著者
水野 一晴
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2017, 2017

<b>1.ケニア山における温暖化による氷河縮小と植生遷移</b><br> ケニア山のティンダル氷河の後退速度は、1958-1996年には約3m/年、1997-2002年は約10m/年、2002-2006年は約15m/年、2006-2011年は約8m/年、2011-2016年は約11m/年であった。その氷河の後を追うように、先駆的植物種4種は、それぞれの植物分布の最前線を氷河の後退速度と類似する速度で斜面上方に拡大させている。とくに、氷河が溶けた場所に最初に生育できる第一の先駆種<i>Senecio keniophytum</i>は、1996年に氷河末端に接して設置した方形区(幅80mx長さ20m)での個体数と植被率がともに、15年後の2011年には大幅に増加していた。また、1996年には方形区内の生育種は1種のみであったが、2011年には4種に増えていた。ケニア山山麓(高度1890m地点)の気温は1963年から2010年までの47年間で2℃以上上昇している。一方、過去50年間の顕著な降水量の減少はなく、ケニア山の氷河縮小はおもに温暖化が原因と考えられる。<br> 2006年までティンダル・ターン(池)の北端より斜面上方には生育していなかったムギワラギクの仲間<i>Helichrysum citrispinum</i>が、2009年にはティンダル・ターン北端より上方の、ラテラルモレーン上に32株が分布していた。これは、近年の氷河後退にともなう植物分布の前進ではなく、気温上昇による植物分布の高標高への拡大と推定される。 また、大型の半木本性ロゼット型植物であるジャイアント・セネシオ(<i>Senecio keniodendron</i>)は1958-1997年には分布が斜面上方に拡大するという傾向は見られなかったが、1997-2011年には拡大して、山の斜面を登っている。この種は氷河後退が直接遷移に関係しているとは考えられないが、先駆種の斜面上方への拡大による土壌条件の改善と温暖化がジャイアント・セネシオの生育環境を斜面上方に拡大させていると考えられる。<br><b>2.ケニア山の自然保護</b><br> ケニアには国立公園の野生動物を守るための政府の一機関であるケニア野生動物公社KWS(Kenya Wildlife Service)がある。KWSはケニア山国立公園に対し、他のサファリパークとなっている国立公園(ex. アンボセリ国立公園)や国立保護区(ex. マサイマラ国立保護区)ほど環境管理に力を入れていない。何カ所かあった無人小屋をすべて取り壊して環境対策をしている一方、キャンプサイトにトイレの設置がない場所が少なくなく、環境悪化につながっている。 ケニア山では過去何度も、登山者による失火や密猟者による放火によって、広範囲に樹木が消失した。故意による失火に対しては厳重に罰せられる。近年、放火した密猟者は発見され次第、即座にKWSによって射殺された。<br><b>3.温暖化とキリマンジャロの氷河縮小</b><br> キリマンジャロの氷河は急速に縮小している。氷河の縮小はキリマンジャロ山麓の水環境にも影響を及ぼし、山麓の生態系や住民生活にも影響が及ぶことが考えられる。<br>

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