- 著者
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岡野 誠
北脇 裕士
- 出版者
- 宝石学会(日本)
- 雑誌
- 宝石学会(日本)講演会要旨
- 巻号頁・発行日
- vol.31, pp.18, 2009
黒色不透明石の鑑別は、一般の透明宝石に比べて困難なことが多い。内部特徴の観察が不可能なことが主な要因であるが、単結晶鉱物や岩石あるいは模造石など黒色不透明な素材の範囲が広いことも一因である。<BR> かつてブラック・カルセドニーは、黒色不透明石の中で最もポピュラーなもののひとつであった。スピネル、オージャイト、テクタイト、オブシディアン、黒色ガラス(模造石)などの多くの黒色石はその代用品とされていた。<BR> 1990年代後半からは"ブラック・ダイヤモンド"がジュエリー素材として使用され始め、小粒石が多数個セッティングされたデザインが流行した。この "ブラック・ダイヤモンド"には_丸1_ナチュラル・カラー、_丸2_照射処理されたもの、_丸3_高温で加熱処理されたものが含まれているが、現在流行の主流は_丸3_の高温加熱処理されたものである。<BR> また、"ブラック・ダイヤモンド"のジュエリーにはブラック・キュービックジルコニア(CZ)やモアッサナイトなどの類似石が混入していることもあり、鑑別をより困難なものにしている。さらに最近になって、ブラック・スピネルにコーティング処理が施され、ブラック・ダイヤモンド様の金属光沢を呈するものや青色金属光沢を有するものを見かけるようになった。<BR> 標準的な鑑別検査<BR> 黒色不透明石の鑑別には、屈折率測定や拡大検査が有効である。しかしながら、セッティングの状況によっては屈折率測定が不可能となり、ブラック系の宝石は不透明なため内包物の観察が困難である。したがって、強いファイバー光源を使用した丹念な検査が不可欠である。"ブラック・ダイヤモンド"は金剛光沢とシャープなファセットエッジが特徴で、針状の黒色内包物や微細なグラファイトの密集等が認められる。<BR> レントゲン検査<BR> ダイヤモンドと類似石の識別にはX線透過性(レントゲン)検査が有効である。特に多数個がセッティングされているジュエリーにはまとめて検査できる上に写真撮影を行うことで、ジュエリーのどの石が類似石かを記録することが可能である。<BR> 蛍光X線分析<BR> 元素分析は素材の同定を行う上で極めて有用である。黒色ガラスにおいても組成の違いでテクタイト、オブシディアン、模造石(人工ガラス)の識別も可能である。<BR> 顕微ラマン分光分析<BR> ラマン分光分析はラマン効果を利用して物質の同定や分子構造を解析する手法で、数ミクロン程度の試料や局所分析にきわめて有効である。ジュエリーにセッティングされたものでも個々の分析を短時間で行うことができ、ダイヤモンド、モアッサナイト、CZ等を明確に同定することが可能である。