著者
小谷 真千代
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2017, 2017

<b>1</b><b>.本報告の背景</b><b></b> <br> 「出稼ぎ」という現象は、これまで社会学・経済学を中心に、地理学を含む幅広い学問分野で研究の対象とされてきた。その共通理解としては、主として農村から都市への労働力移動であること、就労の一時性・農村への回帰性があげられよう。換言するならば、出稼ぎとは、都市と農村という関係性の中に捉えられてきた現象である。<br> しかしながら、1980年代以降、出稼ぎの基盤である都市と農村の関係は大きく変化した。ルフェ&minus;ヴルによれば、かつて自明であった都市と農村の境界はあいまいになり、今や田舎は「都市の<周辺>、その極限でしかない」(ルフェーヴル 1974: 21)。この都市化が惑星の隅々に至るまで進行する状況を、ルフェーヴルは「都市の惑星化 plan&eacute;tarisation de l&rsquo;urbain」と呼んだ(Lefebvre 1989)。都市の惑星化、あるいは「惑星的都市化planetary urbanization」は、新自由主義的な労働市場の再編とともに進行する(Merrifield 2014)。仕事を求めて都市へと向かう労働者の移動は、今やグローバルな規模で生じているが、その先には、もはや彼らが求めるような安定した仕事など残されていない。<br> こうした状況をふまえるのであれば、農村から都市への労働力移動を指す「出稼ぎ」という語は、消えゆくもののように思われる。しかしながら、実際のところ、この語は近年になって新たな意味を獲得し、日本とブラジルを行き来する日系ブラジル人たちによって今もなお生きられている。とすれば、日系ブラジル人労働者たちの経験に注目することで、変わりゆく現在の「出稼ぎ」という現象を捉えることができるのではないだろうか。 <br> &nbsp;<br> <b>2</b><b>.出稼ぎ・</b><b>decassegui</b><b>・デカセギ<br></b><b></b> 日本国内において、「出稼ぎ」が広く注目されるようになったのは、高度経済成長期のことであった。とりわけ1970年代には、出稼ぎ労働者の数がピークに達し、1971年に出稼ぎ労働者の全国的な組織である「全国出稼組合連合会」が結成されている。このような状況下で、「出稼ぎ」は社会問題として盛んに論じられ、地方新聞社やジャーナリストによるルポルタージュも相次いで出版された。ところが、1980年代以降、出稼ぎ労働者の数は減少し、それに伴って「出稼ぎ」という語が用いられる機会も減少する。<br> 一方、日本国内の出稼ぎの減少と反比例するかのように増加したのが、ブラジルから日本への労働力移動を指す「デカセギdecassegui」という語の使用であった。1980年代後半以降、ブラジルのハイパーインフレなどを背景に、多くの日系ブラジル人が仕事を求めて来日した。その際、日本語の「出稼ぎ」が、日本での就労を意味する語として用いられはじめたのである。日本での就労が日系コミュニティ内で一般化するにつれ、この語はポルトガル語化し、彼らの語彙に定着した。そして現在でも、日系ブラジル人は自らをデカセギと名指し、日本での労働の経験を語る。 <br><br> &nbsp; <b>3</b><b>.本報告の目的<br></b><b></b> 本報告では、近年の都市研究における惑星的都市化の議論を参照しつつ、日系ブラジル人労働者の語りを通じて、現在の「出稼ぎ」がどのように意味づけられているのかを明らかにする。そのうえで、出稼ぎをとりまく労働市場の変容から、惑星的都市化の内実を捉えてみたい。<br> なお、本報告は2016年7月から9月にかけてブラジルのサンパウロおよびポルトアレグレで実施した、日本への出稼ぎ経験者に対する聞き取り調査にもとづくものである。 &nbsp; <br><br> <b>参考文献</b> <br>ルフェーヴル, H. 著. 今井成美訳 1974. 『都市革命』晶文社. Lefebvre, H. 1970. <i>La r&eacute;volution urbaine.</i> Paris: Gallimard. <br> Lefebvre, H. 1989. Quand la ville se perd dans une m&eacute;tamorphose plan&eacute;tarie. In <i>Le monde diplomatique</i><i> </i>May. Translated by L. Corroyer, M. Potvin and N. Brenner, 2014. Dissolving city, planetary metamorphosis. In <i>Implosions/ explosions: Towards a study of planetary urbanization</i>, ed. N. Brenner, 566-571. Berlin: Jovis. <br> Merrifield, A. 2014. The right to the city and beyond: Notes on a Lefebvrian Reconceptualization. In <i>Implosions / explosions: towards a study of planetary urbanization</i>, ed. N. Brenner, 523-532. Berlin: Jovis.

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https://t.co/eLGKIzHofZ 小谷真千代(2017)「惑星的都市化と『出稼ぎ』の変容」 「1980年代以降、出稼ぎ労働者の数は減少し、それに伴って『出稼ぎ』という語が用いられる機会も減少する」。

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