著者
水津 嘉克 佐藤 恵
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.66, no.4, pp.534-551, 2015

<p>「犯罪被害者遺族」「自死遺族」が現代の社会において直面せざるをえない困難性について, 論じることが本稿の課題である. 一見まったく異なった存在であると認識されている両者が直面せざるをえない, しかし他の遺族とは異なる「生きづらさ」とはどのようなものなのか. まずは素朴に彼らがどのような存在なのかを数的データで確認する. 数値が示す内容とは裏腹に, そうした犯罪や自死によって生み出される「犯罪被害者遺族」「自死遺族」の存在についてわれわれはあまりに知らない. このように「犯罪被害者遺族」「自死遺族」が毎年一定数確実に生じているにもかかわらず, その存在が顕在化することのない社会を本稿では「生きづらさを生き埋めにする社会」とする. そうした社会は彼らを「曖昧な包摂」のもとに置く社会である. そこでの当事者にとっての「現実」とは, 「自責の念」「親密な人びととの問題」「死別を受け入れることの困難性」としてとらえられるだろう. そしてこれらの「現実」は, 社会 (世間) にとっての「現実」とのあいだに大きな乖離を生ぜしめることになるのである. このようなリアリティの乖離は, 相互作用場面において彼らをダブルバインド的状況に追いやることになり, その結果, 彼らは「沈黙」を選択せざるをえないという「生きづらさ」を抱えることになる. 彼らが他の遺族とは異なるかたちで直面せざるをえない困難性がここに日々再生産される結果となる.</p>

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