著者
二宮 淳也
出版者
The Japanese Society for Medical Mycology
雑誌
日本医真菌学会雑誌 (ISSN:09164804)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.5-9, 2000-01-30 (Released:2009-12-18)
参考文献数
18
被引用文献数
2 4

Trichophyton mentagrophytesの菌液を健常人の踵部角質に塗布し,様々な温度,湿度にて培養し,経時的に観察することにより,菌の角質内侵入に要する時間を検討した.一般に糸状菌培養の至適温度とされる27℃よりも,35℃の方が菌の角質内侵入が早期より観察された.湿度100%では,温度15℃においても菌の侵入が見られたことから,湿度は温度よりも重要な要因であると思われた.T.mentagrophytesとT.rubrumの2種の菌を用いて行った実験では,最も早期に角質内への侵入像が観察された日数は,湿度100%においてT.mentagrophytesで1日,T.rubrumで1.5日,湿度95%においてT.mentagrophytesで1.5日,T.rubrumの4日であった.第4趾間の1日を通じての湿度は95%以下と推定された結果から,毎日足を充分洗浄していれば,足白癬の発症は確実に予防できるものと思われた.角質の切断面に菌液を塗布した系では,100%のみならず95%の湿度においても,両菌共0.5日後に角質内への侵入像が観察された.また,表面側への塗布では侵入像が認められなかった85%以下の湿度においても侵入像が認められた.以上の結果から,微細な外傷による角質細胞膜の破壊は,湿度や温度同様,重要な発症要因である可能性が推測された.
著者
森下 宣明 二宮 淳也 清 佳浩 滝内 石夫
出版者
The Japanese Society for Medical Mycology
雑誌
日本医真菌学会雑誌 (ISSN:09164804)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.247-252, 2004-10-30 (Released:2009-12-18)
参考文献数
14
被引用文献数
10 7

健常人の踵部の角質片に,数種の皮膚糸状菌を塗布し,角質内への菌の侵入速度や侵入後の洗浄による菌の除去について検討した.足白癬を想定した実験系では,角質表面に菌を塗布した後,以下の2系列の実験系をたてた.(1) 屋内で靴下を履いている環境として,湿度90%を8時間,湿度100%を16時間,(2) 屋内で裸足でいる環境として,湿度80%を8時間,湿度100%を16時間培養し,経日的に取り出し,石鹸水を浸した綿棒による洗浄前後について,それぞれPAS染色,走査電顕で観察した.(1)では1日後に洗浄しても菌を除去することはできなかったが,(2)では2日後でも菌が除去されていた.靴を脱いでいるときには足の湿度を低く保つこと,連日足底・趾間の洗浄をおこなうことにより,角質内に菌が侵入し始めても容易に除去できると思われた.また,体部白癬を想定した実験系では,角質切断面に菌を塗布し,湿度80%で培養後,経日的に取り出し,PAS染色後観察した.Trichophyton tonsuransは,0.5日で角質への侵入が始まり,他の菌種の皮膚糸状菌よりも角質内への侵入速度が速く,最近の感染拡大の要因の1つであると思われた.
著者
渡辺 京子 谷口 裕子 西岡 清 丸山 隆児 加藤 卓朗
出版者
The Japanese Society for Medical Mycology
雑誌
日本医真菌学会雑誌 (ISSN:09164804)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.183-186, 2000-07-30 (Released:2009-12-18)
参考文献数
12
被引用文献数
7 7

銭湯や温泉,プールなど裸足となる環境では,足白癬患者によって散布された皮膚糸状菌(以下,菌)が健常人の足底に付着し,足白癬感染のきっかけとなる.そこで,菌は靴下をはいた状態でも足底に付着するのか,それとも予防できるのかをFoot-press培養法を用いて実験的に検討した.足白癬に罹患していない被験者は,右足に綿靴下,ナイロンストッキング,毛靴下,足袋をはき,先に足白癬患者によって菌が散布されているバスマットを踏んだ後にFoot-press培養法を行い,靴下をぬいだ直後に,再度Foot-press培養法を行った.その結果,すべての靴下には菌が付着していたが,ナイロンストッキングの場合には,靴下より脱いだ足底に多数の菌が付着しており,綿靴下でも菌の一部が靴下を通過し,足底に付着した.毛靴下,足袋の場合は足底にほとんど菌が付着しなかった.各靴下を顕微鏡で観察すると,綿靴下やナイロンストッキングは,繊維の編み目が菌よりも大きく,菌を容易に通過させると考えられた.毛靴下や足袋は,編み目が密である上に,繊維の毛羽立ち,伸縮性の少なさによって菌を通過させないものと考えられた.ナイロンストッキングでは菌の付着の予防にはならず,綿靴下でも十分ではないことを示した.
著者
藤広 満智子
出版者
The Japanese Society for Medical Mycology
雑誌
日本医真菌学会雑誌 (ISSN:09164804)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.43-55, 1993-02-20 (Released:2010-11-18)
参考文献数
31
被引用文献数
4 3

揖斐総合病院皮膚科外来を訪れた足白癬患者183例と正常人102例を対象に, 足からの白癬菌散布の頻度, 量, 臨床との相関を検討した.対象となった患者に, 素足で10分間表面塩化ビニール製のスリッパを着用させ, ニチバン製セロファン粘着テープでスリッパの足底の接する面全体から試料を採取し, Actidione, chloramphenicol添加ペプトングルコース寒天平板培地にて白癬菌の分離培養を行った. その結果118例 (64.5%) の白癬患者のスリッパ169個からTrichophyton rubrumまたはTrichophyton mentagrophytesが分離された. 1個のスリッパ当たりの集落数別に検討したところ, 5集落以下のスリッパが最も多く112個 (66.3%), 6~10集落22個 (13.0%), 11~15集落12個 (7.1%), 16~20集落5個 (3.0%), 21~25集落3個 (1.8%), 26~30集落6個 (3.6%) および31集落以上9個 (5.3%) であった. 菌種による散布頻度, 散布量の差は認められなかった. 散布群と非散布群間で, 病型, 原因菌種, KOH所見, 鱗屑, 小水疱, 趾間の浸軟, 〓痒, 発赤, 足底の乾燥状態および爪白癬の合併の有無に関して比較したところ, 趾間の浸軟, 足底の湿潤が散布群により多くみられた. コントロールとした正常人102例中2例のスリッパからT. mentagrophytesが各1集落分離された. また20例の足白癬患者の足底をセロテープ®で剥離し, そのセロテープ®を20%KOH処理して観察したところ, 14例 (70%) に白癬菌と思われる菌要素を確認した.

5 0 0 0 OA 真菌の命名法

著者
高島 昌子
出版者
日本医真菌学会
雑誌
日本医真菌学会雑誌 (ISSN:09164804)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.263-267, 2009 (Released:2009-11-27)
参考文献数
7
被引用文献数
1
著者
上原 雅江 佐野 文子 鎗田 響子 亀井 克彦 羽毛田 牧夫 井出 京子 永井 啓子 高山 義浩 西村 和子
出版者
日本医真菌学会
雑誌
日本医真菌学会雑誌 (ISSN:09164804)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.205-209, 2008 (Released:2008-08-09)
参考文献数
21
被引用文献数
6 5

2006年本邦において,タイ人AIDS患者の血液培養よりPenicillium marneffei が分離された.本菌種による感染報告例は本症例が3例目となるが,培養に成功した例はわが国では初めてと考えられる.患者は,41歳,タイ東北部出身の女性で,約10年前に来日.その後もしばしば一時帰国していた.AIDS治療中に発熱のために行った血液培養より,培養初期に白色,やがて暗赤色となる集落が分離され,菌学的および分子生物学的手法によりP. marneffei と同定され,患者はマルネッフェイ型ペニシリウム症と診断された.アムホテリシンBおよびミカファンギンの投薬により患者は回復し,引き続き通院し経過を観察された.分離株をサブロー・ブドウ糖寒天平板培地にて25℃で培養した集落は,初め白色フェルト状で,次第に黄色から黄緑色となり,さらに培地内に深紅色色素を拡散した.分生子頭は散開性で,その先端に分生子の連鎖を形成していた.ブレイン・ハート・インフュージョン寒天斜面培地にて35℃で培養すると,細かい襞のある灰白色膜様集落を形成し,顕微鏡的には短菌糸より構成されていた.なお,本分離株のリボゾームRNA遺伝子internal transcribed spacer領域の配列は,既知株と100%一致し,DDBJにAB298970として登録されている. 臨床検査分野においては,今後HIV感染症の拡散と人々の移動のグローバル化に伴い,病原性輸入真菌症に遭遇する危険性が高まることが予測され,専門機関との連携を含め,初期対応が可能となるような体制作りが必要であると考える.
著者
清 佳浩 滝内 石夫 渡辺 晋一 本田 光芳 伊東 文行 西川 武二 小川 秀興 原田 敬之 西山 千秋 加藤 卓朗
出版者
The Japanese Society for Medical Mycology
雑誌
日本医真菌学会雑誌 (ISSN:09164804)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.87-97, 1997-02-28 (Released:2009-12-18)
参考文献数
20
被引用文献数
1 4

フケ症を対象に,0.75%硝酸ミコナゾールシャンプー(MZS)の有用性を,シャンプー基剤(BSS)を対照として8施設による二重盲検比較試験により検討を行った.また,フケおよびかゆみに対する症状の改善とMalassezia furfurの菌数の減少,すなわち真菌学的効果との関係についても併せて検討した.その結果,総症例数134例中,安全性解析対象症例は130例,有効性および有用性解析対象症例は108例であった.有用率はMZS群58例中34例(58.6%),BSS群50例中19例(38.0%)であり,MZS群がBSS群に比し有意に優れる成績であった(p=0.020).フケの改善率では,MZS群58例中42例(72.4%),BSS群50例中26例(52.0%)であり,MZS群がBSS群に比し有意に優れる成績であった(p=0.017).M.furfurに対する真菌学的効果とフケに対する有効性に関して,効果の発現がみられた症例においては,菌数の有意な減少が認められた(p=0.0001).これに対し,無効の症例では試験開始前と終了後の菌数の変化に有意差を認めなかった.また,試験開始時の菌数による有効性の層別解析では,菌数が比較的多い症例において,MZS群がBSS群に比し有意に優れていた(p=0.038).副作用は130例全例において全く認められなかった.以上より,MZSはフケ症に対して有効であり,フケの改善とM.furfur菌数の減少とも比較的一致する極めて有用なシャンプー剤であると考えられた.
著者
Shigeharu Inouye Miki Takahashi Shigeru Abe
出版者
The Japanese Society for Medical Mycology
雑誌
日本医真菌学会雑誌 (ISSN:09164804)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.243-251, 2009 (Released:2009-11-27)
参考文献数
12
被引用文献数
20 29

The antifungal activity of 43 hydrosols, 7 herbal teas and 12 essential oils was determined using Candida albicans as a test organism. All of the hydrosols examined showed more potent inhibition against the filamentous form than the yeast form of C. albicans. In particular, the filamentous form was markedly inhibited by seven hydrosols, of which monarda, santolina and clove water also inhibited the growth of the yeast form. Most of the inhibitory activity of the hydrosols was correlated with that of their respective major components. Poor correlation was observed between the inhibition of filament formation and the growth inhibition of the yeast form among the hydrosols examined, among essential oils and among the major components of hydrosols and essential oils. Seven herbal teas showed moderate or weak activity against the filament formation of C. albicans, but no inhibition against the yeast form.
著者
梅田 昭子 天児 和暢
出版者
The Japanese Society for Medical Mycology
雑誌
日本医真菌学会雑誌 (ISSN:09164804)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.147-150, 1998-07-30 (Released:2009-12-18)
参考文献数
6
被引用文献数
2 3

The fine structure of the cell walls of Gram-positive and -negative bacteria were determined by electron microscopy with the new technique of freeze substitution method, and analysed the cell wall structure of Staphylococcus aureus in detail. The surface of Staphylococcal cell wall was covered with a fuzzy coat consisting of fine fibers or electron-dence mass. This coat was completely removed after extraction of teichoic acid from the cell wall with trichloroacetic acid treatment, but was not affected by sodium dodecyl sulfate or trypsin treatment. It was suggested that many amount of teichoic acid was located on the surface of the cell wall and less inside the cell wall. The capsule of strain Smith diffuse was assumed to play the role as the barrier protected from the penetration of antibody against teichoic acid.

2 0 0 0 OA 脂漏性皮膚炎

著者
清 佳浩
出版者
The Japanese Society for Medical Mycology
雑誌
日本医真菌学会雑誌 (ISSN:09164804)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.77-80, 2003-04-30 (Released:2009-12-18)
参考文献数
18
被引用文献数
2 4

脂漏性皮膚炎は,脂漏部位である頭部・顔面中央・耳・胸部正中および間擦部に生じる油性の落屑性紅斑を特徴とする疾患である.本疾患の詳細な発症機序はまだ解明されていないが,癜風菌が発症ないし悪化に深くかかわっていることは間違いない.本疾患は,客観的な検査法が確立されていないため,臨床症状に基づいて診断される.したがって鑑別診断を注意深く行う必要がある.直接鏡検による癜風菌の確認,皮脂量の測定,IgE抗体価,パッチテストなどを組み合わせて除外診断を行う.治療に関してはケトコナゾールクリームなど再発までの期間が長い抗真菌剤を積極的に使用したい.
著者
丸山 奈保 滝沢 登志雄 久島 達也 石橋 弘子 井上 重治 安部 茂
出版者
日本医真菌学会
雑誌
日本医真菌学会総会プログラム・抄録集 第51回 日本医真菌学会総会 (ISSN:09164804)
巻号頁・発行日
pp.135, 2007 (Released:2008-08-08)

【目的】膣カンジダ症は発症頻度の高い感染症でありながら、一部では抗真菌剤だけで解決できない場合も多い。本症にアロマセラピーとして植物精油が経験的に用いられているが、有効性を得る最適な投与法に関する研究は少ない。ここでは、膣カンジダ症マウスモデルを用いその検討を行った。【方法】実験1.C.albicans TIMM2640を、エストラジオールを投与したBALB/cマウスに接種し、翌日より植物精油を3日間連続膣内投与後、4日目に菌を回収した。一部のコントロールマウスでは、投与6時間後に膣の洗浄操作を加えた。実験2.菌接種48時間後に膣を洗浄後、ゼラニウム油及び主成分であるゲラニオールを膣内投与し、投与6、24、96時間後に菌の回収・洗浄を行った。【結果と考察】1.クロトリマゾールでは効果が認められたが、ゼラニウム油、ティートリー油などの植物精油では、生菌数の低下は認められなかった。ただし、膣洗浄により生菌数の有意な低下が認められた。2.植物精油投与96時間後にはゲラニオール1%で生菌数の有意な減少が、ゼラニウム油1%で減少傾向が見られた。すでに、ゼラニウム油及びゲラニオールはin vitroでC.albicansの菌糸形発育を阻止し、基材への付着性を低下させることを明らかにしている。以上より、これらは、膣洗浄との適切な組み合わせにより、膣カンジダ症に有効性を示しうると考えられる。
著者
原田 聡 杉田 隆 田嶋 磨美 津福 久恵 坪井 良治 西川 朱實
出版者
日本医真菌学会
雑誌
日本医真菌学会総会プログラム・抄録集 第50回 日本医真菌学会総会 (ISSN:09164804)
巻号頁・発行日
pp.77, 2006 (Released:2006-09-12)

【はじめに】皮膚常在真菌であるMalasseziaはアトピー性皮膚炎の増悪因子である。本菌は細胞外にリパーゼを分泌することにより皮脂を分解しそれを自らの栄養源としている。この度は、アトピー性皮膚炎の標準的治療薬であるステロイドおよびタクロリムスがMalasseziaの分泌性リパーゼ産生および遺伝子発現に及ぼす影響について検討した【材料および方法】菌株:アトピー性皮膚炎患者皮膚の主要構成菌種であるM. globosaおよびM. restrictaの臨床分離株を用いた。リパーゼ遺伝子変動:degenerate PCRによりリパーゼ遺伝子をクローン化し、各種薬剤存在下での遺伝子発現変動をreal-time PCRを用いて調べた。分泌性リパーゼ産生:各種薬剤存在下でpNPP法によりリパーゼ活性を測定した。【結果および考察】臨床濃度に相当するステロイド存在下では、リパーゼ遺伝子の発現およびタンパク産生の抑制が認められた。一方、タクロリムスは、臨床濃度の約1/60以下で遺伝子発現およびタンパク産生の亢進が認められた。しかしながら、タクロリムスは臨床濃度ではMalasseziaに対して殺菌的に働くので、リパーゼ活性の亢進は臨床上問題にならないと考えられる。【会員外共同研究者】内田夕貴、斉藤美沙
著者
赤川 清子
出版者
The Japanese Society for Medical Mycology
雑誌
日本医真菌学会雑誌 (ISSN:09164804)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.209-214, 1997-07-30 (Released:2009-12-18)
参考文献数
18
被引用文献数
3 3

ヒト単球をGM-CSFまたはM-CSF存在下に培養すると,形態,表面マーカー,機能(貪食能,活性酸素産生能,抗原呈示能,HIV感染感受性など)の異なる2種類のマクロファージ(Mφ)に分化すること,GM-CSFで分化誘導したMφは,ヒトの肺胞Mφに似ていることが知られた.またCSFによるヒト単球のMφへの分化はIL-4により修飾され,GM-CSFとIL-4によりCD1陽性の樹状細胞(DC)に,またM-CSFとIL-4によりTRAP陽性の破骨細胞様多核巨細胞(MGC)への分化が誘導されることが知られた.単球由来DCは,既にGM-CSFによりMφへ変換する能力は有していないが,M-CSFのレセプターであるc-fmsを有しM-CSFに反応してMφに分化可能である.しかしTNF-αで処理することによりc-fmsの発現が抑制されM-CSFによるMφへの分化能を失うことが知られた.また単球由来MGCの形成には内在性のIL-1とIL-6が重要な役割を果たしており,CD4/HLA-DR,LFA-1/ICAM-1及びCD14とそのリガンドの相互作用が必要なことが示唆された.
著者
木内 哲也
出版者
The Japanese Society for Medical Mycology
雑誌
日本医真菌学会雑誌 (ISSN:09164804)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.223-225, 2004

臓器移植領域における深在性真菌症は,ほとんどが<i>Candida</i>と<i>Aspergillus</i>によるものであり,小腸・肝・膵・肺移植での頻度が高い.限られた情報ではあるが移植臓器別に危険因子が挙げられているが,これに基づいた抗真菌薬の予防投与や先制攻撃的使用についてはその効果について充分な証明のなされていないものも多い.術前状態や手術因子,免疫抑制因子も含めた移植領域の特性に基づいた症例の階層化を行い臨床的裏付けに基づいたテーラー・メードの指針に到達するためには,多くの試案と検証とを繰り返していく必要がある.
著者
丸山 隆児 福山 国太郎 加藤 卓朗 杉本 理恵 谷口 裕子 渡辺 京子 西岡 清
出版者
The Japanese Society for Medical Mycology
雑誌
日本医真菌学会雑誌 (ISSN:09164804)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.265-268, 2003-10-30 (Released:2009-12-18)
参考文献数
16
被引用文献数
6 4

フットプレス培養,患者家庭塵埃培養などによる検討結果をもとに,足白癬の感染予防策をまとめた.(1)足白癬患者の足底からは高率に白癬菌散布が生じているが,抗真菌剤の外用を行うことで散布を抑制することが可能である.(2)すでに散布された白癬菌は乾燥状態におけば1ヶ月程度のうちに急速に死滅するが,湿潤した状況下では半年以上にわたって生存する可能性があり,白癬菌に汚染された浴室やバスマットなどは定期的な清掃,洗濯などを行う必要がある.(3)靴を脱いで不特定多数のものが利用する区域では,非罹患者の足底に白癬菌の付着が生ずることが多く,靴下をはいていても菌の付着を完全に予防することは難しい.ただし,付着した白癬菌は足を拭く,洗うなどの簡単な処置で角層内へ侵入する前に除去可能である.家族内感染を防ぐには(1),(2)に従って対応し,家族外感染については(3)に従って対応する習慣を遵守すれば,新たな足白癬の罹患をかなりの程度で予防可能であると考える.
著者
古賀 哲也
出版者
日本医真菌学会
雑誌
日本医真菌学会雑誌 (ISSN:09164804)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.151-154, 2009 (Released:2009-08-05)
参考文献数
14
被引用文献数
5 5

Infections with dermatophytes are generally confined to the keratinized stratum corneum. This superficial site of infection may protect the infecting dermatophytes from direct contact with some of the effector cells of the immune system; therefore, the immune system has developed a special subsystem in the skin to eliminate them.The innate immunity and acquired immunity (delayed-type hypersensitivity response) are both required for cutaneous immune surveillance against dermatophytes in the skin.Epidermal keratinocytes not only have an important structural role in forming a physical barrier to dermatophytes but also are important functionally in mediating cutaneous immune reactions. These cells can secrete proinflammatory cytokines, chemokines, and anti-microbial peptides in response to dermatophytes. The T cell-mediated delayed-type hypersensitivity response to dermatophyte antigens may play a central role in both pathogenesis of the typical skin lesions and an acquired, relative resistance that affords partial immunity to the host. However, the exact form of effector T cell immunity and the cellular and molecular mechanisms which eliminate dermatophytes from the skin are poorly understood. The literature on the immunology against dermatophyte infection is reviewed in this paper.
著者
金井塚 生世
出版者
The Japanese Society for Medical Mycology
雑誌
日本医真菌学会雑誌 (ISSN:09164804)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.343-349, 1993-07-20 (Released:2010-11-18)
参考文献数
29

我々はCandida albicansのsecretory aspartate proteinase遺伝子の塩基配列中にpolymerase chain reaction (PCR) 法による増幅領域を設定し, 273bpの標的DNAがC. albicansで明らかに増幅されることを報告してきた. 今回はこの方法を用いて, 病理組織学的に内臓カンジダ症と診断された剖検材料20件のパラフィン包埋組織からDNAを抽出し, PCR法で診断可能か否かを検討した. その結果, 全例に273bpのDNA断片の増幅が観察され, サザンプロットハイブリダイゼーションでC. albicansのプローブDNAの結合が確認された. しかも, 対照としたカンジダ症でない内臓および脳のパラフィン包埋組織19件からは目的とするDNAの増幅は認められなかった. また, このPCR陽性のパラフィン包埋組織20件に抗カンジダ抗体を用いた免疫組織化学染色を行ったところ, 20件すべてに菌要素の多寡はあるものの陽性所見が認められ, 対照群ではすべて陰性であった. このように, PCR法を用いることにより, 内臓カンジダ症のパラフィン包埋組織からもC. albicansのDNAの検出が可能であることが明らかとなり, 本法はカンジダ症の新たな診断法となり得ることが示唆された.
著者
江上 徹也 野口 美和 上田 成一
出版者
The Japanese Society for Medical Mycology
雑誌
日本医真菌学会雑誌 (ISSN:09164804)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.277-283, 2003-10-30 (Released:2009-12-18)
参考文献数
15
被引用文献数
5 5

耳鼻咽喉科領域の真菌症について総説的に述べた.最も一般的なものは外耳道真菌症で自験例について臨床的,菌学的検討を加えた.同定菌種はAspergillus(A.)terreusが最多で,A. flavus, A. nigerの順であった.アスペルギルス属は手術顕微鏡や内視鏡で外耳道を観察すると分生子頭と菌糸が認められるので,外来での視診時に診断が可能である.Candida属はイースト状の白色耳漏が治療に反応せず頑固に続く際に真菌検査を行って診断される事が多い.市販された抗菌剤の中ではアスペルギルス属に対してはラノコナゾールが抗菌力,殺菌力共に優れていた.A.terreusについて環境由来株と比較すると,外耳道真菌症由来株は麦芽寒天培地での生育速度が遅く,ゲノム上にも相違を認めた.副鼻腔真菌症ではアスペルギルス症が一般的でCT所見で上顎洞に石灰化様の濃痰まだらの粘膜肥厚像を認める.内視鏡下に中鼻道を拡大して,fungus ballと呼ばれる乾酪状物質を除去し,副鼻腔のdrainageと換気を改善すれば予後良好である.稀ではあるが眼症状,脳神経症状を合併する場合は致死的疾患としてムコール症を忘れてはならない.咽喉頭カンジダで成人の場合は免疫不全,特にエイズに注意が必要である.