- 著者
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渡邉 悌二
白坂 蕃
- 出版者
- 公益社団法人 日本地理学会
- 雑誌
- 日本地理学会発表要旨集
- 巻号頁・発行日
- vol.2015, 2015
目的 キルギス南部のアライ谷では,家畜(ヒツジ,ヤギ)の放牧が最大の産業である。アライ谷の牧畜は,谷の中の住人が行う水平移牧,谷の外部の住人が行う垂直移牧,および数~20軒ほどの谷の中の世帯が共同で飼育する共同型の日々放牧(ゲズー)からなっている (Shirasaka et al. 2013)。これらの放牧形態のうち,この研究ではゲズーの詳細を明らかにする調査を行った。 <b> </b> ● 結果【アライ谷全域の調査】調査を行った15村のうち,東側(高所)に位置する6村(サリタシ,キチ・アルチャブラック,アルチャブラック,タルディス,サリモゴル,カラカバク)でゲズー(kezüü)が行われていたが,西側(低所)に位置する9村(カシカス,ジャイルマ,アチクス,カビク,キジルエシュメ,ダロートコルゴン,チャク,ジャシティレク,ジャルバシ)は同様の形態の放牧がゲズーでなくノバド(novad)という名称で行われていた。アライ谷東部は主要道路で北方のオシに結ばれており,アライ谷からオシの間の村や町でもゲズーが行われているが,南方のカラクル(タジキスタン)ではノバドが行われている。 【アライ谷東部,サリタシ,タルディスの調査】サリタシとタルディスでは (1) 3季・村ベース型,(2) 2季・村ベース型,(3) 3季・ジャイロベース型の3タイプのゲズーが認められた。2011年時点で,サリタシでは,村人が所有するヒツジ・ヤギのうち1,981頭(63家族)が3季・村ベース型ゲズーを行っており,2013年時点で388頭(15家族)が2季・村ベース型ゲズーを行っていた。タルディスには,タルディス,アルチャブラック,キチ・アルチャブラックの3つの集落がある。タルディスでは3タイプすべてのゲズーが存在しており,アルチャブラックとキチ・アルチャブラックには3季・村ベース型および2季・村ベース型ゲズーが存在している。 GPS首輪(合計66頭)を用いた放牧範囲の調査結果からは,一日の水平移動距離が6.8 km~17.3 kmの範囲内にあり,村から半径1.3~5.4 km内で放牧が行われていることがわかった。 村人がゲズー・ノバドに参加する基本的な理由は,家族内の限られた労働力を最小限にするためである。サリタシの場合,ゲズーに参加している63家族のうち,1家族のみが牧畜のみで生計を立てているが,それ以外は教師やトラック運転手,道路作業員,国境警備員など他に職業を有しており,家族の中で家畜の世話をできるのは子どもらに制限される。 【アライ谷全域のゲズー・ノバドの多様性】詳しい調査を行ったサリタシとタルディスでは3タイプのゲズーが認められたが,アライ谷を西に進むとゲズー・ノバドのタイプは少なくとも5つに増える(上記の3タイプに,1季・村ベース型および3季・村/ジャイロベース型が加わる)。ゲズー・ノバドはアライ谷の家畜放牧の形態に多様性を与えることに繋がっている。また,ゲズー・ノバドの存在は,将来の開発が期待されるエコツーリズム資源としても重要である。しかし,多くの家畜が村から半径わずか1.3~5.4 km内の放牧地を使用していることから,将来的には村周辺の放牧地の荒廃が懸念される。