- 著者
-
麻生 将
- 出版者
- 公益社団法人 日本地理学会
- 雑誌
- 日本地理学会発表要旨集
- 巻号頁・発行日
- vol.2015, 2015
<b> </b>本報告では、国指定文化財となっているキリスト教関連施設の観光地化の可能性について、都道府県ごとの立地係数を求めて検討を試みた。その理由は以下のとおりである。<br> 1. キリスト教関連施設を含むある施設や場所は、文化財指定を受けることが観光地化のアドヴァンテージになる可能性が考えられるため。 <br> 2. 文化財指定を受ける際、当該施設または事物の真正性や文化的・歴史的な価値が重要な要素となるが、それは観光地化の主要な要素でもあるため。 <br> 3. キリスト教関連施設の観光に関する統一的な統計資料がほとんど存在しないため。 <br><b></b> 本報告では2014年9月時点での国宝・重文・登録の各有形文化財(建造物)を対象とする。その中でキリスト教関連施設は159件に上ることが明らかになった。内訳は国宝が1件、重要文化財が26件、登録文化財が132件となっている。重要文化財の半数に当たる13件が長崎県に存在するが、これらは幕末から明治・大正期にかけて建設されたカトリック教会の建物である。また、登録文化財が10件以上の都府県は東京都、愛知県、滋賀県、京都府であるが、このうち愛知県については、犬山市の明治村に全国各地から移築された近代期のキリスト教関連施設が存在するためである。滋賀県については、近江兄弟社を設立したヴォーリズによって設計された複数のキリスト教関連施設が指定されたことも大きく関係すると考えられる。なお、東京都と京都府については、ミッションスクールの複数の校舎が登録文化財指定を受けたため、このような件数となった。 <br> 国指定文化財のキリスト教関連施設の立地係数を都道府県ごとに求めて地図化した結果、幕末から明治前期の比較的早い時期にキリスト教が伝わった都道府県で立地係数が2.0以上と高い値を示していることが明らかになった。こうした都道府県では現在もキリスト教関連施設が観光地として観光ガイドなどでも紹介されることが多い。他方、立地係数が低い(0~0.5)複数の県では明治期にキリスト教への排撃運動がたびたび見られたが、こうした歴史的経緯も現在のキリスト教関連施設の観光地化の状況を規定する要因の一つと考えられる。すなわち、立地係数による観光地化の可能性の検討を通して、地域の近代化または近代史に関わる社会的・文化的文脈を捉える材料の一つとなり得る。<br> キリスト教関連施設の観光地化の指標として、国指定文化財の立地係数がある程度有効であることと、立地係数が地域の近代化の歴史的背景や社会的文脈を読み解く際の指標としても少なからず有用であることが確認された。今後はデータのより精密な分析とともに、本発表で用いたデータを活用して都道府県ごとのキリスト教関連施設の観光地化の調査を進めていきたい。また、国指定のみならず各都道府県によって文化財指定を受けたキリスト教関連施設の調査・検討も行っていきたい。 <br>(参考文献)<br> 麻生将2015.現代日本におけるキリスト教関連施設の分布状況と観光地化の可能性に関する試論.立命館大学地理学教室編『観光の地理学』259-280. 文理閣. <br> 福本拓2004.1920年代から1950年代初頭の大阪市における在日朝鮮人集住地の変遷. 人文地理56-2:42-57. <br> 松井圭介2012. ヘリテージ化される聖地と場所の商品化.山中弘編『宗教とツーリズム―聖なるものの変容と持続―』192-214. 世界思想社.