著者
荒谷 康昭
出版者
日本医真菌学会
雑誌
日本医真菌学会総会プログラム・抄録集 (ISSN:09164804)
巻号頁・発行日
vol.49, pp.22, 2005

ミエロペルオキシダーゼ(MPO)は主に好中球のみに存在し、単球にわずかに検出されるほかには MPO を保持している組織は同定されていない。感染等によって活性化した好中球は、NADPH オキシダーゼにより酸素からスーパーオキシド(O<SUB>2</SUB><SUP>-</SUP>)を、次いで O<SUB>2</SUB><SUP>-</SUP> から過酸化水素(H<SUB>2</SUB>O<SUB>2</SUB>)を産生する。さらに、MPO により H<SUB>2</SUB>O<SUB>2</SUB> と塩素イオンから次亜塩素酸(HOCl)が産生される。ヒトの単離好中球を用いた試験管内実験では、MPO 欠損好中球は殺菌能の低下が認められる。しかし、我が国では 40,000 人に 1 人、欧米では 2,000 から 4,000 人に 1 人の頻度で存在しているといわれる MPO 欠損患者の大半は健康な生活を営んでおり、時にカンジダ菌に易感染性を示す傾向が認められるに過ぎない。すなわち、個体の真菌感染防御における MPO の役割はいまだ明確ではない。そこで、MPO のノックアウトマウス [MPO (-/-) マウス] を作製して、このマウスの真菌易感染性を解析した。<BR> MPO (-/-) マウスは、クリーンな飼育環境下では何ら異常を示さない。ところが、<I>Candida albicans</I> を鼻腔内投与すると、野生型マウスはまったく死亡しなかったのに対し、MPO (-/-) マウスは感染後 5 日目までに重度の肺炎を起こして大半が死亡した。さらに、<I>Aspergillus fumigatus</I>、<I>Candida tropicalis</I>、および <I>Trichosporon asahii</I> を感染させた 2 日後の肺における殺菌能も、野生型マウスに比べて有意に低下していた。また、<I>Cryptococcus neoformans</I> に対する MPO (-/-) マウスの感染防御能の低下は、感染後 1 週間を経過してから顕著に現れた。すなわち、MPO はこれらの真菌に対する生体防御に重要な役割を担っていることが示された。次に、MPO (-/-)マウスの <I>C. albicans</I> に対する易感染性を NADPH-オキシダーゼのノックアウトマウス (CGD マウス) と比較した。CGD マウスの感染重篤度は、投与した菌量依存的に増大した。一方、MPO (-/-) マウスは、低量の菌を投与すると野生型マウスと同程度の軽度な感染しか示さなかったにもかかわらず、高量を投与すると CGD マウスに匹敵する重篤な感染症状を示した。すなわち、MPO は多量の菌が感染した際の生体防御機構として、NADPH オキシダーゼと同等の重要性を有していることが明らかとなった。<BR>共同研究者:倉 文明<SUP>1</SUP>,渡辺治雄<SUP>1</SUP>,高野幸枝<SUP>2</SUP>,鈴木和男<SUP>2</SUP>,小山秀機<SUP>3</SUP><BR> (<SUP>1</SUP>国立感染研・細菌,<SUP>2</SUP>国立感染研・生物活性,<SUP>3</SUP>横浜市大・木原研)

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