- 著者
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手代木 功基
- 出版者
- 公益社団法人 日本地理学会
- 雑誌
- 日本地理学会発表要旨集
- 巻号頁・発行日
- vol.2015, 2015
<b>はじめに </b><br>モンゴル国南部には草本が卓越する乾燥ステップが広がっている。こうした草本優占景観の一部には、灌木が集中して分布する地域がみられる。世界の乾燥・半乾燥地域の植生と放牧圧の関係を検討したAsner et al. (2004)は、草原中の灌木は,過放牧に起因する草原の劣化にともない優占すると指摘した。一方で、モンゴルにおいては、これらの灌木は家畜の採食資源になっているという報告もある(Fujita et al., 2013)。このように、内陸アジアの乾燥ステップにおける灌木の分布の実態や放牧との関わりについては不明な点が多い。 したがって本研究では、モンゴル国南部、マンダルゴビ地域において、高解像度衛星画像を用いて灌木の分布を明らかにすることを試みる。そしてその結果をもとに、分布の要因や家畜の放牧との関係を定量的に検討する。 <br><br><b>方法 </b><br>調査地はモンゴル国ドンドゴビ県、サインツァガーン郡である。特に県の中心地であるマンダルゴビの南東部を対象とした.降水量は年変動が大きく、干ばつやゾド(寒冷害)もしばしば発生する。対象地域には家畜を飼養する牧民が居住している。牧民は主に移動式の住居に居住しており、季節的に遊動しながら放牧を行っている. 現地調査は2013年9月、2014年1月,及び8月に実施した.灌木の分布を現地で記録して衛星画像解析時の参照情報にするとともに、対象地域における牧民の樹木利用や放牧活動について調査した。放牧活動については、対象地域内で家畜を飼養している牧民のヤギとヒツジにGPS首輪を取り付け、放牧場所を記録した。 灌木の分布は、空間解像度が50cm(パンクロ)、2m(マルチ)と高いWorldView-2(撮影日:2011年7月14日及び10月24日)を利用して抽出した。この解析にはExelis VIS社製ENVI5.1とFeature Extractionモジュールを使用した。 <br><br><b>結果と考察</b><br>調査地域では、主に<i>Caragana microphylla</i>と<i>Caragana pygmala</i>が灌木として出現した。これらの灌木の周囲にはしばしば砂が堆積したマウンド(nebkha)が形成されていた。マウンドの高さは平均が約30cmであった。 次に、衛星画像上でオブジェクト分類を行って、灌木の分布密度を算出した。その結果、灌木の分布は地域内において一様ではなく、偏りがみられることが明らかになった。これらの灌木の分布は、マクロスケールにおける地形や土壌の差異と関わりがあると考えられる。 次に、灌木の分布と放牧場所の関係について検討した。その結果、灌木が高密度で分布する場所はヤギ・ヒツジの放牧場所として利用されていることが明らかになった。牧民は季節によって放牧場所を移動させており、特に草本の採食資源が減少する冬から春にかけて灌木の密集地帯を利用していた。 牧民は、草本が不足する時期や、干ばつなどの災害時には灌木が家畜にとって需要な採食資源になると語る。したがって、今後は干ばつやゾド時における灌木の利用状況を定量的に明らかにすることを通して、乾燥ステップにおける樹木の役割を再評価していく必要がある。<br><br>*本研究は,総合地球環境学研究所「砂漠化をめぐる風と人と土」プロジェクト(研究代表者:田中樹)及びJSPS科研費・若手研究(B)「乾燥地域における放牧システムのレジリアンスに関する研究:樹木の役割に着目して」(課題番号:25750118)の成果の一部である。