- 著者
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知念 良之
西野 吉彦
芝 正己
- 出版者
- 日本森林学会
- 雑誌
- 日本森林学会誌
- 巻号頁・発行日
- vol.99, no.3, pp.129-135, 2017
<p>産業用および家庭用燃料資材の調達という観点から,沖縄県宮古地域の西端に位置する多良間島におけるバイオマス資源の利用形態および需給状況の変化を分析し,地域社会や行政の取組の特徴を明らかにすることを試みた。1898年に製糖が始まると砂糖樽や製糖用燃料の需要が高まった。砂糖樽用材料は移入し,製糖用燃料はバガスや落葉等で代用され,当初は家庭用燃料資材と競合しなかった。しかし,人口増加や製糖の拡大に伴って落葉等の消費量が増加し,肥料生産と競合して耕作地の生産性低下を招いた。このため,1917年に近代的な森林管理の手法と技術を導入し,入会林野の造林計画を編成してリュウキュウマツが植林された。しかし,入会林野の伐採は禁止されたことで私有林の価値が高まった。1938年に行政による造林の奨励とモクマオウの導入で,私有林を中心に森林面積が拡大して砂糖樽の島内生産も行われた。戦後は,人口減少や砂糖樽が紙箱に変化したことにより薪を近隣の島に移出する余力が生まれたが,1960年代以降は代替燃料の普及により造林は衰退した。多良間島では,住民と行政の取組によりバイオマス資源の持続的生産に一定の成果がもたらされた。</p>