著者
張 自寛
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
vol.59, pp.3, 2010

はじめに中国は総人口のうち8億人が農民で占め、改革開放以来30年間、一貫して「三農(農民、農村、農業)」問題を最も重視し、農村の改革と発展を推進し、農村地域に大きな変化をもたらしてきた。1)人民公社を廃止し、農家が農業経営を請負う体制を確立した。2)二千年以上存続してきた農業税を廃止し、農家に食糧生産補助金を支給し、農民の負担を大きく軽減した。3)食糧生産は順調に伸び、農産物の供給が豊かになり、13億人口の食糧問題を中国独自の力で解決した。4)農村地域(郷鎮)に企業が続出し、農村の労働力は都市へ大規模に移動・就業し、億単位の農民が産業労働力の重要な構成部分となった。5)農民の生活は改善し、貧困から抜け出して小康状態までに転換しつつある。<BR><BR>中国農村経済社会の発展改革開放以来30年間、中国農村経済の発展は速かったが、2003年におけるSARSとの闘いの過程で多くの啓発を得た。その中で最も重要なことは、経済社会の発展が一方に偏ることなく全般にわたって計画し、経済社会の発展に見られるアンバランスの問題解決を早めなければならない。ここ数年、中国は農村経済を発展させると同時に、社会事業の発展および国民の生活改善をより一層重視し、以下のような民意が得られた幾つかの重要な事業を実施してきた。<BR> 1)2005年から9年制義務教育は全て無料とし、9年制義務教育に対する経費保障システムを国の財政によって賄い、授業料や雑費の免除と教科書の無料提供、同時に貧困家庭の寄宿生に対する生活補助政策を実施した。また経済社会発展に伴う技術者の需要に適応するため、中・高度の技術教育を大いに発展し、農村の貧困家庭出身者および農業を専門とする学生については無料化を図る。これらの事業は中国の教育体制において歴史的変革である。<BR>2)2003年から新型農村合作医療制度が創設された。先ず一人当たりの保険料が年間30元からスタートし、現在は120元になった。保険料の内訳は、国と地方政府の財政補助が2/3を占め、個人は1/3を納める。2009年末現在、加入者総数は8.15億人で、基本的には農村人口の全てをカバーすることができた。この制度は重病への保障を主とし、特に非感染性疾患、例えば、悪性腫瘍、心疾患、脳血管疾患等に対して重点的に保障する。農業税の廃止と9年制義務教育の無料、また新型農村合作医療の実施等により、「農業税を納めなくてよいこと、無料で学校へ行けること、受診料が高くないこと」といった8億の農民が待ち望んでいた夢を、いまや実現することができた。<BR>3)2007年から全国の農村において最低生活保障制度が創立された。現在、約5千万の農村人口がこの制度に組み入れられ、一人当たり月80元の政府補助金が交付されている。衣食不足の農民にとっては、まさに「雪中に炭を送る」こととなった。<BR>4)経済が発展した沿海部の幾つかの省・市において、農民基本養老保険制度を先ず試行し、その上で2009年から新型農村養老保険制度の試行を全国的に展開した。昔から中国農民の間では、「子を養って老を防ぐ」という考えを持っていた。現在、養老保険制度の試行県では60歳以上の農民全員が、国の財政による最低標準の基礎養老年金を全額享受し、農民も社会保障を受けられて老後への不安が取り除かれた。従って、前述した「農業税を納めなくてよいこと、無料で学校へ行けること、受診料が高くないこと」に、「老後への不安がないこと」を加えるべきであろう。<BR>これらの制度は、いずれも農民に大きな利益を与え、現実的、歴史的意義が深い。しかし、現段階では国の財政に限りがあり、中国における社会保障水準は比較的低いが、今後、経済の発展に伴い、社会保障水準も更なる向上が期待されよう。<BR><BR>農村医療の新しい進展最近の中国における農村衛生事業は著しい進展をみせた。2003年のSARS発生後、政府は農村事業を重要な議事に位置づけ、国務院は常務会議を毎年開き、農村衛生事業について討議を重ねてきた。中央政府および地方政府は、ともに農村衛生への財政投入を年々増大することによって、農村医療ネットワークの建設、医療衛生サービスに、以下のような新たな進展がみられた。

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