著者
劔 義隆 中村 恒
出版者
日本リアルオプション学会
雑誌
リアルオプションと戦略
巻号頁・発行日
vol.9, no.3, pp.23-31, 2017

スチュワードシップコードやコーポレートガバナンスコードが日本において制定され、機関投資家は株主としての経営監視責任の強化・企業との対話促進をより一層求められ、企業側は株主などのステークホルダーに対するアカウンタビリティをより強化させていく必要に迫られている。余剰現金の保有に対する株主からの配当増額要請や自社株消却要請、M&A・設備投資などの戦略・ファイナンス方法・リスクマネジメントなどを、株主・債権者などのステークホルダーに理論立てて説明しなければならない機会はますます増大していくことが想定され、これまで日本の実務界では欧州との相対比較であまり重要視されてこなかったコーポレートファイナンス・統合リスクマネジメントの領域の知識武装がますます求められてきている。なぜ、企業はリスクマネジメントを行わなければならないのかについては、海外では早くから学術的に理論分析や実証分析が行われてきた。また、教育の場でも欧米のMBAにおいてファイナンス理論の世界から統合リスクマネジメントを 学ぶ授業が展開され、本論文で紹介するケーススタディが掲載されたテキスト、ニール・ドハティの『Integrated Risk Management』(邦訳『統合リスクマネジメント』(米山高生、森平爽一郎監訳)は、まさにそのMBAに使われる標準的テキストとして名声を得ている。本テキストでは、難解な数式を用いることなく簡単な四則演算で計算できるケーススタディを多数用意し、これらのケーススタディを丹念に読み解いていくことで、企業がなぜリスクマネジメントを行わなければならないのかについて、その理論を体系的に習得することが可能となっている。原書はやや古いものではあるが、内容は現在でも全く色あせておらず、多くの実務家の方々に対して有益な実務的指針を提供してくれるものである。筆者らは、一橋大学MBA(大学院商学研究科経営学修士コース)においてこのテキストを用いた授業「統合リスクマネジメント」を開設し、本テキストをよりわかりやすく理解できるようにするため、特に重要と思われるケーススタディをピックアップし、各ケーススタディの意味付け、バランスシートによる解説、考察および事後課題を付したスタディ・マニュアルを新たに作成し、授業では実際にこの副教材が大いに学生の理解の手助けとなった。本稿では、このテキストに掲載されたケーススタディの中からオプションに関連するケーススタディを取り上げ、スタディ・マニュアルの内容を盛り込みつつ内容の紹介を行う。紙面の関係で、ここに取り上げるケーススタディはごくごく一部でしかなく、興味を持たれた方はぜひテキストに加えて、ウェブサイト にて公開しているスタディ・マニュアルを併用し、他のケーススタディにも触れていただければ幸いである。

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こんな論文どうですか? ドハティ「統合リスクマネジメント」ケーススタディの紹介:~米国MBAテキストをやさしく読み解く(劔 義隆ほか),2017 https://t.co/i7HRAJ7R1J

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