著者
阿依 アヒマディ 北脇 裕士 岡野 誠
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨 平成16年度 宝石学会(日本)講演論文要旨
巻号頁・発行日
pp.10, 2004 (Released:2005-04-06)

宝石素材に供される岩石・鉱物の真偽を判断するためにはいくつかのラボラトリーの分析が行われる。すなわち、異なる波長 (UV-Vis-IR)による分光分析、蛍光X線分析 (XRF)、走査型電子顕微鏡に付属するエネルギー分散型X線分析や電子線プローブマイクロアナライザー(EPMA)などである。XRF分析は簡単便利で主元素と微量元素を同時に分析できる手法である。測定対象はバルク状、粉末状など、多様な試料を測定することができ、宝石素材の分析には非常に有効である。更にこれより高感度の超微量分析を行う場合はICP-AES、ICP-MSなどの手法があるが、通常試料を酸で溶解、もしくはアルカリで融解し溶液化する必要があり、宝石素材には使用できない。また、微小領域の分析では元素マッピング機能をもつEPMAを用いるが、前処理が必要なことやPPMオーダーの分析には感度が十分ではないなどの欠点がある。 このように宝石鉱物の高感度分析には従来の分析手法にはそれぞれの限界がある。そこで当技術研究室ではICP-MSの高感度を維持しつつ固体試料で局所分析が行えるレーザー・アブレーション(LA)―ICP-MS分析法に着目し、宝石鉱物の化学組成及び微量元素~極微量元素分析への応用を開始した。 宝石の地理的地域の産地鑑別はそれを行うそれぞれの鑑別ラボの意見であり、その宝石の品質や価値を示唆するものではない。このことはCIBJOのルールにおいても基本理念となっている。とはいっても検査するラボごとに異なる見解がでるようでは顧客は混乱することになり宝石鑑別ラボの信用を落とす結果となる。産地鑑別を行う以上はより精度の高い科学的根拠の下に行われるべきである。 本報告では(LA)―ICP-MS分析法を用いて極微量に含有される不純物元素の分析を行うことにより、サファイアやエメラルドの地理的産地鑑別の可能性について言及する。
著者
江森 健太郎 北脇 裕士 岡野 誠
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨
巻号頁・発行日
vol.34, 2012

2001年9月頃からBe拡散処理が施されたオレンジ/ピンクのサファイアが大量に日本国内に輸入され話題となった。当初は輸出国側から一切の情報開示がなく、"軽元素の拡散"という従来にはなかった新しい手法であったことから、鑑別機関としての対応が遅れる結果となった。その後の精力的な研究によってBe拡散処理の理論的究明には進展が見られたが、軽元素であるBe(ベリリウム)の検出にはSIMSやLA-ICP-MSなどのこれまでの宝石鑑別の範疇を超えた高度な分析技術が必要となり、その後の検査機関のあり方を問われる結果となった。<BR>LA-ICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析装置)は、軽元素を含む多元素同時分析による高速性と、ppb~ppmレベルの分析が可能な高感度性能を持つ質量分析装置である。鉱物等の固体試料の測定にはレーザーアブレーションにより直径数10μm程度の極狭小な範囲を蒸発させる必要があるが、Be拡散処理サファイアの鑑別には欠かせない新たな分析手法として宝石学分野においても活用されるようになった。さらにLA-ICP-MSは蛍光X線分析では検出できない微量元素の検出が可能であるため、それらの検出された微量成分の種類や組み合わせがケミカル・フィンガープリントとして宝石鉱物の原産地鑑別に応用されている。既にコランダム、エメラルド、パライバ・トルマリンなどでは多くの研究例があり、一定の成果が上がっている。<BR>本研究では、これらのLA-ICP-MS分析法の宝石学分野における他の重要な応用例の1つとして、天然及び合成ルビーの鑑別法について検討した。<BR>1990年代初頭、新産地であるベトナム産ルビーの発見と同時期に大量の加熱処理されたベルヌイ法合成ルビーが宝石市場に投入された。加熱が施されることにより、鑑別特徴であるカーブラインが見え難くなり、さらに液体様のフェザーが誘発されることで、識別が困難となった。1990年代半ば以降にはフラックス法によるカシャン、チャザム、ラモラ等の合成ルビーに加熱処理されたものが出現した。特にフラックス法合成ルビーは加熱によって内部特徴が変化すると、標準的な鑑別手法では識別が極めて困難となり、他の有効な鑑別手法の確立が必要とされている。本報告では、ベルヌイ法、結晶引上げ法、フラックス法、熱水法等の合成ルビーをLA-ICP-MSで分析し、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu等の遷移元素や希土類元素等の相違について纏めた結果を紹介する。
著者
北脇 裕士 阿依 アヒマディ 岡野 誠
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨
巻号頁・発行日
vol.28, pp.10, 2006

一昨年9月に鑑別表記のルール改定が行われ、コランダムについては大きな変更と新たなカテゴリーが設けられた。このきっかけになったのが、2002年以降突如として出現したBe拡散処理されたパパラチャ・カラー・サファイアである。当初は輸出国側から一切の情報開示がなく、"軽元素の拡散"という従来にはなかった新しい手法であったことから、業界としての対応も後手を踏む結果となった。その後の研究によってある程度の理論的究明には進展が見られたが、Be(ベリリウム)の検出にはSIMSやLA-ICP-MSなどのこれまでの宝石鑑別の範疇を超えた高度な分析技術が必要となり、今後の鑑別技術のあり方を問われる結果となった。<BR> Be拡散による主な色変化は2価の元素であるBeがコランダム中の3価のAl(アルミニウム)を置換することによって生じるトラップド・ホール・カラ・センターによってイエローが生じることによって説明がなされている。したがって、特にイエロー系のサファイアは加熱・非加熱あるいはBe拡散処理の識別が極めて困難な現状である。<BR> さて、今年の初め頃からバンコクのマーケットではBe拡散処理されたブルー・サファイアが見られるようになり、宝石業界の新たな脅威となりつつある。Gem Research Swiss lab (GRS)では2005年の11月にBe拡散処理ブルー・サファイアを確認しており、今年の初め頃より増加の傾向にあると報告している。日本国内でも少数ながら発見されており、宝石鑑別団体協議会(AGL)では各会員機関に注意を呼びかけている。<BR> GAAJラボで確認したBe拡散処理ブルー・サファイアには特徴的な円形~らせん状のインクルージョンが見られ、これが一般鑑別における重要な手がかりとなる。しかし、類似したインクルージョンはBe処理されていないものにも見られることがあり、最終的にはLIBSあるいはLA-ICP-MSによる分析が必要となる。これらのBe拡散処理されたブルー・サファイアからは数ppm~10数ppmのBeが検出されており、色の改変を目的に意図的にドープされたものと考えられる。<BR> さらにこれとは別にLA-ICP-MSにおいて1ppm以下のBeが検出されることがあり、これらはBe拡散処理に用いたルツボの再利用あるいは電気炉の汚染による偶発的な混入と推測されるが、このようなケースでの情報開示について国際的な議論がなされている。
著者
小林 泰介 北脇 裕士 阿依 アヒマディ 岡野 誠 川野 潤
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨
巻号頁・発行日
vol.32, pp.11, 2010

最近、アフリカのモザンビーク産と称されるルビーを検査する機会が増えている。GAAJ-ZENHOKYOラボでも、実際の鑑別ルーティンで、2009年3月頃からこのようなモザンビークの新鉱山産であると考えられるルビーを見かけるようになった。今回はこれまで検査したモザンビーク産と思われるルビーの鑑別特徴について報告する。<BR>拡大検査では、タンザニアWinza産のルビーに見られるような顕著な双晶面や、液体-液膜インクルージョン、ネガティブ・クリスタル、透明および黒色不透明な結晶インクルージョン、および微小インクルージョンなどが見られた。表面近くに存在していた結晶インクルージョンをラマン分光分析および蛍光X線組成分析により同定した結果、最も一般的に見られる結晶は角閃石(パーガサイト)であることがわかったほか、アパタイトも確認された。<BR>赤外分光スペクトルには、3081cm-1と3309cm-1の吸収がペアになったブロードな吸収バンドが現れる。これらの吸収は、フラクチャー中に存在するベーマイトに起因する可能性があり、高温で加熱されたルビーにはこのような吸収バンドは現れない。顕著な3161cm-1の吸収ピークがタンザニア Winza産のルビーの赤外吸収スペクトルに特徴的に現れるように、このようなペアになった赤外吸収スペクトルは非加熱のモザンビーク産ルビーの識別に役立つと思われる。さらに、ベーマイトに起因すると考えられる2074cm-1と1980cm-1の弱い吸収が付随する場合もある。<BR>蛍光X線分析により化学組成を分析した結果、主元素であるAl2O3のほか、酸化物として0.3~0.8 wt%程度のCrと0.2~0.5 wt%程度のFeが検出された。このようなFeの含有量は、ミャンマー産やマダガスカル産などの非玄武岩起源のものよりも高く、タイ産のような玄武岩起源のものよりは低い。LA-ICP-MSによる微量元素の分析結果では、タンザニア Winza産のルビーの場合に比べ、Ti,V,Cr,Gaの含有量が高く、Feの含有量が低い事がわかった。<BR>モザンビーク産ルビーは、地理的地域が近接していることもあり、タンザニアのWinza産ルビーと類似した宝石学的特徴を有しているが、分光スペクトル及び微量元素分布を詳細に比べることによって両者の識別が可能であることがわかった。今回はこれに加えて、非加熱のモザンビーク産ならびにタンザニア産ルビーの原石を用いた加熱実験を試み、処理に伴う外観、内部特徴および分光スペクトルの変化などについても検証した。
著者
石川 健治 小島 慎司 宍戸 常寿 岡野 誠樹 西村 裕一 山羽 祥貴
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2020-04-01

本研究は,およそ,五・一五事件が生じた1930年代初めから,内閣に憲法調査会が設置された1950年代半ばまでを対象とし、そうした体制変革期における憲法および憲法学を考究する。その際、当該時代における日本の憲法学を連続するものとして捉えること,それらを歴史的・理論的に考究するだけでなく、そうした歴史研究と理論研究の有機的結合を試みること、の2点に注力する。それらの歴史的解明は,個々の論者の理論枠組みを踏まえてはじめて果たすことができる一方(「理論」を踏まえた「歴史」研究),個々の理論や解釈論も,当時の政治的文脈に置いてこそ、その真価を問うことができるからである(「歴史」を踏まえた「理論」研究)。
著者
岡野 誠 北脇 裕士
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨
巻号頁・発行日
vol.31, pp.18, 2009

黒色不透明石の鑑別は、一般の透明宝石に比べて困難なことが多い。内部特徴の観察が不可能なことが主な要因であるが、単結晶鉱物や岩石あるいは模造石など黒色不透明な素材の範囲が広いことも一因である。<BR> かつてブラック・カルセドニーは、黒色不透明石の中で最もポピュラーなもののひとつであった。スピネル、オージャイト、テクタイト、オブシディアン、黒色ガラス(模造石)などの多くの黒色石はその代用品とされていた。<BR> 1990年代後半からは"ブラック・ダイヤモンド"がジュエリー素材として使用され始め、小粒石が多数個セッティングされたデザインが流行した。この "ブラック・ダイヤモンド"には_丸1_ナチュラル・カラー、_丸2_照射処理されたもの、_丸3_高温で加熱処理されたものが含まれているが、現在流行の主流は_丸3_の高温加熱処理されたものである。<BR> また、"ブラック・ダイヤモンド"のジュエリーにはブラック・キュービックジルコニア(CZ)やモアッサナイトなどの類似石が混入していることもあり、鑑別をより困難なものにしている。さらに最近になって、ブラック・スピネルにコーティング処理が施され、ブラック・ダイヤモンド様の金属光沢を呈するものや青色金属光沢を有するものを見かけるようになった。<BR> 標準的な鑑別検査<BR> 黒色不透明石の鑑別には、屈折率測定や拡大検査が有効である。しかしながら、セッティングの状況によっては屈折率測定が不可能となり、ブラック系の宝石は不透明なため内包物の観察が困難である。したがって、強いファイバー光源を使用した丹念な検査が不可欠である。"ブラック・ダイヤモンド"は金剛光沢とシャープなファセットエッジが特徴で、針状の黒色内包物や微細なグラファイトの密集等が認められる。<BR> レントゲン検査<BR> ダイヤモンドと類似石の識別にはX線透過性(レントゲン)検査が有効である。特に多数個がセッティングされているジュエリーにはまとめて検査できる上に写真撮影を行うことで、ジュエリーのどの石が類似石かを記録することが可能である。<BR> 蛍光X線分析<BR> 元素分析は素材の同定を行う上で極めて有用である。黒色ガラスにおいても組成の違いでテクタイト、オブシディアン、模造石(人工ガラス)の識別も可能である。<BR> 顕微ラマン分光分析<BR> ラマン分光分析はラマン効果を利用して物質の同定や分子構造を解析する手法で、数ミクロン程度の試料や局所分析にきわめて有効である。ジュエリーにセッティングされたものでも個々の分析を短時間で行うことができ、ダイヤモンド、モアッサナイト、CZ等を明確に同定することが可能である。
著者
江森 健太郎 北脇 裕士 岡野 誠
出版者
一般社団法人日本鉱物科学会
雑誌
日本鉱物科学会年会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2012, 2012

LA-ICP-MS分析法は宝石学の分野では、Be拡散加熱処理サファイアの鑑別や、コランダム、エメラルド、パライバトルマリンの産地鑑別等に応用されてきた。今回の報告では、近年鑑別が非常に難しくなってきている合成ルビーと天然ルビーの鑑別について、LA-ICP-MSを用いた微量元素の分析という観点から研究を行った。結果、合成ルビーと天然ルビーを分別することが可能であり、合成ルビーに関しては製造者を特定することも可能であることが判明した。
著者
土肥 義和 岡野 誠 片山 章雄
出版者
財団法人東洋文庫
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

標記研究課題に対する研究成果は、次の(1)~(4)の通りである。 (1)ロシア科学アカデミー東洋学研究所サンクト・ペテルブルグ分所所蔵の胡語文献の裏面 に書かれた漢語文献の目録原稿を作成し、そのうちの非仏教文献の録文を公表した。(2)旅順 博物館所蔵の『唐律』『律疏』断片のカラー写真を学界に提供し、既発表論文のいくつかの論点 をより正確にした。また、旅順博物館所蔵吐魯番出土の唐代の田制等社会経済文書と墓葬再利用文書の文献・彩画両面資料とを実見し、それらと龍谷大学所蔵の大谷文書等との綴合を示した。さらに、綴合によって復原された唐代の官文書の史料的位置づけを行った。(3)敦煌仏教との比較資料として、開封市の繁塔に見える北宋初期の仏教石刻資料を増補し、その全体像を 提示した。(4)胡語文献の研究と関わって洛陽のソグド人「安菩夫妻」の墓と墓誌を調査し、 その成果を公表した。