著者
伊藤 康貴
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.66, no.4, pp.480-497, 2015

<p>本稿では, 「ひきこもり当事者」が他者と「親密に」付き合っていく際に立ちあらわれる「関係的な生きづらさ」を考察する. そのための課題として, 第1に, 当事者の語る親密な関係がどのような規範によって支えられているのかを考察する. そして第2に, この親密な関係を規定する規範と, 経験や欲望といった「個人的なもの」とが, いかにして人々の行為を拘束しているのかを分析する.</p><p>第1の課題に対し, 当事者のセクシュアリティを中心とした語りを通して, そこに潜む性規範を明らかにした. 社会の側にホモソーシャリティを要請する規範があるとき, 社会の側に合わせようとする当事者はミソジニーを内面化せざるをえず, 結果的に自らの「性的挫折」を「ひきこもり」の経験と関連づけて語らしめた (3.1). ゆえに性規範への逸脱/適応の「証」は当事者の自己物語にとって重大な契機となっている (3.2).</p><p>第2の課題に対し, 一見「性」から離れているように見える親密な関係の語りも, 実は性規範を中心とした親密な関係を規定する規範に支えられ, 個人的で相容れない志向性をもつ経験や欲望と互いに絡み合いながら当事者を拘束し, 関係的な生きづらさを語らしめていること (4.1), 「社会復帰」への戦略にも性規範が組み込まれているが, 当事者の親密な関係における課題は他者とは共有されずに, 結果的に個人の問題とされ続けていること (4.2) を明らかにした.</p>

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