著者
児玉 恵理
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2015, 2015

<b>1.はじめに</b><br><br>人口の減少や高齢化が進む中、市街化区域における都市農業への住民の評価が高まっている。市民農園では農業との触れ合いが求められ、農業ボランティアでは農家との交流を求める都市住民のニーズがある。それと同時に、都市農地の保全と都市農業の維持の機能が期待されている。埼玉県志木市では、小規模な都市農業が行われている。本研究の目的は、都市農業における生産者の役割に着目することで、持続可能な農産物供給機能の向上、担い手の育成・確保の仕組みを明らかにすることである。<br><br><b>2.志木市における都市農業の展開</b><br><br>JAあさか野によると、志木市は、もともと水稲が盛んな地域であった。稲作中心の宗岡地区では、荒川沿いの水田を中心にコシヒカリの早場米の生産を行っている。約20戸の米農家が「宗岡はるか舞」というブランド米を有機栽培し、出荷している。露地野菜中心の志木地区は、ホウレンソウ、にんじん、大根、キャベツ、里芋などの生産が盛んである。<br><br>農家の高齢化や後継者不足の問題から志木市役所が市民農園を整備し、市民が農業と関わりをもつようになっている。また、志木市役所で毎月第4土曜日に「しきの土曜市」が開催され、地元の農産物を販売する取り組みがある。<br><br><b>3.ボラバイトを活用した労働力確保</b><br><br>志木市のA農園は、ボラバイトを活用した労働者の確保をしている。ボラバイトとはボランティアとアルバイ<br><br>トの中間形態とした造語であり、今回は張り合いのあるボランティアの意味とする。ボラバイトを行う人々をボラバイターと呼び、ボラバイターは外国人実習生の代わりとなる重要な農業労働力である。<br><br>志木市のA農園は、無農薬野菜を近隣のスーパーや志木市役所で開催される「しきの土曜市」で地産地消を行い、あわせて有機野菜専門の宅配業者に出荷している。特に近隣のスーパーではA農園専用コーナーが設置されており、生産者が直接出荷・陳列することから「顔の見える」農業を自ら実践する。収穫・出荷・スーパー等での陳列を分担し、携帯電話で随時連絡を取り合うことで無駄の出ないように柔軟に農作業をしている。<br><br>家族経営だけでは、約20種類の無農薬野菜の栽培が困難になり、人手が必要になる。融通が利く都市住民をボラバイターとして農業に巻き込むことができる。A農園は、埼玉県か東京都在住で日帰りのボラバイターに手伝ってもらうことで、高品質で無農薬野菜を栽培することで農産物ブランド化を進めている。<br><br><b>4.おわりに</b><br><br>志木市は、宅地化が進む地域でありながら、行政が主体となり、生産者の販路拡大の手助けを行っている。地産地消を促すために、「しきの土曜市」という朝市や「アグリシップしき」という、年に2回開催の農産物直売所が志木市によって企画・運営されている。また、ボラバイトやシルバー人材を活用して、非農家出身者が農業に携わる機会がある。志木市における都市農業生産者は、新鮮な農産物の供給と農業体験の場の提供の役割を果たしているといえる。

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