著者
由井 義通
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2015, 2015

<b>I</b><b> 郊外開発の進展と郊外研究</b> <br>高度経済成長期以降、大都市圏郊外地域で活発に開発された住宅団地を対象とした地理学研究は開発行為に対する研究から、居住者の変容などの研究へと比重を移している(福原;1998,由井;1998,中澤ほか;2008)。本発表では,開発時期の古い郊外住宅団地における高齢化とそれに付随したさまざまな問題が表出している今日において,住宅研究の観点から都市地理学研究を振り返り,その社会貢献について再検討したい。 <b><br>Ⅱ 衰退する郊外空間</b> <b><br>1.深刻化する高齢化</b> <br>郊外住宅は「住宅双六のあがり」となる「終の棲家」と考えられ,「人生の最初で最後の高額の買い物」となることが多い。郊外住宅地において供給された住宅は、30代から40代の夫婦と子どもからなる核家族向けの住宅が大部分であり,間取りもほぼ同様で等質的な入居者に偏り、隣近所が皆同じ世代というように等質性の高いコミュニティになりがちである。30年以上経過すると居住者は加齢して高齢者となり、子どもたちの独立によって急激に人口が減少し、高齢夫婦のみが住み続ける過疎地域のような人口ピラミッドとなっている(由井ほか,2014)。 <b><br>2.</b><b>空き家の発生</b> <br>大都市郊外の住宅団地では,中古住宅の需要もあるので不動産市場で郊外住宅の取引も多く,必ずしもすべてが空き家とはならない。しかし,地方都市の郊外住宅団地のなかには公共交通機関や生活利便施設への利便性が十分ではないものも数多くあり,中古住宅として売りに出されたとしても購入者がなかなか見つからなかったり,所有者自身が売れないと判断して放置しておくために長期間にわたって空き家となることが多い。 それ以上に,居住者の高齢化と子ども世代の転出によって,郊外第一世代の死去や高齢者介護施設への入院などを契機として,郊外住宅地において空き家が大量に発生している。 <br> <b>3.</b><b>デッドストックと負の不動産</b><br>住宅団地には、空き家や空き地が数多く分布している。大部分の空き地は、売れ残りによるものではなく、売却済みの土地であるにもかかわらず住宅が建築されなかったものである。その理由は、土地購入者が将来的にそこに住む予定であったが、定年退職した時にはそこへ移動してこなかった土地であったり、土地購入者が自分の子どものために土地を購入したものの、子どもの世帯が移動してこなかった場合であったり、最初から投機目的で購入した場合など、さまざまな理由で空き地として継続していた。これらの土地は流通されることもなく、今後の売却も極めて難しい状況にあり、いわばデッドストック状態の土地であるといえる。郊外住宅地の住宅や住宅・土地の不動産価格はほとんど上昇しておらず、むしろ大幅な値下がりとなっており、住宅の維持費や固定資産税を考えると所有するだけでそのコストが販売価格を上回る「負の『不動産』」となっている。 <b><br>Ⅲ 郊外活性化への取り組み</b> <br>高齢化が進行する郊外住宅地において、空き家対策や住宅団地の活性化として住民やNPOによるさまざまな取り組みが行われており、広島県では、行政や関係団体と協力し、公有地や空き家情報、定住促進事業を紹介する「空き家バンク」(http://akiya-bank.fudohsan.jp/)が2014年11月に設置され、空き家解消のための住宅流通の活性化が図られている。 郊外地域の活性化について,都市地理学としては都市計画や都市政策の問題を指摘するとともに,地理学の社会貢献として関与できることが望まれる。

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