著者
中澤 高志 由井 義通 神谷 浩夫 木下 礼子 武田 祐子
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.81, no.3, pp.95-120, 2008-03-01 (Released:2010-03-12)
参考文献数
43
被引用文献数
9 5

本稿では, 日本的な規範や価値観との関係において, シンガポールで働く日本人女性の海外就職の要因, 仕事と日常生活, 将来展望を分析する. 彼女たちは, 言語環境や生活条件が相対的に良く, かつ移住の実現性が高いことから, シンガポールを移住先に選んでいる. シンガポールでの主な職場は日系企業であり, 日本と同様の仕事をしている. 彼女たちは, 日本においては他者への気遣いが必要とされることに対する抵抗感を語る一方で, 日本企業のサービスの優秀さを評価し, 職場では自ら日本人特有の気配りを発揮する. 結婚規範の根強さは, 海外就職のプッシュ要因となる可能性があるが, 対象者の語りからは, こうした規範をむしろ受け入れる姿勢も読み取れる. 彼女たちは, これら「日本的なもの」それ自体というよりは, それを強制されていると感じることを忌避すると考えられ, 海外就職はこうした強制力から心理的に逃れる手段であると理解できる. 日本の生活習慣や交友関係のあり方は, むしろ海外での生活でも積極的に維持される.
著者
由井 義通 宮内 久光
出版者
人文地理学会
雑誌
人文地理学会大会 研究発表要旨
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.59-59, 2010

沖縄県における情報通信関連産業は,1990年代後半から始まる日本政府と沖縄県の産業振興政策の誘導などにより,飛躍的な成長を遂げた。特にコールセンターは,沖縄県観光商工部が把握しているだけでも2000~2009年度までの10年間で48社が県内に拠点を開設し,12,031人の新規雇用を創出した。このことから、常に深刻な雇用問題に悩む沖縄県にとって,コールセンターは新たな中核的産業と位置付けられつつある。『平成15年特定サービス産業実態調査報告書テレマーケティング業編』によると,全国のコールセンター従業者の79.1%が女性であることから推察するに,沖縄県におけるコールセンターの集積は,特に女性の就業機会の確保にも大きく貢献しているといえるだろう。 今日,経済のサービス化に伴い,総労働力人口に占める女性労働力人口の割合が高くなる「労働力の女性化」が著しい。なかでもコールセンター業務は,仕事量が多く,マニュアル化された単純な作業,精神的なストレスの多い職場(林,2005)であることに加えて,低賃金の非正規雇用が中心で離職率の高さに特徴づけられる「女性の仕事」であるともいえよう。 沖縄県におけるコールセンターに関するこれまでの研究は,コールセンターの集積地としての動向が注目され,もっぱら産業振興策の紹介と現状把握の側面が強かった(鍬塚,2005)。すなわち,立地論的なアプローチが中心であったといえよう。一方,コールセンターで働く従業者,特にその多くを占める女性従業者の就業に焦点を当てた研究は乏しい。女性従業者の中には,仕事と家事・育児・介護との両立を求められている者も多く,コールセンターにおける雇用の実態とあわせて,生産と再生産の調和を検討することは,「労働力の女性化」が著しい現代において,女性就業を理解する上で重要なアプローチであると考えられる。そこで,本研究の目的は,沖縄県を事例としてコールセンターの雇用特性を把握するとともに,女性の就業と生活の状況を把握することである。研究資料を得るため,本研究ではコールセンター事業所および女性従業者へのアンケート調査および聞き取りを実施した。 結果は学会発表時に報告する。
著者
由井 義通
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.76, no.9, pp.668-681, 2003-08-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
14
被引用文献数
4 3

本研究は,母子生活支援施設と入所世帯とを調査し,母子世帯の住宅問題と彼女たちを取り巻く住宅状況の地域的な差異を解明することを目的とする.母子生活支援施設入所者の特徴をみると,地域的な差異が明瞭である.東京大都市圏内の施設には家出を理由とした入所者の比率が際立って高い.家出の原因として可能性が高いドメスティック・バイオレンスからの避難として,施設が重要な役割を果たしていることがわかった.入所している母親の年齢は,いずれの地域の施設においても30歳代が過半数を占めるが,大都市圏内では20歳未満の未婚の母親が多い.乳幼児を抱えた母親にとって,育児の負担が大きいために就業することが困難で,生活保護受給者が大都市圏内には多い.
著者
久保 倫子 由井 義通
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 = Geographical review of Japan (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.84, no.5, pp.460-472, 2011-09-01
参考文献数
21
被引用文献数
8

本研究は,「メジャーセブン」と呼ばれる主要なマンション事業者によるマンション供給の特性および供給戦略を分析し,1990年代後半以降の東京都心部におけるマンション供給の変化を明らかにすることを目的とした.1990年代後半以降,東京都心部においては「コンパクトマンション」と呼ばれる小規模世帯向けの分譲マンションが供給されるようになった.メジャーセブンによるコンパクトマンションの供給は2000年以降単身女性向けに始まった.2005年以降は,単身男性や核家族による都心部でのマンション需要が顕在化したことを受けて,事業者によって,超高層マンションの供給を中心としコンパクトマンションをこれに取り込んだものや,高級なコンパクトマンションに特化したブランドを確立したもの,さらに東京周辺区部での比較的安価なコンパクトマンションの供給を進めたものなどに分化していった.事業者によって,コンパクトマンションの供給地域や販売価格,対象とする世帯が異なるため,東京都心部においてはコンパクトマンションの供給戦略は多様化した.これによって,東京都心部においては,住宅タイプによる居住分化がより複雑化したと考えられる.
著者
若林 芳樹 久木元 美琴 由井 義通
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2018, 2018

2012年8月に成立した子ども・子育て関連3法に基づいて,子ども・子育て支援新制度(以下,「新制度」と略す)が2015年4月から本格施行された.これにより,市区町村が保育サービスを利用者へ現物給付するという従来の枠組みから,介護保険をモデルにした利用者と事業者の直接契約を基本とし,市区町村は保育の必要度に基づいて保育所利用の認定や保護者向けの給付金を支払う仕組みへと転換した.また,待機児童の受け皿を増やすために,保育所と幼稚園の機能を兼ねた認定こども園の増加や,小規模保育所や事業所内保育所などの「地域型保育」への公的助成の拡大が促進され,保育サービスのメニューも広がった(前田, 2017).しかしながら,こうした制度変更の影響について地理学的に検討を加えた例はまだみられない.そこで本研究は,新制度導入から3年目を迎えた現時点での保育サービス供給の変化と影響について,若林ほか(2012)がとりあげた沖縄県那覇市を中心に検討した.<br><br> 新制度では,認可保育所などの大規模施設で実施される「施設型保育」に加えて,より小規模な「地域型保育」も公的補助の対象になった.このうち「施設型保育」については,認可保育所以外に認定こども園の拡充が図られている.2006年から幼児教育と保育を一体的に提供する施設として制度化された認定こども園は,制度や開設手続きの複雑さなどが原因となって普及があまり進んでいなかったが,新制度では幼保連携型認定こども園への移行を進める制度改正が行われた.その結果,2019年4月における保育の受け入れ枠の14%を認定こども園が占めるようになった.<br><br> 一方,「地域型保育」には,小規模保育(定員6~19人)・家庭的保育(定員5人以下)・事業所内保育・居宅訪問型保育があり,主に0~2歳の低年齢児を対象としている.これらは,住宅やビルの一部を使って実施されるため,従来の認可保育所に比べて設備投資が小さくて済み,小規模でも公的補助が受けられる.そのため,用地の確保が困難なため認可保育所で低年齢児の定員枠の拡充が難しい大都市では,待機児童の受け皿となることが期待されている.この他にも保育士の配置などで認可基準が緩和され,公的補助のハードルが全体的に低くなっている.その中でも小規模保育は,新制度への移行後の保育枠の増加に大きく寄与している.<br><br> 新制度に対応した那覇市の事業計画では,需要予測に基づいて2017年度末までに約2500人の保育枠を増やすことになっている.そのために,認可外保育所に施設整備や運営費を支援して認可保育所に移行させ,認定こども園や小規模保育施設を新設するとともに,並行して公立保育所の民営化を進めることになっている.工事の遅れや保育士不足などによって,必ずしも計画通りには進んでいないものの,地方都市では例外的に多かった同市の待機児童数は,2018年4月から1年間の減少幅では全国の自治体で最も大きかった.これは,保育所定員を2443人増やした効果とみられるが,依然として200人(2017年4月)の待機児童を抱えている.<br><br> 新制度実施前の那覇市では,認可外保育所が待機児童の大きな受け皿となっていた(若林ほか, 2012).保育の受け入れ枠を拡大するには,それらの施設の活用が考えられるため,認可外保育所の代表者6名にグループインタビューを行ったところ,認可外保育所の対応は3つに分かれることがわかった.比較的大きな施設は,施設を拡充したり保育士を増やすなどして認可保育所への移行を図っているが,規模拡大が困難な施設は小規模保育として認可を受けるところもある.しかし,認可施設に移行すると既存の利用者の多様なニーズに柔軟に応えられなくなる恐れがあり,保育士の増員も困難なため,認可外にとどまる施設も少なくない.<br><br> また,事業所内保育施設については,市が施設整備費補助制度を設けていることもあって増えている.そこで新規に認可を受けた事業所内保育所2施設に対して聞き取りを行った.A保育所は,都心からやや離れた場所にある地元資本のスーパー内の倉庫を改装して使用し,運営は県外の民間業者に委託している.利用者は事業所従業員と一般利用が半数ずつを占める.B保育所は,風営法により認可保育所が立地できない場所にある都心部のオフィスビルに1フロアを改装して新設されている.定員のうち従業者の利用は少なく,大部分は地域枠として募集しているが,入所待ちの児童もあるという.これらの小規模保育施設に共通することとして,2歳児までしか受け入れ枠がないため,3歳児から移行できる連携施設を近隣に確保するのが課題となっている.
著者
由井 義通
出版者
The Tohoku Geographical Association
雑誌
季刊地理学 = Quarterly journal of geography (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.143-161, 2003-09-18
参考文献数
10
被引用文献数
3 7

本研究の目的は, 大都市圏における女性就業者の増加と彼女たちを取り巻く住宅問題から, 地域的背景や社会経済的背景に焦点を当てて都市空間のジェンダー化についてアプローチを試みることである。研究の方法として, 女性向け住宅情報誌に掲載されたマンション購入者の体験談の特徴からシングル女性の住宅購入の実態を解明することにした。<br>マンション購入体験談に掲載された女性たちの特徴は, 30歳代が約3分の2を占めており, 彼女たちの居住地は東京都心部の港区や西部や南部内の最寄り駅からの利便性の高い地域内で購入した人が過半数を占めている。シングル女性による住宅購入は, 女性の社会進出に伴う就業構造の変化などが関連しているとみられ, 大都市特有の現象であるといえる。しかし, マンション購入者が必ずしも高収入を得ているキャリア女性に限られていないのは, その背景に民間の賃貸住宅市場における家賃の割高感, 転居や契約更新の際に感じる契約更新料や敷金・礼金などに対する不満や, 単身者が共通して感じる老後の不安などが影響をもたらしている。また, 豊かな生活を求める傾向の中で, その生活行動の充実を求める場として住居を購入すると思われる。
著者
由井 義通 若林 芳樹 中澤 高志 神谷 浩夫
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.2, no.3, pp.139-152, 2007 (Released:2010-06-02)
参考文献数
39
被引用文献数
1 2

日本の女性を取り巻く社会的・経済的状況は過去数十年の間に急激に変化した.そうした変化の一端は,働く女性の増加を意味する「労働力の女性化」に現れている.とりわけ大都市圏ではシングル女性が増大しているが,それは職業経歴の中断を避けるために結婚を延期している女性が少なくないことの現れでもある.この傾向は,1986年の男女雇用機会均等法の成立以降,キャリア指向の女性の労働条件が改善されたことによって促進されている.その結果,日本の女性のライフコースやライフスタイルは急激に変化し,多様化してきた.筆者らの研究グループは,居住地選択に焦点を当てて,東京大都市圏に住む女性の仕事と生活に与える条件を明らかにすることを試みてきた.本稿は,筆者らの研究成果をまとめた著書『働く女性の都市空間』に基づいて,得られた主要な知見を紹介したものである.取り上げる主要な話題は,ライフステージと居住地選択,多様な女性のライフスタイルと居住地選択,シングル女性の住宅購入とその背景である.
著者
由井 義通 杉谷 真理子 久保 倫子
出版者
日本都市地理学会
雑誌
都市地理学 (ISSN:18809499)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.69-77, 2013 (Released:2020-09-09)
参考文献数
17
被引用文献数
1

本研究の目的は,郊外住宅団地における空き家の実態と空き家発生に伴う地域的課題を把握し,空き家の有効利用などによる地域活性化策を立案する基礎的資料を得ることである.大都市圏郊外地域では短期間に大量の住宅が供給され,入居者の年齢階層に著しい偏りがみられた.しかし,開発から30 ~40 年を経過した住宅団地では,世帯主夫婦は高齢化し,彼らの子どもたちが独立したことにより高齢者夫婦のみと高齢の単独世帯が卓越した地域へと変容している.そのため,郊外住宅団地ではスーパーマーケットの閉鎖や学校の閉校などがみられるようになり,衰退地域となっているところもみられる.地方都市の郊外住宅団地のなかでも公共交通機関や生活利便施設が十分ではない地域では,中古住宅として売りに出されたとしても購入者がなかなか見つからないため,長期間にわたって空き家となることが多い.空き家では,庭木の管理が不十分なために隣接世帯への迷惑となったり,不法侵入者による放火などの危険性もある.また,空き家住宅が増加するとコミュニティ維持の担い手が失われ,地域の衰退に直結するため,自治体では空き家住宅への入居促進に取り組まざるを得なくなっている.
著者
久保 倫子 由井 義通
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.84, no.5, pp.460-472, 2011-09-01 (Released:2015-10-15)
参考文献数
21
被引用文献数
3 8

本研究は,「メジャーセブン」と呼ばれる主要なマンション事業者によるマンション供給の特性および供給戦略を分析し,1990年代後半以降の東京都心部におけるマンション供給の変化を明らかにすることを目的とした.1990年代後半以降,東京都心部においては「コンパクトマンション」と呼ばれる小規模世帯向けの分譲マンションが供給されるようになった.メジャーセブンによるコンパクトマンションの供給は2000年以降単身女性向けに始まった.2005年以降は,単身男性や核家族による都心部でのマンション需要が顕在化したことを受けて,事業者によって,超高層マンションの供給を中心としコンパクトマンションをこれに取り込んだものや,高級なコンパクトマンションに特化したブランドを確立したもの,さらに東京周辺区部での比較的安価なコンパクトマンションの供給を進めたものなどに分化していった.事業者によって,コンパクトマンションの供給地域や販売価格,対象とする世帯が異なるため,東京都心部においてはコンパクトマンションの供給戦略は多様化した.これによって,東京都心部においては,住宅タイプによる居住分化がより複雑化したと考えられる.
著者
若林 芳樹 神谷 浩夫 由井 義通 木下 禮子 影山 穂波
出版者
地理科学学会
雑誌
地理科学 (ISSN:02864886)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.65-87, 2001-04-28
参考文献数
64
被引用文献数
4

本研究は,量的研究法と質的研究法とを組み合わせたマルチメソッドのアプローチを用いて,東京大都市圏における30歳代シングル女性世帯の居住地選択の傾向とそれを取り巻く状況を分析したものである。既存の統計類とアンケート調査結果を用いた量的分析の結果,シングル女性世帯の居住地選択の特徴として,利便性を重視して都心周辺部を指向すること,所得階層によって就業・居住状態に違いがみられること,住宅の探索・契約をめぐって種々の制約を受けていること,などが明らかになった。こうした量的分析による知見を裏付け,より詳細な居住地選択の実態を探るために,グループ・インタビューを行い,質的分析を加えた。その結果,彼女らが都心周辺部を指向する理由は,単なる利便性だけでなく,帰宅時の安全性への配慮や住み慣れた地域への選好が影響していること,住宅の契約をめぐる制約の強さは勤務先や所得によって異なること,などが明らかになった。
著者
由井 義通
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.193-204, 2019 (Released:2020-03-25)
参考文献数
56

日本の都市地理学において研究蓄積が少ないのは,発展途上国をフィ−ルドとした研究である。インドはリサ−チビザの取得が難しく,地域調査が難しい。本報告の目的は,インドの都市研究を展望し,インドでの数次にわたる都市調査経験から,著者自身が試行錯誤した調査手法が,次世代のインドの都市研究の参考となるように地理学による海外都市研究の意義と課題について検討することである。
著者
由井 義通 日野 正輝 シャルマ ヴィシュワ ラージ
出版者
地理科学学会
雑誌
地理科学 (ISSN:02864886)
巻号頁・発行日
vol.76, no.1, pp.1-17, 2021

<p>1991年の経済自由化以降,インドの経済は急速な発展をとげ,メガ・リージョンの核となる大都市圏の郊外では,工業団地やオフィスビルディングの開発,および新中間層や富裕層向けの住宅開発と商業開発が進められている。本研究の目的は,グルグラムから外延的都市開発が進むマネサールを事例として,デリー大都市圏のアーバンフリンジにおける住宅開発の実態と課題を明らかにすることである。</p><p>研究対象のマネサールはインディラ・ガンジー国際空港からナショナルハイウェイ8号線で南へ 32 kmに位置し,デリーの郊外都市として急速に発展しているグルグラムの南に隣接し,行政上は村委員会が管理している村であるが,人口規模および社会経済的特性が都市の条件を備えているセンサス・タウンである。マネサールはグルグラムの「マスタープラン2021」においてグルグラムと一体化した都市計画区域となり,都市開発が進められている。</p><p>マネサールのセクター1の開発状況について,2016年2月および2017年2月に現地調査を行った。その結果,536区画中,入居中の戸建て住宅は269戸,自宅建物に借家を組み込んだ小規模な集合住宅が19棟,戸建て住宅区画に建設されたPGが63棟,グループハウジングは55区画中19区画が開発済みであった。また戸建て住宅区画のうち,空き地と空き家が多く,約30%は未利用の状態であった。空き地の土地所有者は,居住意思はなく,投機目的での土地取得といえる。</p><p>グループハウジングは,コーポラティブハウジングが多く,グルグラムのような大手不動産ディベロッパーによる開発はない。また,大部分のグループハウジングでは賃貸住宅が多かった。</p><p>このように,マネサールでは大量の空き地と空き家が発生していた。また,入居のある住宅についてみると,戸建て住宅とグループハウジングのいずれにおいても賃貸住宅として貸し出されている住宅が多い。これらはマネサールがアーバンフリンジにあり,地価や住宅価格が安いことやメトロの延伸計画などで将来的な発展を見込んだ投機的な住宅開発が行われたことによると思われる。さらに,単身者向けのPGが多いのは,食堂などの生活利便施設のないアーバンフリンジで工業団地が開発されたためといえる。</p><p>インドにおける都市開発の問題は,農村からの土地の収奪問題発生や,伝統的農村が計画的都市内に無秩序に分散しているような第三世界的な過剰都市化が課題となっている。</p>
著者
由井 義通 フンク カロリン 川田 力
出版者
日本都市地理学会
雑誌
都市地理学 (ISSN:18809499)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.46-56, 2007-03-15 (Released:2020-03-11)
参考文献数
12

Im Rahmen der Diskussion um eine bürgernahe Stadtentwicklung wird im Japanischen häufig das Wort machizukuri verwendet. Wörtlich bedeutet es, eine Stadt/ eine Stadtteil/ eine Nachbarschaft zu kreieren, herzustellen. Es umfasst sowohl städtebauliche Maßnahmen für eine hohe Wohnqualität und ein attraktives Stadtbild als auch soziale Bereiche wie Kommunikation und Kooperation innerhalb der Nachbarschaft sowie zwischen Bürgern und Verwaltung. In diesem Beitrag werden Beispiele aus den deutschen Städten Freiburg, Heidelberg und Berlin vorgestellt, wo Bürger bereits im Planungsstadium an Stadtentwicklungsprojekten beteiligt werden oder sich in Form eines Quartiersmanagements in der Verbesserung des Wohnumfeldes engagieren. An hand dieser Beispiele werden Probleme und Möglichkeiten aktiven Bürgerengagements in der Stadtentwicklung analysiert, um daraus Hinweise für die zukünftige Gestaltung der Stadtentwicklung in Japan zu gewinnen.
著者
由井 義通
出版者
The Human Geographical Society of Japan
雑誌
人文地理 (ISSN:00187216)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.56-77, 1986-02-28 (Released:2009-04-28)
参考文献数
80
被引用文献数
6 1

High buildings can have a multiplicity of functions. Their role is increasing more and more in land use of the city region. Recently, because of rapid increase in residential buildings, the residential structure of the whole city is changing. Residence in condominiums and apartment houses is a new life style in Japan, because traditionally Japanese did not have a habit of dwelling in high-rise housing. The characteristics of residents in residential buildings vary in relation to housing occupancy, the quality of house and so on. The purpose of this study is to clarify the development process of condominiums and the characteristics of the residents in residential buildings. The results of this study are summarised as follows:1. In Hiroshima City, there are some areas around the city center in which population showed an increase in the period 1975-80. Because private developers constructed many condominiums in those areas, there was an increase in home-owning households in the neighbourhoods of city center. After 1978, new condominiums which were constructed by private developers are concentrated in a 1-2km zone from the city center. In the central city regions, many offices, stores, and parking lots were converted into condominiums. On the other hand, in marginal city areas many warehouses and housing estates were converted into condominiums. The location and quality of condominiums vary according to their developers.2. Using the 1970, 1975 and 1980 Population Census of Japan, it was found that the structure of age, household members and occupations of residents varies according to the kind of housing. So a kind of segregation appears. The characteristics of residents in condominiums, public housing and company housing for employees are different.In private housing, there are rental housing in which many younger households with a few members reside and resident-owned housing in which many middle-aged households with 3-4 members reside. Many of these residents are engaged in white collar occupations. In public housing, there are many elderly people, especially in older units which are located near the central city area. And the ratio of elderly people who rent old public housing is increasing. By contrast, in new public housing in the suburbs the residents tend to be younger. Many of the residents in public housing engage in blue collar occupations. Blue collar workers living in company-provided housing tend to be younger than the civil servants living in officially-provided housing.It is thought that the in crease in condominiums in the inner city is inducing gentrification because residents of condominiums are white collar workers with a high socioeconomic status.3. By obtaining information through questionnaires given to residents in 34 samples of condominiums which were selected randomly in the old city region of Hiroshima City, the characteristics of the residents were clarified.There is a tendency for people to decide to migrate in order to increase their living space or because of work transfers. When they purchase a new house, they think much about living space, the convenience of traffic, access to their work place and convenience of shopping rather than the overall environment of the neighbourhood. People generally relocate a short distance, but there are variations in this pattern according the age and district.As is mentioned above, it is thought that development of condominiums will play an even greater role in urban renewal in the near future. So it is important to analyze their development process and the characteristics of their residents.
著者
由井 義通
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.41, 2006

1.問題の所在経済のグローバル化の進展は,労働力の国際的な移動をもたらせた.企業活動は国際的に展開し,それに伴って駐在員として,あるいはその家族の随伴移動を生じさせながら海外勤務者が増加していることは容易に想像できる.また,近年では海外就職に内容を特化した就職情報誌が刊行されるなど,就職先として海外を選び,自らの意志で「海外で働く」ことを選択することが珍しくなくなっている.このような国際的な人口移動の内容に関しては,まだ十分な検討がなされているとはいえない.1994_から_95年に日本人の海外就職ブームが起こったとされるが,それはホンコンでの就職がマスコミなどで取り上げられたことで火がついた.当時,日本における深刻な景気後退に伴う就職の困難さも海外での就職に目を向けさせたといえる.また,海外の日系企業においても,駐在員を減らし,現地採用者への切り替えたりすることによってコスト削減を図るところが出てきた.しかしながら,海外就職は就労ビザ取得の制約が大きく作用するため,専門的技能や知識などをもった労働者しか就労ビザの発給をしない欧米諸国では就労することは困難である.そのような状況のなか,シンガポールでは4年制大学卒業者であれば比較的容易に就労ビザを取得することができるうえに,英語で仕事ができることや治安が良いことなど,海外就職希望者にとって好条件がそろっている.それに加えて,受け入れ側となる企業においても,東南アジア全体を統括するリージョナルセンターとして機能を拡張している日系企業やそれらとの取引の多い外資系企業が,日本語を話すことができる就業者を求めている.また,上記のような経済的背景とは違った観点から海外就職者に特徴的な現象を報告したThangほか( 2002, 2004)の先行研究がある.それらの研究では,シンガポールでは多くの日本人女性が就労の機会を得ており,彼女たちが海外就職を希望した理由が日本の雇用状況や就業における女性の地位のアンチテーゼ的な意味を持つことや,日本人女性にとって海外で働くことの意義,海外就職の際の求職活動などが詳細に報告されていた.海外勤務を求めて人材紹介会社に登録する日本人の約80%が女性で,彼女たちの大部分が人材紹介会社の求人情報を利用して求職活動をしていることから,本研究は,海外で働く日本人女性の就労と生活を明らかにする調査とリンクさせ,海外就職における人材紹介会社の役割に関する調査を実施した.本発表はその研究成果について報告する.2.研究方法人材紹介会社への聞き取り調査は,2006年2月に日本国内で海外への人材紹介をしているJ社本社,2006年3月と8月にシンガポールでC社,J社,P社,T社に実施した.上記の聞き取り対象の人材紹介会社は,日本商工会議所や日本シンガポール協会の紹介などを通したもので,シンガポール内では大手と中堅の日系人材紹介会社である.併せて人材紹介会社や研究グループの知人の紹介などによって,シンガポールで働く日本人女性に対してもインタビュー調査を行った.3.シンガポールの人材紹介会社日本国内の大手人材紹介会社の大部分は,シンガポールにオフィスを置いている.転職行動の盛んなシンガポールには現地資本や外資の人材紹介会社が数多くあるが,日系人材紹介会社は,シンガポールやその周辺国の日系企業や外資系企業への現地採用日本人社員の人材紹介,第二に日系企業の現地採用外国人(日本語の会話能力があるシンガポール人やマレーシアの中国系)を主たる業務としている.日本企業が人材紹介会社を通して人材を募るのは,人材選定の作業を人材紹介会社に任せることができるからである.なぜなら,人材募集の広告をシンガポールの新聞等で行う場合,多数の応募があるため,人材選定のスクーリングを人材紹介会社に依存せざるをえないからである.4.人材紹介会社の求人情報一部を除いて人材紹介会社の求人情報は,web上で公開されている.本研究では,J社のweb上に公開されている求人情報について国別に集計した結果,タイやインドネシアでは製造業の求職情報が大部分を占めるのに対して,シンガポールでは職種では営業職,IT関連のカスタマーサービスやSE,事務職,サービス業など多様な雇用があることが明らかとなった.
著者
由井 義通
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.28, 2004

1.インドにおける大都市の急成長インドではデリー,ムンバイ,チェンナイ,バンガロールなどの大都市がますます大都市化している。この原因として,1990年代以降の経済開放政策により,大都市圏に外国資本の投資が集中することがあげられているが,なかでも首都デリーには外国資本による投資が集中し,それによって雇用機会が増加し,都市人口の急増を引き起こしている。デリーは近年,製造業やサービス業,さらにオフィスなどが増加することによって,政治都市から経済都市・工業都市へと変貌しつつある。本発表の目的は,デリー大都市圏の都市化と都市計画を紹介し,インドの大都市開発の実態を報告することである。2.デリー大都市圏の都市計画_丸1_DDA(デリー開発公社)デリー市やインド政府はデリーの過大化防止策,デリー市内からの機能分散を目的として,1950年代の早い段階から法的根拠を持ったマスタープランの作成に着手した。それにより1957年にデリー開発法が制定され,デリー開発公社(DDA)が設立された。DDAは1962年にデリー・マスタープランを策定し,デリー大都市圏の都市計画に着手した。_丸2_NCRPB(首都地域計画局)デリー大都市圏のあまりにも急激な成長により,デリー大都市圏の整備をDDAにより行うことは困難となった。そこで,法令による首都地域計画局(National Capital Region Planning Board)が1985年に設立され,地域間のバランスがとれた開発をめざすこととなった。これは,デリーの拡大が近隣の三つの州にも及んでいるために,隣接州をも含めた首都圏地域の整備をはかるとともに,国家的計画として首都の都市計画と首都周辺地域の開発を図るものであった。3.デリー大都市圏における都市開発デリーの機能分散のために,近郊にノイダやグルガオンなどのDMAタウンを核として人口と産業の分散化が図られた。_丸1_ノイダデリーの東側に隣接するUP州ノイダは,NOIDA(New Okhla Development Authority)により1980年代から急速に開発が進んだ郊外ニュータウンである。マスタープランではデリーの旧市街地の中小工場と人口の郊外移転先として計画が立てられたが,外国資本との合弁による大規模工場が多数進出し,デリーから転入してきた郊外指向の中間層の受け皿となっているなど,自立的な都市開発とは異なった様相を呈している。_丸2_グルガオンハリヤナ州に属するグルガオンはデリーの南側に隣接し,デリー中心部からグルガオンへはNH8号線により結ばれ,その途中には国際空港があり,外国資本の立地には好条件となっている。グルガオンの開発はHUDA (Haryana Urban Development Authority) が主体となって行われている。HUDAは都市開発を目的として設立されたが,近年, HUDAがライセンスを与えた民間ディベロッパーに開発を委ねることによって,エージェンシー的な役割に変化している。一方,多数の村々が開発地域内には残されており,村は都市インフラ整備などから取り残されたものの,商業やサービス業などが発達し,アーバン・ビレッジへと変化している。4.大都市開発の問題点グルガオンとノイダの事例を通して,デリー大都市圏における都市開発はアーバンマネージャーとしての開発主体によって都市発展の様相の違いが大きいことが明らかとなった。公団が主体となって開発が進められているノイダは,資金不足から都市開発が遅れがちになり,インフラの維持管理が問題となっている。グルガオンでは,民間ディベロッパーの開発をコントロールすることができず,乱開発の一面もあることや個々の民間ディベロッパーが個別にインフラ整備を行うため,非効率であるなどの問題点もある。また,ノイダとグルガオンのいずれにも共通するが,経済のグローバリゼーションの影響を受けて経済格差が拡大し,開発地域内の居住者はデリーへの通勤者である富裕層や中間層に特化していることである。さらに,開発地域内に形成されたアーバン・ビレッジの整備が課題となっている。
著者
若林 芳樹 久木元 美琴 由井 義通
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2018年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.000165, 2018 (Released:2018-06-27)

2012年8月に成立した子ども・子育て関連3法に基づいて,子ども・子育て支援新制度(以下,「新制度」と略す)が2015年4月から本格施行された.これにより,市区町村が保育サービスを利用者へ現物給付するという従来の枠組みから,介護保険をモデルにした利用者と事業者の直接契約を基本とし,市区町村は保育の必要度に基づいて保育所利用の認定や保護者向けの給付金を支払う仕組みへと転換した.また,待機児童の受け皿を増やすために,保育所と幼稚園の機能を兼ねた認定こども園の増加や,小規模保育所や事業所内保育所などの「地域型保育」への公的助成の拡大が促進され,保育サービスのメニューも広がった(前田, 2017).しかしながら,こうした制度変更の影響について地理学的に検討を加えた例はまだみられない.そこで本研究は,新制度導入から3年目を迎えた現時点での保育サービス供給の変化と影響について,若林ほか(2012)がとりあげた沖縄県那覇市を中心に検討した. 新制度では,認可保育所などの大規模施設で実施される「施設型保育」に加えて,より小規模な「地域型保育」も公的補助の対象になった.このうち「施設型保育」については,認可保育所以外に認定こども園の拡充が図られている.2006年から幼児教育と保育を一体的に提供する施設として制度化された認定こども園は,制度や開設手続きの複雑さなどが原因となって普及があまり進んでいなかったが,新制度では幼保連携型認定こども園への移行を進める制度改正が行われた.その結果,2019年4月における保育の受け入れ枠の14%を認定こども園が占めるようになった. 一方,「地域型保育」には,小規模保育(定員6~19人)・家庭的保育(定員5人以下)・事業所内保育・居宅訪問型保育があり,主に0~2歳の低年齢児を対象としている.これらは,住宅やビルの一部を使って実施されるため,従来の認可保育所に比べて設備投資が小さくて済み,小規模でも公的補助が受けられる.そのため,用地の確保が困難なため認可保育所で低年齢児の定員枠の拡充が難しい大都市では,待機児童の受け皿となることが期待されている.この他にも保育士の配置などで認可基準が緩和され,公的補助のハードルが全体的に低くなっている.その中でも小規模保育は,新制度への移行後の保育枠の増加に大きく寄与している. 新制度に対応した那覇市の事業計画では,需要予測に基づいて2017年度末までに約2500人の保育枠を増やすことになっている.そのために,認可外保育所に施設整備や運営費を支援して認可保育所に移行させ,認定こども園や小規模保育施設を新設するとともに,並行して公立保育所の民営化を進めることになっている.工事の遅れや保育士不足などによって,必ずしも計画通りには進んでいないものの,地方都市では例外的に多かった同市の待機児童数は,2018年4月から1年間の減少幅では全国の自治体で最も大きかった.これは,保育所定員を2443人増やした効果とみられるが,依然として200人(2017年4月)の待機児童を抱えている. 新制度実施前の那覇市では,認可外保育所が待機児童の大きな受け皿となっていた(若林ほか, 2012).保育の受け入れ枠を拡大するには,それらの施設の活用が考えられるため,認可外保育所の代表者6名にグループインタビューを行ったところ,認可外保育所の対応は3つに分かれることがわかった.比較的大きな施設は,施設を拡充したり保育士を増やすなどして認可保育所への移行を図っているが,規模拡大が困難な施設は小規模保育として認可を受けるところもある.しかし,認可施設に移行すると既存の利用者の多様なニーズに柔軟に応えられなくなる恐れがあり,保育士の増員も困難なため,認可外にとどまる施設も少なくない. また,事業所内保育施設については,市が施設整備費補助制度を設けていることもあって増えている.そこで新規に認可を受けた事業所内保育所2施設に対して聞き取りを行った.A保育所は,都心からやや離れた場所にある地元資本のスーパー内の倉庫を改装して使用し,運営は県外の民間業者に委託している.利用者は事業所従業員と一般利用が半数ずつを占める.B保育所は,風営法により認可保育所が立地できない場所にある都心部のオフィスビルに1フロアを改装して新設されている.定員のうち従業者の利用は少なく,大部分は地域枠として募集しているが,入所待ちの児童もあるという.これらの小規模保育施設に共通することとして,2歳児までしか受け入れ枠がないため,3歳児から移行できる連携施設を近隣に確保するのが課題となっている.
著者
由井 義通 神谷 浩夫
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
pp.100036, 2016 (Released:2016-04-08)

1.  研究の背景と目的経済活動のグローバル化は,同時に多様な人材のグローバル化をもたらす。企業の海外進出は,本国から派遣する駐在員とともに,駐在員を支援するスタッフや彼らの生活を支援する飲食店などの各種サービスが必要となるため,企業の国際展開は,進出先に必要とされる人材を紹介する人材ビジネスの国際的展開も必然的に伴うのである(由井,2015)。日本人の海外就職者の大部分は,人材会社の就職情報をweb上で得ており,中澤(2012)によるシンガポールでの海外就職者へのインタビュー調査結果によると,日本人女性の海外就職者の大部分は,人材会社が提供するwebサイト上の就職情報を得て就職活動を行っていた。また,諸外国でもwebサイト上の人材情報が海外就職において重要な情報源の1つとなっている(Niles and Hanson 2003)。日本人女性の海外就職についてシンガポールとバンコクで調査した際に,人材会社について調査した結果,人材会社の求人情報では,いずれの都市においても男性の営業職やサービス職に求人が多かった。しかし,海外就職のために人材会社のwebサイトに登録するのは女性が多かった(Yui,2009, 由井,2015)。そこで,海外就職に重要な役割を果たしている人材会社について,人材を募集する企業が求める人材の特徴を明らかにし,また海外就職者の特徴を把握することを目的として,人材紹介会社への聞き取り調査を行った。2.    ドイツにおける在留邦人数と日系企業数 本研究は調査対象地域をドイツのデュッセルドルフとフランクフルトとした。ドイツを研究対象とした理由は,外務省の「海外進出日系企業実態調査」(2015)の結果,平成26年10月1日時点で海外に進出している日系企業の総数(拠点数)は,国別でみると中国3万2,667拠点(約48%),アメリカ合衆国(約11%),インド(約5.7%),インドネシア(約2.6%),ドイツ1,684拠点(約2.5%),タイ(約2.4%)となっており,ドイツはヨーロッパで最多の日系企業の進出先で,それに伴って日本人の就職者が多い国となっていたからである。ドイツ国内で日系企業の拠点は,ミュンヘン総領事館に677拠点,デュッセルドルフ総領事館に570拠点,フランクフルト総領事館に242拠点だが,日本に本社を置く日系企業162社のうち,デュッセルドルフには63社,フランクフルト35社,ミュンヘン31社で,日本から派遣される駐在員はデュッセルドルフに多い。3.    ドイツにおける日本人向け人材会社の概要ドイツにおいて日本人を対象とした人材紹介を行っている人材会社は5社の独占状態にあり,そのうち1社は管理職クラスのヘッドハンティングを中心業務とし,4社は日系企業や日本との取引を行う現地企業に現地採用者を紹介する業務を行っている。5社はいずれもデュッセルドルフもしくはフランクフルトに本社を置き,創業は2002~2009年で比較的新しい会社である。それぞれの人材会社の顧客に占める日系企業の割合は95~100%で,紹介実績では日系企業に日本人を紹介するのを主とする人材会社が2社,日系企業に日本人とドイツ人を紹介するのが半々となっている人材会社が2社,日系企業にドイツ人を紹介するのを主としている人材会社が1社であった。
著者
由井 義通
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2015, 2015

<b>I</b><b> 郊外開発の進展と郊外研究</b> <br>高度経済成長期以降、大都市圏郊外地域で活発に開発された住宅団地を対象とした地理学研究は開発行為に対する研究から、居住者の変容などの研究へと比重を移している(福原;1998,由井;1998,中澤ほか;2008)。本発表では,開発時期の古い郊外住宅団地における高齢化とそれに付随したさまざまな問題が表出している今日において,住宅研究の観点から都市地理学研究を振り返り,その社会貢献について再検討したい。 <b><br>Ⅱ 衰退する郊外空間</b> <b><br>1.深刻化する高齢化</b> <br>郊外住宅は「住宅双六のあがり」となる「終の棲家」と考えられ,「人生の最初で最後の高額の買い物」となることが多い。郊外住宅地において供給された住宅は、30代から40代の夫婦と子どもからなる核家族向けの住宅が大部分であり,間取りもほぼ同様で等質的な入居者に偏り、隣近所が皆同じ世代というように等質性の高いコミュニティになりがちである。30年以上経過すると居住者は加齢して高齢者となり、子どもたちの独立によって急激に人口が減少し、高齢夫婦のみが住み続ける過疎地域のような人口ピラミッドとなっている(由井ほか,2014)。 <b><br>2.</b><b>空き家の発生</b> <br>大都市郊外の住宅団地では,中古住宅の需要もあるので不動産市場で郊外住宅の取引も多く,必ずしもすべてが空き家とはならない。しかし,地方都市の郊外住宅団地のなかには公共交通機関や生活利便施設への利便性が十分ではないものも数多くあり,中古住宅として売りに出されたとしても購入者がなかなか見つからなかったり,所有者自身が売れないと判断して放置しておくために長期間にわたって空き家となることが多い。 それ以上に,居住者の高齢化と子ども世代の転出によって,郊外第一世代の死去や高齢者介護施設への入院などを契機として,郊外住宅地において空き家が大量に発生している。 <br> <b>3.</b><b>デッドストックと負の不動産</b><br>住宅団地には、空き家や空き地が数多く分布している。大部分の空き地は、売れ残りによるものではなく、売却済みの土地であるにもかかわらず住宅が建築されなかったものである。その理由は、土地購入者が将来的にそこに住む予定であったが、定年退職した時にはそこへ移動してこなかった土地であったり、土地購入者が自分の子どものために土地を購入したものの、子どもの世帯が移動してこなかった場合であったり、最初から投機目的で購入した場合など、さまざまな理由で空き地として継続していた。これらの土地は流通されることもなく、今後の売却も極めて難しい状況にあり、いわばデッドストック状態の土地であるといえる。郊外住宅地の住宅や住宅・土地の不動産価格はほとんど上昇しておらず、むしろ大幅な値下がりとなっており、住宅の維持費や固定資産税を考えると所有するだけでそのコストが販売価格を上回る「負の『不動産』」となっている。 <b><br>Ⅲ 郊外活性化への取り組み</b> <br>高齢化が進行する郊外住宅地において、空き家対策や住宅団地の活性化として住民やNPOによるさまざまな取り組みが行われており、広島県では、行政や関係団体と協力し、公有地や空き家情報、定住促進事業を紹介する「空き家バンク」(http://akiya-bank.fudohsan.jp/)が2014年11月に設置され、空き家解消のための住宅流通の活性化が図られている。 郊外地域の活性化について,都市地理学としては都市計画や都市政策の問題を指摘するとともに,地理学の社会貢献として関与できることが望まれる。