出版者
公益財団法人 史学会
雑誌
史学雑誌 (ISSN:00182478)
巻号頁・発行日
vol.126, no.2, pp.1-39, 2017

本稿は、『大串兎代夫関係文書』(国立国会図書館憲政資料室所蔵)中から、大串が敗戦直後に断片的に書き残した憲法改正論はどのようなものか明らかにし、天皇に統治権を残しているという形式をもって国体・帝国憲法に固執した者と批判してきた従来の日本国憲法成立史の枠組を修正するものである。<br>大串は、終戦の詔書を非常大権の発動と捉え、詔書にしたがい、自主的にポツダム宣言を履行し民主化を進めようとした。特に大串が拘ったのは、バーンズ回答で示された日本の政府形態は日本国民の自由意志で決定するという点であった。大串はこれを国体の問題と捉え、国民投票によって天皇制存続を決定した後に、憲法改正をすべきと考えた。<br>大串の憲法改正案の特徴は、次の三点である。<br>第一に、前文として国民宣言と憲法上諭を設け、統治権が天皇に帰属すること、統治権者としての天皇の権威が国家存立の基礎にあること、ただし統治権の施行は国民に対して責任を負う政府が行うことを宣明し、国体の本質を明らかにした。天皇が国民意志にもとづき統治権を行うことは本文でも明記され、天皇の役割は儀礼的な権限や裁可に限られた。<br>第二に、憲法上諭で、憲法改正の発議権を国民に認め、改正手続の法的正当性を確保しようとした。<br>第三に、同時代の草案ではあまり見られない国民投票、地方自治の章が設けられ、国民の権利として、法の下での平等、教育、勤労、選挙が明記された。<br>このように大串の憲法改正案は天皇に統治権を残したが、それは国民の総意で国家権威として認められ、役割も儀礼的なものに限定されていた。よって実質的には、日本国憲法の象徴天皇制とほぼ同じ内容を備えていた。さらに、国民意志にもとづく政治を徹底し、国家の重要事案の最終判断を国民投票に付そうとしていた点では、一種共和主義的なものを志向しており、その点では社会民主主義者や共産主義者と相重なる特徴を有していた。<br>

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