- 著者
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藤岡 英之
- 出版者
- 一般社団法人 人文地理学会
- 雑誌
- 人文地理 (ISSN:00187216)
- 巻号頁・発行日
- vol.70, no.1, pp.49-71, 2018
<p>葬儀の担い手が,喪家近隣の人々から葬祭業者に移行することにより,喪家は葬祭業者が提供するサービスの利用者となり,サービス供給者としての葬祭業者を選択する立場となった。また,葬儀の場所も以前の自宅から,葬祭業者が設置する葬儀会館へと移行している。本稿では,利用者としての喪家による葬儀の場所の選択とその変容を,葬儀の担い手の変化の観点から,地方紙のお悔やみ欄を手がかりにして明らかにすることを目的とした。事例対象地域の栃木県宇都宮市では,1990年代に葬祭業の従業者数が大きく増加し,同時に葬儀の場所が自宅から葬儀会館に移行したが,最近まで地域の人々の関与が大きかったことから手伝いへの返礼や会食のふるまいの習慣が残っていた。市内の葬儀会館は最初,DID 内に設けられた後,市街地の周辺部に自宅をもつ利用者が増加するとともに DID の境界付近まで広がり,近年では小規模化して再び市の中心部に設置されている。お悔やみ欄の分析から,喪家は故人の自宅から近い葬儀会館を選ぶ傾向があったが,2009年に市の火葬場が郊外に移転し,これに併設された式場(現斎場)が使いやすくなると,自宅から離れていても現斎場を利用したいとする喪家が増加し,こうした喪家が DID 内から外へと拡大している。これにより,地域の人々の葬儀への関与がなくなるとともに,喪家による葬儀の場所の選択が空間的に拡大していることが明らかになった。</p>