- 著者
-
吉田 一史美
- 出版者
- 日本生命倫理学会
- 雑誌
- 生命倫理 (ISSN:13434063)
- 巻号頁・発行日
- vol.26, no.1, pp.150-158, 2016
<p> 本稿は、1950年代に乳児院収容児に対して行われた2 つの人体実験、名古屋市立大学医学部の特殊大腸菌感染実験および神戸医科大学医学部の乳児栄養実験を取り上げる。これらの事例について、乳児院、医学者や関連産業をめぐる背景を検討し、人体実験が問題化された経緯と文脈をたどる。産婆による乳児保護システムの解体、第二次大戦中からつづく細菌学実験の系譜や、隆興する乳児栄養産業の影響等の条件が重なった結果、一部の大学病院内の乳児院で引き取り予定のない収容児等に対する人体実験が行われた。実験の告発は、小児科医や看護師によって行われ、日本弁護士連合会や神戸地方法務局が調査を実施し、「(基本的)人権の侵害」であると非難された。また法学者によって刑法学上の責任追及の可能性も示唆された。</p>