著者
杉浦 和子 水野 一晴 松田 素二 木津 祐子 池田 巧
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

1.白須淨眞氏を講師として招き、20世紀初頭のチベットをめぐる緊迫した国際情勢と大谷光瑞とヘディンの関係についての研究会を開催した。ヘディンのチベット探検に対して、大谷光瑞が政治的・財政的な支援を行ったこと、ヘディンの日本訪問には大谷光瑞へ謝意を伝える意味があったことを確認できた。2.チベットでの撮影を写真家に委託した。第3回探検でヘディンが踏査したルートの文物、風俗、風景、建造物等を撮影してもらった写真家を講師として招き、画像上映と現地の状況説明を聴くための研究会を開催した。1世紀の時間を隔てて、変化したチベットと変わらないチベットの諸要素を確認した。3.公開国際シンポジウム「近代日本における学術と芸術の邂逅―ヘディンのチベット探検と京都帝国大学訪問―」(京都大学大学院文学研究科主催)を開催した。6人による報告を通じて、ヘディンの多面的な才能、チベットという地への好奇心、絵という視覚的な媒体といった要素が相まって、学術や芸術のさまざまな分野を超えた出会いと活発な交流を刺激したことが明らかにされた。シンポジウムには学内外から80名を超える参加があった。4.展覧会『20世紀初頭、京都における科学と人文学と芸術の邂逅―スウェン・ヘディンがチベットで描いた絵と京都帝国大学文科大学に残された遺産』(文学研究科主催、スウェーデン大使館後援)を開催し、2週間の会期中、2100名を超える来場者があった。新聞4紙でも紹介され、近代日本におけるヘディン来訪の意義を伝えることができた。会期中、関連の講演会を開催し、40名を超える聴衆が参加した。5.報告書と図録の刊行に向けて、論文執筆や解説等、準備を進めた。
著者
水野 一晴
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.377-385, 2018 (Released:2018-06-12)
参考文献数
6
著者
水野 一晴
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.57, no.6, pp.384-402, 1984-06-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
19
被引用文献数
4 5

赤石山脈の高山帯一亜高山帯には,いわゆる「お花畑」が広く分布している.この「お花畑」の成立条件を明らかにするために,地形,標高,風,積雪量などの環境因子を検討した.その結果,「お花畑」の分布や群落組成は,6種類の地形タイプによって大きく規定されており,それぞれの地形タイプに対応した6つの「お花畑」の立地環境型が存在することが明らかになった.各立地環境型は異なった環境因子の組み合わせからなっており,それが「お花畑」の性格を規定している. 6つの立地環境型は次のとおりである. (I) 亜高山帯風背緩斜面型, (II) 高山帯凹型風背急斜面型, (III) 大規模線状凹地(二重山稜)型, (IV) 小規模線状凹地型, (V) 沢沿い斜面型, (VI) 雪窪型.
著者
水野 一晴
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2008年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.134, 2008 (Released:2008-07-19)

インドのアルナチャル・プラデシュ州(アッサム・ヒマラヤ)は、ブータンと中国・チベットとの国境に近く、22-24のチベット系民族(細分化すれば51民族)の住む地域である。長らくインドと中国の国境紛争が続き(現在でも中国の地図では中国領)、最近まで外国人の入国が禁止されていたため、未知の部分が多く、神秘的な領域である。現在外国人が入域をするためには、国と州の入域許可書が必要で10日間以内の滞在が認められる。今回は2007年7月の予備調査、とくにディラン・ゾーン地域の自然と人間活動について報告を行う。 1. 地形と土地利用:住居や農地の多くは、地滑り斜面と崖錐斜面に立地している。それらの地形はその形状と堆積物から住居と農地の立地に有利であると考えられる。 2. 森林利用:農地の肥料は樹木の落葉のみが利用されるため、落葉は住民にとって重要な財産になっている。森林は森林保護地域と非保護地域に区分され、それぞれ住民による利用の仕方が異なる。また、土地の所有者、同一クランの者とそれ以外の者では落葉の利用権が異なる。 3. 農業:農耕は標高2400m以下(稲作は標高1700m以下)、牧畜(ヤク)は標高2000m以上で行われている。放牧地は樹木を人為的に毒で枯死させてつくられ、そこではバターやチーズが現金収入になっている。 4. 住民の定着と農耕の起源:同じアルナチャル・プラデシュ州のジロ地域では、各所の露頭でみられる埋没腐植層の14Cの年代から、2000年前頃には人が定着し、500年前頃には焼畑が盛んであったことが推測される。ディラン・ゾーン地域の水田下から発見された埋没木の年代は、14C濃度から1957年-1961年のものと推測されるが、今後さらに埋没木や埋没腐植層を探し、タワン-ディラン・ゾーン地域で農地が拡大した時代を明らかにしていきたい。
著者
水野 一晴 中村 俊夫
出版者
Tokyo Geographical Society
雑誌
地学雑誌 (ISSN:0022135X)
巻号頁・発行日
vol.108, no.1, pp.18-30, 1999-02-25 (Released:2009-11-12)
参考文献数
47
被引用文献数
2 2

Leopard's remains were discovered at Tyndall Glacier on Mt. Kenya in 1997. The radiocarbon dates of ca. 900 ± 100 yrs BP correspond to the shift from a warm period to a cool period and the age of the Tyndall Moraine. The leopard was probably not exposed from the ice of the Tyndall Glacier judging from the condition of the remains. The discovery of the leopard's remains in 1997 is consistent with the climatic change from a cool period which continued until the 19th century to warm period in the 20 century.The succession of alpine vegetation around Tyndall Glacier can be clarified from the conditions of glacial margins and moraines (Lewis Moraine : ca. 100 yrs BP, Tyndall Moraine : ca. 900-500 yrs BP). The Tyndall Glacier on Mt. Kenya retreated at a steady rate from the late 1950 s to 1996. The first colonist species over the new till, Senecio keniophytum, advanced at a rate similar to the retreat of the glacier. The species growing near the ice-front of Tyndall Glacier colonized in tandem with the retreat of the glacier. Till age and stability of land surface are important environmental factors controlling the vegetation pattern around Tyndall Glacier. The pioneer species make humus which results in an improved soil condition. About 70 to 100 yrs elapse from the glacial release before such large woody plants as Senecio keniodendron and Lobelia telekii grow on the glacier foreland.
著者
水野 一晴
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.134, 2008

<BR> インドのアルナチャル・プラデシュ州(アッサム・ヒマラヤ)は、ブータンと中国・チベットとの国境に近く、22-24のチベット系民族(細分化すれば51民族)の住む地域である。長らくインドと中国の国境紛争が続き(現在でも中国の地図では中国領)、最近まで外国人の入国が禁止されていたため、未知の部分が多く、神秘的な領域である。現在外国人が入域をするためには、国と州の入域許可書が必要で10日間以内の滞在が認められる。今回は2007年7月の予備調査、とくにディラン・ゾーン地域の自然と人間活動について報告を行う。<BR> 1. 地形と土地利用:住居や農地の多くは、地滑り斜面と崖錐斜面に立地している。それらの地形はその形状と堆積物から住居と農地の立地に有利であると考えられる。<BR> 2. 森林利用:農地の肥料は樹木の落葉のみが利用されるため、落葉は住民にとって重要な財産になっている。森林は森林保護地域と非保護地域に区分され、それぞれ住民による利用の仕方が異なる。また、土地の所有者、同一クランの者とそれ以外の者では落葉の利用権が異なる。<BR> 3. 農業:農耕は標高2400m以下(稲作は標高1700m以下)、牧畜(ヤク)は標高2000m以上で行われている。放牧地は樹木を人為的に毒で枯死させてつくられ、そこではバターやチーズが現金収入になっている。<BR> 4. 住民の定着と農耕の起源:同じアルナチャル・プラデシュ州のジロ地域では、各所の露頭でみられる埋没腐植層の<SUP>14</SUP>Cの年代から、2000年前頃には人が定着し、500年前頃には焼畑が盛んであったことが推測される。ディラン・ゾーン地域の水田下から発見された埋没木の年代は、<SUP>14</SUP>C濃度から1957年-1961年のものと推測されるが、今後さらに埋没木や埋没腐植層を探し、タワン-ディラン・ゾーン地域で農地が拡大した時代を明らかにしていきたい。
著者
水野 一晴
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2020, 2020

<p><b>1</b><b>.京都大学自然地理研究会の発足とその目的</b></p><p></p><p> 京都大学に自然地理研究会が発足したのは2001年4月である。演者が1997年より京都大学の全学共通科目(一般教養)にて自然地理学の授業を担当すると、次第に、自然地理学を京大で学べる場を作って欲しいという要望を受けるようになってきた。当時、文学部と総合人間学部に地理学教室があったものの、教員がすべて人文地理学の教員であったため、とくに学部生が自然地理学を学べる場が一般教養以外になかった。その当時、演者は大学院アジア・アフリカ地域研究研究科の教員であった。自然地理学はとくにフィールドワークを重要視しているため、野外実習を行う場を設けるために、自然地理研究会を発足させることにした。会員制ではなく、登録をすると毎回案内が送られ、参加したいときだけ参加するという緩い組織である。参加資格に制限はなく、他大学や一般社会人の参加もある。計画は7〜8人からなる世話人を中心として、すべて学生が行い、演者は相談にのったり、参加するだけである。</p><p></p><p><b>2. 自然地理研究会の活動</b></p><p></p><p>自然地理研究会は、毎年春から夏まではほぼ毎月、秋〜冬は数ヶ月に1回程度、野外実習を実施してきた。2001年4月から始めたので、今年で20年目になる。当初は自然地理学に関する実習を中心に行っていたが、しだいに、実習の場所が決まると、そこでの自然地理学と人文地理学の両面から実習を行うことが多くなってきた。</p><p></p><p>コロナ汚染の影響でしばらく活動を自粛していたが、2020年7月に、第144回 自然地理研究会「琵琶湖疎水の歴史と周辺の地形」の実習を行った。琵琶湖疎水取水口と三井寺にて、疎水の成り立ちや琵琶湖周辺の地形について、インクラインと南禅寺にて、京都市の近代化について、琵琶湖疎水記念館にて、疎水の歴史を、主に世話人からなる数人の案内者の解説とともに現場で観察しながら学んだ。</p><p></p><p><b>3. </b><b>自然地理研究会の活動例(2016〜2019年度)</b></p><p></p><p><b>2019</b><b>年度</b>:「愛宕山の歴史と自然」「下鴨・上賀茂神社の社叢林:植生観察と都市緑地としての役割」「賤ヶ岳・余呉湖周辺の自然と歴史」「京大周辺の自然観察:大文字山と東山連峰」</p><p></p><p><b>2018</b><b>年度</b>:「京都御苑での冬の野鳥観察」「中池見湿地に生育・生息する動植物」「保津峡の入口と出口における歴史的・地質的観点からの考察」「京大周辺の自然観察:比叡山の地形・植生」</p><p></p><p><b>2017</b><b>年度</b>:「晩冬の京都で観られる季節の野鳥と植物の観察:方法と実践」「奈良盆地の形成と里山の棚田景観-古代の都・明日香村探訪-」「桂川の地形の観察と巨椋池の歴史」「京都で観られる季節の野鳥と植物の観察:方法と実践」「京大周辺の自然観察:大文字山と東山連峰」</p><p></p><p><b>2016</b><b>年度</b>:「自然地理研究会第100回記念〜白浜巡検〜」「海にせりでた伊根の舟屋集落とその成立要因」「都市大阪・凸凹地形散歩」「西の湖一周でわかる内湖とヨシ原の環境」「京大周辺の自然観察:比叡山の地形・植生」「京都:身近な京都の自然・文化・歴史をみる、きく、あるく」</p><p></p><p>写真:第144回 自然地理研究会「琵琶湖疎水の歴史と周辺の地形」(2020年7月撮影)</p><p></p><p>研究会のURL: http://jambo.africa.kyoto-u.ac.jp/cgi-bin/spg/wiki.cgi</p>
著者
水野 一晴
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.127-153, 1990-03-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
28
被引用文献数
4

カール内の植物群落は,地形,微気象(消雪時期,受光量,風など),地表面構成物質の性状と安定性など多くの環境要因の相互作用を受けて成立している.群落の空間的分布に対し,地形はこれらの要因の中でもっとも主導的な役割りを果たしている.地形と植生の間には次のような関係がある.1)カール内では,多くの地形がある程度定まった位置に形成されている.このため,カール内では地形の形態(凹凸)とその地形が一般に形成される位置(斜面方向)によって,消雪時期が特定化され,消雪時期の差が植物の生育期間や嫌雪性などの要因を通して群落の分布に影響を及ぼす.したがって,地形によって分布する群落が限られる.2)ただし,崖錐のように,形成される場所が不定の地形の場合,その地形の斜面の向きや場所によって風の強さや受光量に差が生じ,その結果,消雪時期,ひいては植生が多様になる.3)地形が消雪時期-植生に及ぼす影響については,(a)その形態(凹凸)がとくに重要な場合と,(b)その地形の占める位置(斜面方向)がとくに重要な場合があるが,(a)の場合は凹型・凸型斜面,(b)の場合は平滑斜面であるのが一般的である.4)地形は地表面構成物質の分布と性状に影響を及ぼし,この違いが土壌水分や地表の安定度などの要因を通して,群落の分布に影響を及ぼす.
著者
水野 一晴
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2017, 2017

<b>1.ケニア山における温暖化による氷河縮小と植生遷移</b><br> ケニア山のティンダル氷河の後退速度は、1958-1996年には約3m/年、1997-2002年は約10m/年、2002-2006年は約15m/年、2006-2011年は約8m/年、2011-2016年は約11m/年であった。その氷河の後を追うように、先駆的植物種4種は、それぞれの植物分布の最前線を氷河の後退速度と類似する速度で斜面上方に拡大させている。とくに、氷河が溶けた場所に最初に生育できる第一の先駆種<i>Senecio keniophytum</i>は、1996年に氷河末端に接して設置した方形区(幅80mx長さ20m)での個体数と植被率がともに、15年後の2011年には大幅に増加していた。また、1996年には方形区内の生育種は1種のみであったが、2011年には4種に増えていた。ケニア山山麓(高度1890m地点)の気温は1963年から2010年までの47年間で2℃以上上昇している。一方、過去50年間の顕著な降水量の減少はなく、ケニア山の氷河縮小はおもに温暖化が原因と考えられる。<br> 2006年までティンダル・ターン(池)の北端より斜面上方には生育していなかったムギワラギクの仲間<i>Helichrysum citrispinum</i>が、2009年にはティンダル・ターン北端より上方の、ラテラルモレーン上に32株が分布していた。これは、近年の氷河後退にともなう植物分布の前進ではなく、気温上昇による植物分布の高標高への拡大と推定される。 また、大型の半木本性ロゼット型植物であるジャイアント・セネシオ(<i>Senecio keniodendron</i>)は1958-1997年には分布が斜面上方に拡大するという傾向は見られなかったが、1997-2011年には拡大して、山の斜面を登っている。この種は氷河後退が直接遷移に関係しているとは考えられないが、先駆種の斜面上方への拡大による土壌条件の改善と温暖化がジャイアント・セネシオの生育環境を斜面上方に拡大させていると考えられる。<br><b>2.ケニア山の自然保護</b><br> ケニアには国立公園の野生動物を守るための政府の一機関であるケニア野生動物公社KWS(Kenya Wildlife Service)がある。KWSはケニア山国立公園に対し、他のサファリパークとなっている国立公園(ex. アンボセリ国立公園)や国立保護区(ex. マサイマラ国立保護区)ほど環境管理に力を入れていない。何カ所かあった無人小屋をすべて取り壊して環境対策をしている一方、キャンプサイトにトイレの設置がない場所が少なくなく、環境悪化につながっている。 ケニア山では過去何度も、登山者による失火や密猟者による放火によって、広範囲に樹木が消失した。故意による失火に対しては厳重に罰せられる。近年、放火した密猟者は発見され次第、即座にKWSによって射殺された。<br><b>3.温暖化とキリマンジャロの氷河縮小</b><br> キリマンジャロの氷河は急速に縮小している。氷河の縮小はキリマンジャロ山麓の水環境にも影響を及ぼし、山麓の生態系や住民生活にも影響が及ぶことが考えられる。<br>
著者
長谷川 裕彦 高橋 伸幸 山縣 耕太郎 水野 一晴
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2013, 2013

ボリビアアンデス,チャルキニ峰西カールにおいて地形調査を実施した。その結果,先行研究により明らかにされていたM1~M10の小氷期堆石の分布を追認し,M10以降に形成されたM11・M12・M13の分布を確認した。M13の形成期は,構成層の特徴などから1980年代の初頭であると考えられる。
著者
高橋 伸幸 水野 一晴
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2014, 2014

<u>1.</u><u>はじめに</u>&nbsp; 低緯度高山帯でも氷河の後退・縮小は進んでおり、氷河から解放された地域には植生の侵入・拡大がみられる。また、氷河からの解放後、周氷河環境下に置かれることから、植生の侵入・拡大過程を考える上で、周氷河環境を考慮する必要がある。本研究では、南米ボリビアアンデスのレアル山脈に位置するチャルキニ峰西カール、南カール、ワイナポトシ南斜面などにおいて周氷河現象の観察、気温・地温測定を行い、低緯度高山帯における周氷河環境の一端を明らかにした。<br><u>2.</u><u>調査地</u>&nbsp; ボリビアの首都ラパスの北方約25kmに位置するチャルキニ峰(標高5392m)の西カールおよび南カールが主な調査地である。チャルキニ峰でも氷河の後退が認められるが、南斜面と北斜面には現在でも顕著な氷河が残されている。一方、西斜面では、カール壁基部にわずかに氷河が残されているのみである。また、西カール内と南カール内には完新世の氷河後退に伴って形成された複数のモレーンがみられる。チャルキニ峰周辺の地質は、主に花崗岩類と堆積岩類によって構成されているが、西カール内に分布する氷河性堆積物は、花崗岩類が主体である。<br><u>3.</u><u>気温・地温観測</u> 表1にチャルキニ峰西カールと南カール内における2012年9月~2013年8月の気温観測結果に基づく値を示した。これによると、氷河の縮小が著しい西カールにおいて気温は高目であり、その結果、融解指数も大きくなっている。凍結融解日数は、両地点ともに300日を超えており、特に氷河末端近くに位置する南カール観測点では351日に及んだ。西カール内における地温観測結果によると、土壌凍結は4月~10月の期間ほぼ毎日生じているが、その凍結深は10cm程度である。これに伴い、同期間中、表層部での日周期的凍結融解が頻出しており、標高4800mの観測点では、その回数が161回(図1)、標高4822m観測点では244回に及んだ。<br><u>4.</u><u>周氷河環境</u>&nbsp; 年平均気温および凍結指数、融解指数から見る限り、チャルキニ峰周辺は周氷河地域に属するが、永久凍土が存在する可能性は小さい。表層付近での凍結融解頻度は、4月~10月(秋季~春季)にかけて非常に高いが、この期間は乾季に相当し(図1)、表層部の含水量が低い。一方、湿潤な雨季には凍結融解頻度が極めて低い。さらに凍結深度が浅いことから、ジェリフラクションやソリフラクションなど、周氷河作用が効果的に働かない。このことは氷河後退後の植生侵入にとって有利であると考えられる。
著者
髙橋 伸幸 水野 一晴
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2015, 2015

<u>1.</u><u>はじめに</u>&nbsp; <br>2012年からボリビアアンデスのレアル山脈に位置するチャルキニ峰周辺において周氷河現象の観察、気温・地温測定、土壌水分測定を行い、低緯度高山帯における周氷河環境の一端を明らかにしてきた。しかし、現地調査は8月~9月(冬季、乾季)に限られていたため、それ以外の時期については気温・地温等の観測結果から積雪状況等を推定するのみであった。そこで、2013年9月に同峰西カール内にインターバルカメラを設置し、ほぼ通年(2013年9月~2014年8月)にわたるチャルキニ峰西カール内の様子を画像で記録した。その結果、周氷河環境に関するより実証的な知見を得ることができた。なお、写真撮影は、毎日正午頃に一度行い、その時点での西カール内の様子(とくに積雪状況)と天気(画像内の空域の状況)を記録した。<br><u>2.</u><u>調査地<br></u> 調査地は、ボリビアの首都ラパスの北方約25kmに位置するチャルキニ峰(標高5392m)の西カール内である。チャルキニ峰でも氷河の後退が認められ、西カール内ではその谷頭部のカール壁基部にわずかに氷河が残されており、谷底には完新世の氷河後退に伴って形成された複数のモレーンがみられる。<br><u>3.天気</u> <br> 画像に含まれる空域の状態から、天気を晴天(空域に青空が見られる状態)とそれ以外の天気(空域が100%雲に覆われている状態:曇り、霧、雨、雪)に区別した。観測期間中(361日間)の晴天の頻度は166回(46%)であった。とくに2014年6月と7月には、それぞれ28回と27回記録されたが、2013年12月~2014年2月には、それぞれ4回、1回、5回のみであり、乾季と雨季との天気状況の違いが顕著であった。<br><u>4.</u><u>降雪・積雪と地温<br></u> 画像から判断する限り、年間を通して断続的に降雪が認められる。ただし殆どの場合、降雪の継続時間は、一日以内あるいは数時間程度と判断される。積雪状態になることは少なく、複数日にわたって積雪に覆われたのは、2014年5月下旬や7月下旬など冬季の数回程度であった。M2観測点における表層地温は、冬季を中心に年間約150回に及んだ。また、積雪が複数日に及んだ期間のみ、日変化が小さくなった。<br><u>5.</u><u>周氷河環境</u>&nbsp;&nbsp;<br> 髙橋・水野(2014)で示した通り本調査地域においては気温の凍結融解日数が300日を超え、土壌表層部の凍結融解頻度も244回に及ぶ地点があった。しかし、その一方で周氷河地形の発達は貧弱である。その原因として、とくに土壌の凍結融解が頻出する時期(冬季)が乾季と重なり、地表面付近の水分量が少なく、周氷河地形形成が効率的に行われないと考えられていたが、今回のカメラ画像でこのことがより明らかになった。また、顕著な積雪をもたらす降雪頻度が少なく、雪が地温変化に与える影響は小さい。また、積雪状態もきわめて一時的であることから、水分供給源としての役割も小さい。<br> 本研究は、平成26年度科学研究費補助金基盤研究(A)「地球温暖化による熱帯高山の氷河縮小が生態系や地域住民に及ぼす影響の解明」(研究代表者:水野一晴)による研究成果の一部である。
著者
水野 一晴
出版者
京都大学ヒマラヤ研究会・京都大学ブータン友好プログラム・人間文化研究機構 総合地球環境学研究所「高所プロジェクト」
雑誌
ヒマラヤ学誌 : Himalayan Study Monographs (ISSN:09148620)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.142-153, 2012-05-01

インドのアルナチャル・プラデシュ州のモンパ民族地域において, 住民にとって「山」がどのような存在となっているのかを調査した. その結果, 山は, モンパ民族地域において次の3つの役割を果たしていることが判明した. 1.山は民族分布や文化, 社会の境界をつくっている. アルナチャルヒマラヤ(アッサムヒマラヤ)の山脈が流通の障害物の役割を果たし, タワンモンパとディランモンパでそれぞれ独自の言語や生活習慣が発達し, 両者の境界をつくっている. また, 山は1962年の中国軍のモンパ地域への侵攻以来, インド軍が大規模に駐留して, 自然の要塞の役割を果たしている. 2.モンパ民族が古くから信仰するボン(ポン)教の宗教的儀礼, 祭式において, 山が神として信仰の対象になっている. 各地域はそれぞれ周辺に山の神が存在し, その神に祈り, 捧げ物をする儀式, 祭りが行われている. 捧げ物は少女や家畜であり, それぞれの山の神に捧げるものが決まっている. ディランモンパ地域のディランゾン地区やテンバン地区では, 社会的階層としての上位クランと下位クランに分かれており, このような伝統的儀礼にはそのクラン(氏族)の差が明瞭に見て取れる. 3.山はモンパ民族にとって資源として重要であり, 住民は山の森林から材を得てきた. ディラン地方では森林は3つに区分され, それぞれの使用目的も異なる. しかし, 近年大量伐採によって森林破壊が顕著になり, そのため, 商業伐採が禁じられたが, 今でも違法伐採が続いている. 住民たちもそのような森林の過度の伐採に危機感を感じるようになってきたため, 伐採に代わるような現金獲得手段を考え, 森林保護を進める動きが出てきた.
著者
水野 一晴
出版者
京都大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

南アルプスの「お花畑」の植生について2011-12年に調査し、その結果を1981-82年の調査結果と比較し、その30年間の変化とその要因を検討した。森林限界以下の「お花畑」の植生はかつて、シナノキンバイ、ミヤマキンポウゲ、ニッコウキスゲなどが優占していたが、近年はシカによる食害で、シカが食べないミヤマバイケイソウやマルバタケブギが優占し、大きく変化していた。一方、高山帯では、チングルマやガンコウラン、ミネズオウ、アオノツガザクラなど、同じ場所では30年間で優占する植物種に変化がなく、このことからシカによる食害の影響は近年、森林限界付近まで及んでいると考えられる。