測量の誤差とした.2回の測定日は,2018年9月23日と10月22日である.図1に地中レーダー探査の側線とGNSS測量の測点を示した.3.結果 地中レーダー探査の結果,唐松沢雪渓は30m以上の氷厚を持ち,塑性変形するのに十分な氷厚を持つことが確認された. また,流動測定の結果,2018年融雪末期の29日間で,P1で18cm,P2で25cm,P3で19cm,P4で18cm,P5で19cm,北東方向(雪渓の最大傾斜方向)に水平移動していた.雪渓末端部の河床の岩盤の不動点(P6)での水平移動距離は2㎝であった.今回の測量誤差を2㎝とすると,雪渓上の水平移動で示された雪渓の流動は,誤差を大きく上回る有意な値であるといえる.流動測定を実施した融雪末期は,積雪荷重が1年で最も小さいため,流動速度も1年で最小の時期であると考えられている.このことから,唐松沢雪渓は一年を通して流動していることが示唆され,現存氷河であることが判明した. さらに,唐松沢雪渓で測定された表面流動速度は,グレンの流動則による塑性変形の理論値を上回っていた.このことから,唐松沢雪渓の融雪末期における底面すべりの可能性が示唆される.引用文献福井幸太郎・飯田肇(2012):飛騨山脈,立山・剱山域の3つの多年性雪渓の氷厚と流動―日本に現存する氷河の可能性について―.雪氷,74,213-222.福井幸太郎・飯田肇・小坂共栄(2018):飛騨山脈で新たに見出された現存氷河とその特性.地理学評論,91,43-61.
著者
有江 賢志朗 奈良間 千之 福井 幸太郎 飯田 肇 高橋 一徳
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2019, 2019

<p><b>1.はじめに </b></p><p> 福井・飯田(2012)と福井ら(2018)は,飛騨山脈の多年性雪渓において,近年の小型かつ高精度な測量機器を用いて氷厚と流速の測定を実施した.その結果,流動現象が確認された六つの多年性雪渓は氷河(小窓氷河,三ノ窓氷河,カクネ里氷河,池ノ谷氷河,御前沢氷河,内蔵助氷河)であると判明した.飛騨山脈は,氷河と多年性雪渓が存在する山域となった.しかしながら,飛騨山脈のすべての多年性雪渓で氷河調査がおこなわれたわけではなく,飛騨山脈の氷河分布の全貌は明らかでない.福井ら(2018)は,飛騨山脈の未調査の多年性雪渓のうち,氷体が塑性変形を起こすのに十分な氷厚を持ち氷河の可能性があるのは,後立山連峰の唐松沢雪渓,不帰沢雪渓,杓子沢雪渓などごくわずかであると指摘している.そこで,本研究では,唐松沢雪渓において氷厚と流動の測定をおこない,現存氷河であるかどうかを検討した.さらに,本研究の唐松沢雪渓で測定された氷厚と流動速度を,氷河の塑性変形による氷河の内部変形の一般則であるグレンの流動則で比較し,唐松沢雪渓の流動機構について考察した.</p><p><b>2.</b><b>研究手法</b></p><p> 氷河と多年性雪渓は,氷体が顕著な流動現象を示すかどうかで区別される.本研究では,唐松沢雪渓の氷厚を測定するために,アンテナから電波を地下に照射し,その反射から地下の内部構造を調べる地中レーダー探査による氷厚測定を実施した.また,縦断測線と横断測線との交点ではクロスチェックをおこない正確な氷厚を求めた.測定日は2018年9月21日である.さらに,雪渓上に垂直に打ち込んだステークの位置情報を融雪末期に2回GNSS測量を用いて測定し,その差分から唐松沢雪渓の融雪末期の流動速度を測定した.また,雪渓末端の岩盤に不動点を設置し,2回の位置情報のずれをGNSS測量の誤差とした.2回の測定日は,2018年9月23日と10月22日である.図1に地中レーダー探査の側線とGNSS測量の測点を示した.</p><p><b>3.結果</b></p><p> 地中レーダー探査の結果,唐松沢雪渓は30m以上の氷厚を持ち,塑性変形するのに十分な氷厚を持つことが確認された.</p><p> また,流動測定の結果,2018年融雪末期の29日間で,P1で18cm,P2で25cm,P3で19cm,P4で18cm,P5で19cm,北東方向(雪渓の最大傾斜方向)に水平移動していた.雪渓末端部の河床の岩盤の不動点(P6)での水平移動距離は2㎝であった.今回の測量誤差を2㎝とすると,雪渓上の水平移動で示された雪渓の流動は,誤差を大きく上回る有意な値であるといえる.流動測定を実施した融雪末期は,積雪荷重が1年で最も小さいため,流動速度も1年で最小の時期であると考えられている.このことから,唐松沢雪渓は一年を通して流動していることが示唆され,現存氷河であることが判明した.</p><p> さらに,唐松沢雪渓で測定された表面流動速度は,グレンの流動則による塑性変形の理論値を上回っていた.このことから,唐松沢雪渓の融雪末期における底面すべりの可能性が示唆される.</p><p><b>引用文献</b></p><p>福井幸太郎・飯田肇(2012):飛騨山脈,立山・剱山域の3つの多年性雪渓の氷厚と流動―日本に現存する氷河の可能性について―.雪氷,74,213-222.</p><p>福井幸太郎・飯田肇・小坂共栄(2018):飛騨山脈で新たに見出された現存氷河とその特性.地理学評論,91,43-61.</p>
著者
有江 賢志朗 奈良間 千之 福井 幸太郎 飯田 肇
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2019年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.124, 2019 (Released:2019-03-30)

はじめに 現在の飛騨山脈の気候環境では,降雪量が融解量を上回ることができない.そのため,飛騨山脈における氷河と多年性雪渓の分布は,吹きだまりやなだれの地形効果がある場所に限定される.樋口(1968)は,多年性雪渓の地形効果による涵養様式を雪渓の分布高度で分類しており,稜線からの標高差と分布高度が小さい雪渓を「吹きだまり型」,稜線からの標高差と分布高度が大きい雪渓を「なだれ型」,稜線からの標高差が小さく,分布高度が大きい雪渓を「混合型」とした.本稿では,「吹きだまり型」を「吹きだまり涵養型」,「なだれ型」と「混合型」を「なだれ涵養型」と呼ぶ. 質量収支の一般的な測定方法は,氷河や雪渓上に雪尺を打ち込み,1年後の雪面の高度変化を測る雪尺法が用いられる.しかしながら,日本の山岳地域は,膨大な涵養量と消耗量のため,雪尺が倒れてしまい実測できない.そこで,日本の多年性雪渓の質量収支観測では三角測量やトラバース測量がおこなわれている.観測実績のある雪渓は三角測量やトラバース測量の実測が可能な「吹きだまり涵養型」の小規模な多年性雪渓に限定されており,氷河を含む「なだれ涵養型」の多年性雪渓の質量収支は明らかでない. 本研究では,セスナ空撮とSfMソフトを使用し,2015~2018年の飛騨山脈北部の氷河と多年性雪渓の質量収支を算出し,「吹きだまり涵養型」と「なだれ涵養型」の違いを考察した.さらに,氷河の可能性が高い唐松沢雪渓において氷厚と流速を測定し,唐松沢雪渓の氷河の可能性について検討した.研究手法ⅰ)なだれ涵養型の氷河と雪渓の質量収支 飛騨山脈北部の立山連峰の「御前沢氷河」,「内蔵助氷河」,「三ノ窓氷河」,「小窓氷河」,「はまぐり雪雪渓」,「剱沢雪渓」,後立山連峰の「白馬大雪渓」,「カクネ里氷河」の8つの氷河と雪渓において,2015~2018年の春と秋に小型セスナ機からデジタルカメラで空撮を実施した.空撮画像と2次元の形状から3次元形状を作成するSfMソフトを用いて,多時期の高分解能の数値表層モデル(DSM)を作成した.これらDSMの比較から「なだれ涵養型」の氷河と雪渓の高度変化を算出した.ⅱ)唐松沢雪渓の氷厚と流動 後立山連峰の唐松岳の北東斜面に位置する「なだれ涵養型」の唐松沢雪渓において,2018年9月に,中心周波数100MHzの地中レーダー(GPR;GSSI社製)を使用し,雪渓の縦断方向に2列と横断方向に6列の側線で測定を実施した.縦断方向と横断方向で反射波のクロスチェックをおこない正確な氷厚を求めた.GPRの解析結果をもとに氷厚の大きい上流部において,アイスドリルを用いて,長さ4.5mのステークを5地点に設置し,GEM-1(測位衛星技術社製)で9月末と10月末でGNSS測量を実施し,2時期のステークの位置情報の差から流動量を求めた.9月末に水平に打ち込んだステークは,再測時の10月末でも水平を保っていたことから,積雪のグライドやクリープは,流動に関与していない.結果 ⅰ)8つの氷河と雪渓の質量収支は,2015/2016年に全域が消耗域となり,2016/2017年に全域が涵養域となり,2017/2018年にパッチ状に涵養域と消耗域が点在する結果であった.2015~2018年の融雪末期の中で最も氷河と雪渓の規模が小さくなったのは,小雪年の2016年である.2016~2018年までの高度変化で,「吹きだまり涵養型」の雪渓と「なだれ涵養型」を比較したところ,「なだれ涵養型」のほうが大きく涵養していた.ⅱ)唐松沢雪渓では,GPRの結果から最深部で30mほどの長さ1㎞ある氷体を確認した.流動観測では,ステークは1ヶ月間で斜面方向に20cmほど動いており,得られた氷厚と流速は氷河の流動則とほぼ一致した.
著者
畠 瞳美 奈良間 千之 福井 幸太郎
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
pp.100288, 2016 (Released:2016-04-08)

北アルプス北東部に位置する白馬大雪渓は日本三大雪渓の一つで,夏季には毎年1万人以上の登山者が通過する日本屈指の登山ルートである.白馬大雪渓上では岩壁の落石や崩落で生産される岩屑により毎年のように登山事故が起こっている.本研究では,落石・崩落の実態や大雪渓周辺の地形変化を明らかにすることを目的として,2014~2015年に現地調査を実施した.2014年の7月~8月に設置したインターバルカメラの撮像結果より,この時期に岩壁から生産された礫の雪渓への侵入はわずかであり,雪渓上に無数に点在する礫の多くは雪渓内部から融出したものであった.UAVの空撮画像を用いて作成した50 cm解像度DEMから得られた表面傾斜角をみると,大雪渓本流では緩傾斜地と急傾斜地が交互に存在し,インターバル撮像から急傾斜地で礫の再転動・再滑動が多く確認された.また,大雪渓上には6種類の礫を確認し,その分布は本調査地域の地質を反映していた.2011~2014年にかけて,大雪渓上流(白馬岳,杓子岳),2号雪渓,3号雪渓及び大雪渓下流右岸側において岩壁が部分的に後退していた.アイスレーダー探査の結果によると,雪渓の厚さは薄いところで約3 m,厚いところで約20 mであり,場所による雪渓の厚さの違いが確認された. 白馬山荘において観測された気温・地温データから,気温が0度付近となる時期は4月末~5月末であり,凍結融解作用で岩壁から礫が生産される時期は非常に短く,7~8月は降水や再転動などの要因で落石事故が生じていると考えられる.さらに,融雪に伴い岩盤が露出することで,凍結融解作用によって生産された岩屑が落石へと発展することがわかった.雪が著しく融けて昨年の雪渓表面が出現する場合,少なくとも雪渓上には2年分の礫が存在するため,礫の再転動・再滑動による災害のリスクが高まると考えられる.本流において急傾斜地で再転動・再滑動が多く起こるという結果から,より急傾斜な2号雪渓と3号雪渓ではそのリスクは非常に高くなることがわかった.本調査地域の地質,大雪渓上の礫の関係及び岩盤の経年変化から,落石はほぼ全ての方向の岩壁斜面から発生しているが,特に杓子岳周辺では落石による激しい岩盤侵食と崖錐の形成が起こっていると考えられる.
著者
奈良間 千之 佐藤 隼人 山本 美奈子
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2015, 2015

<b>1</b><b>.はじめに</b><br>&nbsp; キルギスタン北東部に位置するテスケイ山脈では2006年~2014年にかけて氷河湖決壊洪水(GLOF)が起こっている.この地域のGLOFは数か月~数年内に出現・急拡大し,出水する短命氷河湖タイプであり,衛星画像によるモニタリングで氷河湖の出現を把握するのが極めて難しい.2008年7月の西ズンダンGLOFでは,0.04km<sup>2</sup>の氷河湖がわずか2か月半で出現し,この氷河湖からの出水により,3人が亡くなり,下流の道路や家畜への甚大な被害がでた(Narama et al., 2010).また,同山脈では2013年8月にジェル・ウイ氷河湖,2014年7月にカラ・テケ氷河湖が2年連続で出水し,下流のジェル・ウイ村で被害が出ている.この出水した2つの氷河湖はキルギスタン緊急対策省のハザードレベルでそれぞれ低・未認定となっており(MES, 2013),ハザードレベルの評価が正しくおこなわれておらず,氷河湖への理解が十分であるとは言い難い.そこで本研究では,現地調査や衛星画像解析からテスケイ山脈北側斜面に分布する氷河湖の出水と被害の特徴を明らかにすることを目的とする.<br><b>2</b><b>.研究方法</b><br>&nbsp; 衛星画像(Landsat7/ETM+,ALOS/ PRISM AVNIR-2,Landsat8/OLI)を用いて氷河湖ポリゴンを作成し,氷河湖の分布を調べた.ALOS/PRISMとASTERのDEMによる地形解析から湖盆地形を抽出し,下流域の地形,侵食域と合わせリスク評価をおこなった.現地調査では高精度GPSによる氷河湖周辺の測量,地形観察,出水トンネル確認,堆積物調査を実施した.また,2つのGLOFとその被害の詳細を知るために地元住民から聞き取り調査を実施した.調査結果をまとめ最近のGLOFの堆積物,洪水タイプ,被害を比較し,この地域のGLOFの特徴について考察した.<br><b>3</b><b>.結果と考察</b><br>&nbsp; 衛星画像を用いた氷河湖の変動解析と現地調査の結果, 2013年8月15日に出水したジェル・ウイ氷河湖は約3か月間で面積0.031km<sup>2</sup>まで拡大・出水した.2014年7月17日に出水したカラ・テケ氷河湖は前年にわずか0.002km<sup>2</sup>の水たまりが3か月程度で0.024km<sup>2</sup>まで拡大・出水した.いずれも急拡大して出水した短命氷河湖であった.氷河前面には埋没氷を含むデブリ帯が広がっており,デブリ帯内部に発達したアイストンネルからの出水であった.2つのGLOFは土石流であるが,流れのタイプや堆積構造は大きく異なる.ジェル・ウイ氷河湖のGLOFは粘性が高く土砂を多く含んだ流れで,その堆積物は小さい粒径の岩屑を多く含むマトリックスサポートで無層理の堆積構造であった.一方,カラ・テケ氷河湖のGLOFは水分を多く含む粘性の低い流れで,堆積物は巨礫からなるクラストサポートで,無淘汰・無層理の堆積構造であった.聞き取り調査からも高密流の堆積構造をもつジェル・ウイ氷河湖のGLOFの方が遅い流れであったという証言が得られている.また,両者の下流域の地形の違いにより被害の程度に違いがみられた.ジェル・ウイ氷河湖のGLOFの場合,谷出口が扇状地であったため首振り運動による河道変化が発生し,扇状地上の農地,道路,灌漑用水路,橋などが広範囲で被害を受けた.一方,カラ・テケ氷河湖のGLOFの場合,谷出口は河谷地形であったため,GLOFは河道沿いに流れ,被害は川沿いの2つの橋にとどまった.<br>&nbsp; この地域で過去に生じたGLOFの洪水タイプと侵食長を指標として,現存する,今後出現する可能性を持つ氷河湖に対して,下流域の侵食長を計測し,各谷でGLOFが発生した場合のGLOFの洪水タイプを推定した結果,この地域ではMud floodタイプになる可能性の谷が少なくとも8つあることを確認した.